未来卵
「これ食べれるかな~~、こんなに、太っちゃわないかな~? あでも、ご飯粒食べてないから、だいじゅぶか」
弓木奈於は人知れず笑い堪えて言う。
「それ、そのさ、くろみんのそれってさあ、独り言?」
「えぇ?」
黒見明香は座った眼で笑みを浮かべる。
「出たよしゃべってんじゃん、みんなで」
「奈於それが、どっちかさっきっからわかんなくて……。答えようか、どうしようか迷ってた」
「おい林~、お好み焼き、焦げるぞ」
矢久保美緒はお好み焼きを見つめながら言った。
「いや美緒ちゃんがひっくり返せばいいじゃん、べつこれ、別に私の限定じゃありませんからね?」
「あんたばっかさっきっから食ってんじゃん」
「食べ物だからね? それはね、食べるよ、うん」
一方こちらの座敷テーブルには、和田まあやと中村麗乃と早川聖来が一面に座り、その正面向かいとなる席に、田村真佑と賀喜遥香と柴田柚菜が座っている。
その座敷テーブルに並ぶようにして一定の距離、間隔を開けた真横の座敷テーブルに、姫野あたると、その正面に御輿咲希と宮間兎亜が座っていた。
和田まあやは難しい顔で、中村麗乃に笑みを浮かべる。
「はい? ちとも一回言って?」
中村麗乃は楽しげに笑みを浮かべながら「はい」と話す。
「夢なんですけどぉ、夢を見たんですね?」
「うん」
「夢だったんですけどぉ……。まず、悠理ちゃんと一か月間、韓国で旅をしてぇ、咲月ちゃんが六歳だったというよくわからない夢を見ました……」
和田まあやは声を上げて笑う。
中村麗乃は笑みを浮かべながら真剣に説明する。
「まず朝起きて、何が夢で何が本当かわからなかったので、とりあえず咲月ちゃんの年齢を検索しました……ふふ。十七歳で安心しました。へへ」
賀喜遥香は中村麗乃の眼を見て言う。
「何が夢で何が現実なの、て時ありますよね?」
「ある~」
田村真佑は世界中の可愛さを集めたような微笑みを浮かべながら言う。
「かっきーたま~に電話してきますからね、まゆたんもう生放送、始まってるの! て」
「嘘嘘、あー嘘ついた~~」
賀喜遥香は無垢な少女のように田村真佑を指差して笑った。
和田まあやは言う。
「てかこれ、なんの鍋? ゆず、柚子の香りするけど」
柴田柚菜は笑顔で答える。
「柚子鍋です。なんか、メニューにあったので、頼んでみました」
和田まあやは顕在的な笑みで言う。
「うまいね!」
「美味しいです!」
早川聖来は、聖女のように和田まあやの方を見つめて、淑(しと)やかに囁(ささや)く。
「あのぅ、ですね……。この前、ディズニー行ってきたんです」
和田まあやは素早く反応する。
「え誰とぉ?」
「かっきーとぉ、まゆたんとぉ」
和田まあやは、もんじゃを鉄板で焦がしながらにやける。
「ランド? シー? どっち?」
賀喜遥香は一瞬だけ考えて、正面の席の早川聖来を一瞥した。
「ランドぉ、だよね?」
早川聖来はにこにこと答える。
「ランド~」
「楽しかったね~、えまた行こう?」
にこやかにそう言った田村真佑に、すぐに柴田柚菜が甘えた天使のような顔で囁く。
「えー柚菜も~~……。行きたいぃー……」
賀喜遥香は右隣の柴田柚菜に微笑んだ。
「今度は一緒に行こうね~!」
姫野あたるは、そちらの座敷テーブルに身体ごと寄せて、耳を傾けている。
宮間兎亜は呆れた半眼とハスキー声で言う。
「あんた、悪趣味よ、ちょっと……。聴き耳立てるのにもほどってあるわよ」
御輿咲希は初のもんじゃ焼きに夢中になっている。
