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未来卵

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 洗い場では磯野波平が「ノリダぁぁ~、カ~ニバァァル‼‼」と言って姫野あたるにラリアットをしていた。姫野あたるは頭を洗っている最中に吹き飛ばされて、「あっひい!」と着地を失敗している。
「イナッチ知ってたこれ……」
 風秋夕は口元をにやけさせて、その眼を浪漫(ろまん)いっぱいに笑わせた。
「おお~~い、まあやちゃ~~~ん!!」
 稲見瓶は「え」と呟(つぶや)いている。
 壁の向こう側からは、和田まあやの「ほ~~いよ~!」という叫び声が返ってきていた。
 風秋夕は叫ぶ。
「まだ上がらなぁい?」
 和田まあやから、「う~んあと五ふ~~ん!」という声が返される。
「了解! そしたら休憩室で一緒に、風呂上がりのいっぱいやろうね~!!」
 和田まあやから「おっけ~い!」という声が返ってきた。
 プロレスを開始した磯野波平と姫野あたるを尻目に、風秋夕は稲見瓶にどや顔を向ける。
「温泉とかの、これが夢で、わざと後々、設計に組み込んでもらったんだぜ? この声の届く大浴場……。どうよ、イナッチ。気分は温泉の、女湯と男湯の壁一枚のロマンスだろ?」
 稲見瓶は無表情で答える。
「どうって、サカるよね」
「こぉら‼‼ ハウスぅぅっ‼」
 風秋夕は焦(あせ)るように叱(しか)った。
 二千二十二年十一月八日――。時刻はPM七時を丁度回ったあたりである。
 浴衣姿で休憩室に集まった、和田まあや、遠藤さくら、金川紗耶、清宮レイ、松尾美佑、風秋夕、稲見瓶、磯野波平、姫野あたる、駅前木葉、御輿咲希、宮間兎亜の十二人は、大型冷蔵庫の前に並び立つ。
 風秋夕は、それぞれ、コーヒー牛乳、アイス・カフェオレ、アイス・コーヒー、アイス・カフェラテと手にした十一人を前に、笑顔で言う。
「風呂上りはこれが儀式みたいなもんだ、みんなでやらなきゃ嘘だ」
 姫野あたるは微笑む。
「用意はいいでござるか?」
 稲見瓶は言う。
「手は、腰にね」
十二人全員が、片手を腰に置いて、上を向き、一斉(いっせい)にコーヒー牛乳、またはアイス・カフェオレ、アイス・コーヒー、アイス・カフェラテをごくごくと飲み込んだ。
「ぱはあ~~、これをみんなでやらないとなやっぱ!! ん~風呂上がり最高!」
 風秋夕は笑顔ではしゃいだ。皆はそれぞれに雑談を始め、休憩室のところどころへと散らばっていく。タワーファンやサーキュレーターが大活躍する中、室内温度は25度に設定されていた。
 サークル上のテーブル席で、稲見瓶は向かいに座る遠藤さくらと清宮レイに言う。
「皆既月食、そろそろ見ないと、見逃す事になるかもね」
 清宮レイは大きなリアクションを取った。
「はあ、そうじゃ~~ん! ね早く行こぉ? さく」
 遠藤さくらは微笑む。
「うん。えイナッチ、この建物の、地上、二階に、行けるの?」
「50人ぐらいなら屋上に出れるだろうけど、天体望遠鏡は三個だけだね」
「早い者勝ち!」
 清宮レイは席を立ち上がって、慌てる遠藤さくらの手を取って移動を始める。
 和田まあやはサークル上のテーブル席の向かいに座る風秋夕と姫野あたるに言う。
「えー月、もう見ないとあれじゃない? 終わっちゃうんじゃない?」
「ああ惑星食か……。うし、じゃあ、行くかね」
「行くでござる」
「ほ~い」
 和田まあやと風秋夕と姫野あたるも、地上に顔を出す、巨大地下建造物の借りの姿である二階建て建造物の屋上を目指して移動を始めた。
