未来卵
妹が病気で死んじゃった時、僕は、もしも、僕が代わりに死んであげられたら、て本気で思ったよ。
朝も夜も、一人っきりの毎日が始まった……。僕はそんな時、君達を見つけたんだ。
まあやちゃん。君を見つけたんだよ……。
笑ってる君達を見て、泣いている君達を見て、僕は人生ってそういうものだと思い出した。
それからは、明日死んでも後悔しないよう生きようと、誰にでもなくただ誓いを立てたんだ……。
だからね、君達を、君を。大好きな理由は、出逢いと、始まりと共にあるんだよ。
そして、終わりは僕が死ぬ時だ。
まあやちゃん。ありがとう――。今のは、出逢った時の分。
まあやちゃん、ありがとう――。そしてこれは、今の君へ。
まあやちゃあん、未来永劫、大好きだよ!
「まあやちゃーーーーーっん‼」
来栖栗鼠は、誇らしく微笑み、毅然と胸を張ってその名前を呼ぶ。和田まあやと、心を込めて、ありがとうの意味を込めて――。
皆さん、本当に、ありがとうございました――。
ステージを後にしていく彼女達は明るく、和田まあやも笑顔で『バイバイ』と囁きを残し、そのステージを後にした。
すぐに開始されるクラップ&クラップ。
その音はオーディエンスが創り出す心音。
止まらずに鳴り響く。
クラップ。クラップ。クラップ。
クラップ。クラップ。クラップ。
本当に彼女が好きだから、アンダーが好きだから。
オーディエンスはそこにいる。
配信を見守るファンがいる。
彼らは知っているのだ。
一度締めくくられたその幕が、
やがてもう一度開く、その瞬間を――。
再度、そのステージにライトが当てられる――。
乃木坂46が、真ん中の路を開け、登場してきた和田まあやは、淡いオレンジの光り輝くロング・ドレス姿であった。腰に特大のリボンを結んだ可愛らしいデザイン。大きなリングのピアスが眩しく煌(きら)めいている。
『気付いたら片想い』が始まった……。センターは和田まあやである――。
天野川雅樂はにやけながら、その涙を親指ではらった。
最後のライブなんですよね、まあやちゃん。すげえライブっす……。
一生忘れねえライブっす。
一生大好きなライブっす。
一生、大好きです、まあやちゃん……。
辛い奴ほど、笑顔でいるって、どっかで聞いた事あります。来栖の奴もそうですし、きっとまあやちゃんもそうだったと思います。
俺なんか、幸せ者っすよね……。普通にメシが食える環境で、親に迷惑もかけて、好き放題やって、これまで生きてきました。俺はこのファン同盟の中じゃ、何の変哲もない普通の人生送ってきた奴っす。
それでも、俺的には、色々ありました。自分の人生、後悔して、反省した時でした。まあやちゃん達、乃木坂46と出逢いました……。
気づいたら片想い、そのままっすけど、ほんとにそうで、そのままっす。乃木坂46みてえに光の中で、綺麗な心で、ふっつうの人生歩んでいきてえと泣いた夜がありました。
それだけっす。俺なんてそんなもんす。けど……。まあやちゃんを大好きな心は、本物みてえです。
正直、さみしいっす……。
涙、止まらねえっす……。
俺は、笑顔のまあやちゃん達乃木坂のみんなに、叱られた気持ちでした。ちゃんとしろって。そうじゃないだろ、て……。
また言って下さい、ちゃんとしろって……。
そしたら、俺……。
笑ってまた、生きて行けますから。
まあやちゃん、大好きっす……。
笑って下さい。これからも、ずっと――。
「まあやちゃん。まーあーやーちゃーーーっん‼」
天野川雅樂は、鼻水と涙をそのままに、巨大スクリーンの和田まあやを強く見つめ続ける。いつか、素直であった子供の時のような、純粋な泣きべそのままで。
『最後のこの数分間、楽しんでいきましょう~‼』と、和田まあやは笑顔で場内を煽(あお)った。『狼に口笛を』が始まった――。
風秋夕は笑みを浮かべて、巨大スクリーンの和田まあやを強く見つめる……。
まあやちゃん……。11年だってよ、まあやちゃん。俺もまあやちゃんも、大人になっちゃったね。本当に色々あったね……。
乃木坂46という大きな大きな夢の中にいた……。ずっといた……。
何万回ぐらい、まあやちゃんの名前を口にしたんだろう。いつも明るい話題だった気がする。悲しい顔も見てきた。でもその100倍ぐらい、明るく笑ったまあやちゃんを知ってる。
あっという間の時間だったね。
だけど、最高だった。
だから、泣いちゃうよね。まあやちゃんが行くっていうと。
俺の世界、そのものだったよ。乃木坂も、まあやちゃんも。、もう単なる愛じゃない。敬意がある。乃木坂は、まあやちゃんの笑顔は、もう風秋夕のプライドそのものだった。
和田まあやの笑顔がくれた時間って、とてもじゃないけど例えられなくて……、そうだな、きっと、俺の野心そのものを、その形を、もっと素敵なものへと変えた、まるで魔法だった。
本当はね、卒業って聞くとね、壊れそうになるぐらい、震えるんだ。でもね、まあやちゃんはどこにいても笑ってくれてた。アンダーにいたまあやちゃん、ちゃんとしっかり見えてた。
どこにいたって楽しそうに笑う君の卒業に、壊れて震えて、砕け散ってしまっても仕方が無いとは思うけど……。
俺はこの言葉を、どうせなら、笑顔でまあやちゃんに伝えたいから。
強い気持ちでいる。
強い気持ちで言う。
君が、大好きだって――。
「まあやちゃーーーん! まあやちゃ~~~んっっっ‼」
風秋夕は迷いなくまっすぐに和田まあやを見つめて、微笑む。何年分の想いを思い浮かべながら笑うその頬に、すっと、一筋の涙が伝い落ちた……。
『左胸の勇気』が始まる――。
磯野波平は溢れてくる涙を、唇を強く噛んでこらえる……。
ありがとうな……。ありがとうな、まあやちゃん……。
心が、あったけえ。
ほら、わかるか、まあやちゃん。
心がほっかほかだ……。
俺だって負けそうになる時はある。泣きてえ夜だって来る。だけどな、心はいっつも、ほっか、ほっかだ、まあやちゃん……。
色んなところで助けてもらってる。ちゃんとわかってんよ。人間死ぬときゃ一人だが、一人じゃ生きていけねえ。なんて不器用なんだろうな、人間ってよ。乃木坂が教えてくれたぜ、夢中になるっつう、なんつうのか、なんて、言葉にしたらいいんだろうな……。
夢中になった分だけ、人生笑ってられるって事をさ。
泣くときゃある。いっぱいあるよな。だけど、決してマイナスな涙じゃあねえんだな、それっしか俺にゃあわからねえが、まあやちゃんがくれる楽しい時間は、涙の夜も抜け出せるだけのパワーがあったぜ。
心はな、いっつでも、ほっかほっかに、あったけえんだ。
ありがとうな、ありがとうな、生まれてくれて、ありがとうな。
出逢ってくれて、ありがとうな。
俺を許してくれて、ありがとうな。
こんな俺だが、まあやちゃん、あったけえ心で言わせてもらぜ。
こんなに長い間、お世話になりました……。
本当に、ありがとう――。
「まあや……、ま~~やちゃあああーーーーんっ‼」