「こんな……、猫のゲロのようなものが、美味しいんですのね……」
「あんたもあんたで、言うわね……。場所が場所なら出禁よ?」
「不思議ですわね~……」
「ふむふむ、なるほど、まあや殿は、ふむふむ、夏に家で、なんとパンイチに‼‼」
「もうじきクリスマスね~……」
宮間兎亜はテーブルに頬杖(ほおづえ)をついて、深い溜息を落とした。
12
巨大地下建造物〈リリィ・アース〉にもクリスマス・シーズンがやってきた。地上一階の二階建て一軒家の飾りつけも鮮やかなもので、地下二階から最深部二十二階までの広大な面積に関しては一際【メリー・クリスマス】を呟きたくなる内装になっていた。
二千二十二年十二月四日である。
地下十階の〈プラネタリウム・パーティー会場〉にて、今宵主役として招かれているのは、今日この日をもって乃木坂46を卒業する、一期生の和田まあやであった。
150名のプラネタリウム・専用シートが並ぶ観覧席を背景に、大きなサークル上の円卓(えんたく)テーブルが46卓用意されている。テーブル一卓において椅子は八脚用意されていた。
スペシャルサンクス・乃木坂46合同会社
岡本姫奈は、笑顔で現れた奥田いろはに、嬉しそうに手を振ってそのテーブルに受け入れた。
「いろはちゃんとさっきおねんねしてたんだよね? イチャイチャしてた!」
冨里奈央は眼を無くして可愛らしく苦笑する。
「呼んでよ~……。こっちなんか、波平君に追いかけられてたんだから……」
「うんだって波平君、奈央の事見る眼違うもん」
岡本姫奈はふざけて言った。
「やめてよう~、怖いよう」
冨里奈央は手にグラスを取りながら、弱気になる。
岡本姫奈はテーブルに盛られた豪勢な伊勢海老料理とお寿司を見ながら笑う。
「この前ね、アルノとぉ~パンとご飯食べてたんだけどね~」
中西アルノが「やめてよ~」と笑いだした。
岡本姫奈は続ける。
「なんかなんか、ね? 太ももが生温かったの。dね、隣にアルがいて眼の前にパンがいてだったんだけど、う、てなんか温ったかいぞって言ってう、て見たらなんか、アルノのぉ、取った物が落ちててユッケが太ももに落ちててぇ、こいつやった! と思って、ユッケぽとってあたしの太ももに落としてきた!」
中西アルノは苦笑しながら言う。
「土下座したぁ……」
岡本姫奈はお寿司を箸で取りながら言う。
「いつもさー、アルノご飯こぼしてない?」
奥田いろはは笑いながら、伊勢海老を食べようとしたが、どこからどう攻略すればいいのかがわからず、いくらの軍艦を取った。
「だってさー、アルノ、ゼッケン綺麗だった事ないよ? ていうぐらいに―、アルはいっつもなんか落とすの。なーのーに白い服ばかり買うの!」
岡本姫奈の笑い話に、中西アルノは苦笑を強いられる。
「誰か助けてー……。だからね、何か食べる時は横並びには座らないようにしてる」
奥田いろはは不思議そうに言う。
「えー横にいる人に飛ばすの?」
中西アルノは「ちっがう」と笑い始める。
岡本姫奈も可笑しそうに笑う。
「この純粋なねー、いろハラがたまらなく好きよー、いろハラ好きよー」
中西アルノは、伊勢海老を分解していき、ほぐした身を奥田いろはの更に載せながら言う。
「すまんなぁー。ユッケはよく落とす最近、姫奈と、池田さんと、尋常じゃないぐらいほどご飯来てるからさ、ここ」
「ありがと~、わあ」
スペシャルサンクス・秋元康先生
「うあ」
冨里奈央は、先の遠くの視界に、磯野波平の姿を発見し、少しだけ身をかがめた。
奥田いろは、それに不思議そうに小首を傾げていた。