 駅前木葉は、サークル上のテーブル席に己と共に座る御輿咲希と宮間兎亜に言う。
「みんな動き始めましたね、皆既月食です、おそらくは。見に行きますか?」
「ええ行きましょうよ駅前さん、とーちゃん、400年ぶりだそうよだって」
「って言ってもね~、別にあたい400年もそれ待ってたわけじゃないし~」
 ソファにて座っている金川紗耶は、松尾美佑に言う。
「え、てかみんなどこ行くんだろう………。みんななんか帰っちゃうよ?」
「あれじゃない? お月様、じゃない? 今日たぶん皆既月食だよ」
「えーじゃあ、外に出たって事ぉ?」
「あ、ついてった方がいいかなあ?」
「え見ようよだったら、せっかくだし!」
「じゃあ、ついて行ってみよ」
 金川紗耶と松尾美佑は地上へと動き出した。
 大型の全身ミラーの前で、マッスル・ポーズにあけくれている磯野波平は、誰にでもなく囁く。
「これがな? おら、もっこりすんだろ……、これはな、誘惑の筋肉、つんだ。名前付けてあっからよぉ、がっはは、な?」
 磯野波平は上機嫌で後ろを振り返ったが、そこには誰の姿も無かった。
 地上二階の屋上にて、天体望遠鏡を覗き込んでいるのは、清宮レイと、遠藤さくらと、和田まあやであった。残る八名は裸眼で惑星食を見上げている。
 442年ぶりとなる赤黒い輪郭(りんかく)をした惑星食が展開されていた。
 風秋夕と稲見瓶と姫野あたるは、隅っこの灰皿の前で煙草を吸っている。
「せばれるね~~フウ~~、寒みい寒みい……」
「いや、おほん……。月を見上げる乃木坂を見つめながら、風呂上がりの一本。間違いなく、美味しくないわけがない」
「小生は、もう煙草やめるでござるよ」
「え?」
「なぜ?」
 姫野あたるは二人の意外にも大きかったリアクションに面食らった。
「いやあ……、身体に、悪いでごろうし……。それに、キスをした時、煙草臭いと言われてしまうでござろう?」
「で誰とキスのご予定が?」
 風秋夕は座視で言う。
「0も100も、気持ち次第でござるよ。ピンチはチャンス、でござる」
「それ使い方間違ってないかぁ?」
 風秋夕は柵に肘を置いて、頬杖(ほおづえ)をついた。稲見瓶も、柵に背を預ける。
「小生は会話に交じってくるでござるよ。みんな~、見えてるでござるかぁ~?」
 和田まあやが、風秋夕と稲見瓶の前まで笑顔で歩いてきた。
「ふう、風邪ひきそう……」
「戻ろうか?」
 稲見瓶は灰皿に煙草を捩じり消しながら微笑んだ。
 風秋夕も、和田まあやの方を向く。
「まあやちゃん、ばつぐんに綺麗だぜ……」
「んふ何? ありがと!」
「戻りますか」

 二千二十二年十一月十七日――。この日の夜、和田まあやは〈リリィ・アース〉に訪れていた。地下六階の〈無人・飲食店〉三号店で、今は三期生の中村麗乃と、四期生の賀喜遥香と、黒見明香と、柴田柚菜と、清宮レイと、田村真佑と、筒井あやめと、早川聖来と、林瑠奈と、矢久保美緒と、弓木奈於と、柚子の鍋とキムチ鍋を楽しんでいた。
 乃木坂46ファン同盟からの参加者は、姫野あたると御輿咲希と宮間兎亜の三人である。
 こちらの座敷の間では、黒見明香と清宮レイと筒井あやめが並びに座り、その正面向かいの席に、林瑠奈と矢久保美緒と弓木奈於が座っていた。六人は談笑を楽しみながらキムチ鍋を中心として、鉄板上にお好み焼きやもんじゃ焼きを焼きながら食事を進めている。
「え」
 清宮レイは筒井あやめの顔を見る。
「うん、今日、オフよ、私……」
 筒井あやめは誠実な表情でもう一度答えた。
「えあやめちゃん今日オフだったんだ~、なら、もっと早く連絡くれればいいのに……」
「えレイちゃんもオフ?」
「うん」
 黒見明香は誰にでもなく全員に囁く。
作品名:未来卵 作家名:タンポポ