恐竜の歩き方
「愛とはこんなにもっと、力があるのでござるなっ‼」姫野あたるは顔面をしかめながら涙する。タオルはしっかりと振られていた。
「かっきーーっ!」比鐘蒼空は夢中で叫んだ。タオルを回して。
「ちょっとかっきーー凄くなぁい?」宮間兎亜は御輿咲希を一瞥して叫んだ。タオルを回している。
「ええ凄いステージですわね! かっきーー!」御輿咲希は勢いよくタオルを回しながら叫んだ。
『神宮、まだまだ盛り上がって行きますよ~! 声は出せないけど、タオルとサイリュウム、いっぱい見せて~!』という与田祐希の煽りから、与田祐希がセンターの『夏のフリー&イージー』が開始される。開放的に歌い、舞い踊る。『神宮の皆さん、そして配信の皆さん、盛り上がってますか~? 真夏の全国ツアー・ファイナルー、全部出しきれー!』と与田祐希が更に会場と配信でライブを見守るファン達を煽った。
『真夏の全国ツアー、最後ですー、皆さ~~ん! 盛り上がってますか~! 私達と一緒に~、最高の夏の思い出、作りましょー!』賀喜遥香がオーディエンスへと大声で叫び、『おいでシャンプー』が開始される――。陽が沈んできていた。間奏では、賀喜遥香の声に合わせて、乃木坂46全員で『神宮~、ありがとー!』と叫ばれた。
山下美月の『ヘイヘイ神宮~、お前ら行っくぞぉぉ~!』という絶叫に、山下美月センターの『ガールズルール』が始まった――。陽が沈む……。歌詞の『真夏に恋して』の部分では、お約束である秋元真夏のアップが巨大スクリーンに映し出された。また雨が降っている。それが、なぜか、眩しく見える。
齋藤飛鳥の『なんか風強いけど、みんなのタオルはいっぱい見せてくださーい!』から、齋藤飛鳥がセンターの『裸足でサマー』が始まる――。野外ステージならではの、夜の時間が始まっていた。衣装の作り的に、メンバー達の腹部がちらりとセクシーにのぞいている。一斉に水花火(ウォーターキャノン)が上がった。
「飛鳥ちゃーーーんっ‼」風秋夕は、浮かべた笑みをそのままに、大きく叫んだ。「やっべえな!」
「飛鳥ちょわーーっん‼」磯野波平は豪快に叫ぶ。「水の大砲かありゃあ!」
「風が吹いてる……」稲見瓶は齋藤飛鳥を見つめる。「なんてパフォーマンスだ、言葉にならない……」
「飛鳥ちゃん可愛すぎでござるふうぅぅーー‼」姫野あたるは泣き叫ぶ。
「飛鳥ちゃーーっん!」比鐘蒼空はその名を大きく叫んだ。
「夜が始まんな~! 来栖ぅ、こっからが本番だぜえ!」天野川雅樂はにやける。
「飛鳥ちゃーーん!」来栖栗鼠は笑う。「何言ってんの雅樂さぁん、もうとっくに本番だよーっ‼」
「あっすかちゃーーーーん‼」宮間兎亜はとにかく叫んだ。
「あなたの声、届いてそうね」御輿咲希は苦笑した。「飛鳥ちゃーーん!」
齋藤飛鳥は水花火(ウォーターキャノン)に驚きながらも、乃木坂46の挨拶をした。マイクがキャプテンの秋元真夏に渡る。
和田まあやが、私達は、結成11カ月……、違う。と出鼻をくじかれてから、結成11年、と立て直して『もしかしたら、今日会うのが、最後の方とかもいるのかなと、思うと、一瞬一瞬、大切にしていこうかなと思います。今日もよろしくお願いします』と丁寧に笑顔で語った。
山下美月は、8月29日から明治神宮野球場での東京公演のツアーを迎えていて、リハーサルは28日からであったと語る。28日にリハをやっていると、矢沢永吉さんのライブをする音が国立競技場からがんがんに聴こえてきて『私達もテンション高かったじゃないですか。メンバーもテンション高くて、おじさんスタッフさん達も歌っちゃってるぐらい楽しくて』と、曲を歌うスタッフさんなども発生して、矢沢永吉さんの凄さに呆気にとられたと笑顔で語った。
山下美月は『私達もいずれは国立でライブしたい!』とオーディエンスに問いかけると、オーディエンスはサイリュウムとタオルでその声に応じていた。
山下美月は『今日ここに来て下さった皆様を、いつか国立にお連れできるように、今日は矢沢さんに負けないくらいの乃木坂のライブをお見せしたいと思います!』と満面の笑みで語った。
秋元真夏は『オープニングで次の夢を発表するってカッコイイ! 夢の場所だもんね? 頑張りましょう!』と意気込みを笑顔に宿していた。
田村真佑は、タオルに纏わるエピソードを、3人の気持ちも背負って、気合入れてライブを頑張ると、熱く語った。
田村真佑は語る。
『3人はステージには上がれなかったんですけど、タオルで一緒にファイナルを迎える事ができて、本人はいないんですけど、神宮で全員が揃ったような気持ちになって、良いライブにするぞと気合が入りました。全力で駆け抜けたいなと思います!』
田村真佑は3人の想いを背負い、やる気に満ちた覇気で微笑んでいた。
秋元真夏は『3人の事を思うと、より強くなれた気がするので、みんなで頑張っていきたいと思います!』と笑顔で語った。
巨大スクリーンに、5期生――という文字が浮かんだ。
井上和が語る。
『5期生の井上和です……。乃木坂46に加入してから、色々な経験をさせて頂いて、その全てが、新鮮で、楽しい毎日でした――。本当にありがとうございます。けど、その一方で、一年前の自分から、成長出来ているのかな、とか……。去年のあ、昨日の自分と比べて、何か変われているのかなと、不安になる事の、多い、不安になる事も、多かったです。その度に、自分の事が、嫌になりました』
『けど、そんな私でも、大丈夫だと、言ってくれる10人に出逢いました……。背を向けてしまっても……、また、前を向けるように、引っ張って下さる、先輩方や、スタッフさんに出逢いました。そして、乃木坂46が大好きな、ファンの皆さんにも出逢いました……。その全ての人に、感謝の気持ちを伝えられるように、今日はパフォーマンスさせて頂きます。それでは聴いて下さい』
井上和は、言葉に詰まりながら、涙を浮かべながら、仲間との出逢いや、スタッフさん達との出逢いや、ファンとの出逢いを、思いを込めて語った。
井上和のセンターで『絶望の一秒前』が始まる――。5期生とは思えず、世にも見事なパフォーマンスであった。美しく、健全であり、健やかであった。曲が終わりを迎える数秒間の井上和の表情が、透き通った純粋であった。
そして、菅原咲月のセンターの『バンドエイド剥がすような別れ方』が始まった……。菅原咲月を先頭に、5期生の女性としての等身大の魅力が詰まりに詰まった至極の一曲である。
「五期が本気なのが伝わるな‼」風秋夕は微笑んだ。「いっちょこっちも本気で推しますか‼」
「この曲、マジで鳥肌立つぜ~……」磯野波平は聴き入っている。「なんか五期と付き合ってたような、気がしてきた、んだよな~……」
「幻だ」稲見瓶は囁いた。「さっちゃーん!」
「すごーーい五期ちゃん可愛い~~っ‼」来栖栗鼠は大はしゃぎする。
「気持ちも伝わったぜ、和ちゃん!」天野川雅樂は笑みを浮かべた。「えと、誰さけびゃいんだ? んあ~~、五期ぃーーっ‼」
「さっちゃん殿! 和ちゃん殿! さくたん殿!」姫野あたるは泣きながら叫ぶ。「す~ごいでござるふうぅ~もはや大物の風格っ‼」