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恐竜の歩き方

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「それは木村拓哉さん主演、中江巧さん監督の新春スペシャル・ドラマ『教場2』のオファーが発端でござった。ひなちま殿がまずマネージャーに言われた言葉は、『髪切れる?』でござった……」

       9

 二千二十二年十月十二日。現在、時刻がPM七時半を過ぎた頃に〈リリィ・アース〉の地下二十階フロアの北側に在る〈ハードトレーニング・ジム〉にて、阪口珠美が自主トレーニングを終了とさせた。
 地下二階フロアの東側のラウンジでは、樋口日奈と和田まあや、風秋夕と稲見瓶、御輿咲希と宮間兎亜が談笑を楽しみ始めていた。
 凧揚げでも出来てしまいそうな高い天井に、広大な面積のエントランスフロアには、雰囲気を楽しむBGMとしてビッグ・パンの『スティル・ノット・プレイヤー』が流れている。
 樋口日奈は幼子のような無垢な笑みを浮かべて、ソファ・スペースに座る皆に言う。
「ねえ今日、まあやとテラリウム作って来たの」
「そうだよ~ん」
 和田まあやは、メニュー表を広げながら相槌を打った。
 御輿咲希は上品に長い巻き髪を肩の後ろに払ってから、不思議そうに樋口日奈の顔を見る。
「テラリウム? というと、あの金魚鉢のような球体状の水槽(すいそう)の中に、地球を作ったんですの?」
「そ~う、あ地球? んん~……、渓谷(けいこく)? あの、川べりとか、そゆの作ったよ」
 樋口日奈は微笑んだ。御輿咲希は大きく納得する。
 和田まあやは顔をしかめて言う。
「ねえケイコクって、結局何だったの?」
 宮間兎亜が半眼で和田まあやを一瞥しながら言う。
「渓谷っていうのは、谷と谷底、みたいな風景の事よね?」
「あそうだそうだ、そうだった」
 和田まあやは納得して、またメニュー表を大きく開いた。
「なんか、食べよっか?」
 風秋夕は笑みを浮かべて、メニュー表を人数分、その場にいる和田まあや以外の女子へと配った。
 稲見瓶も、手近にあったメニュー表を開く。
「腹は、減ってないな……。それより、最近身体がなまってる……。プロテインでも飲もうかな」
 和田まあやはメニュー表を閉じて、稲見瓶を見つめた。
「あの、うちもあんまお腹減ってないんだ……。じゃあイナッチ、エクササイズ・ルーム行こう?」
稲見瓶はきく。
「踊るの?」
 和田まあやは考えながら、答える。
「えー、う~~ん……。ま、なんか汗ぇ、流したくない? たいでしょ? 身体がなまってるんなら。それ付き合うよ、て言ってんの」
 稲見瓶は、微笑んだ。
「エクササイズ・ルームでは、まあやちゃんのダンス練習を見学してばっかりだったね。いいね、今日は俺も身体を動かそう。じゃあ、行こう。ちょっと行って来ます」
 風秋夕は稲見瓶と和田まあやを交互に見つめる。
「えー何今の仲良さげなやりとり……。ちょっとジェラシー……」
 稲見瓶は苦笑しながら、ソファを立ち上がった。和田まあやもソファから移動する。
「じゃちょっと、うちら動いてくるわ。じゃ、後でね」
「腹を減らせてくる」
 和田まあやと稲見瓶は、地下六階フロアの〈エクササイズ・ルーム〉へと向かう為、エントランスフロアの中央にある、星形に五台並んでいるエレベーターの一角へと歩いていった。
 地下二階のエントランスフロアには、マライア・キャリーの『タッチ・マイ・ボディ』が流れてきていた。
 和田まあやと稲見瓶と入れ替わるように、エントランスフロア中央に五台並ぶエレベーターの一台から、阪口珠美が降りてきた。阪口珠美は迷いなく東側のラウンジにある、樋口日奈達がいるソファ・スペースへと歩いていく。
 宮間兎亜が最初にそれに気がついた。
「あ~らあら、ひなちまの話してたら、本物のひなちま上位オタが降臨(こうりん)したわよ」
 皆は一斉にそちら側を振り返る――。阪口珠美は、ほぼ無表情に薄っすらと笑みをのせて、小さく片手を上げて会釈(えしゃく)した。
 風秋夕は空いている北側のソファを片手で紹介しながら、振り返ったままで阪口珠美に言う。
「たまちゃん、そこ座って……。実はたまちゃんいたの知ってる、ハードトレーニング・ジムにいたでしょ?」
「うん……。筋トレ、してた」
 阪口珠美は照れ笑いを浮かべながら、ソファへと移動して、樋口日奈の存在に感激している様子であった。
「珠美~~」
 樋口日奈は笑顔で言う。
「ひなちまさ~~ん」
 阪口珠美は笑顔で、忙しく手を小さく振った。
 風秋夕は笑顔で話題を再開させる。
「さあ、たまちゃんもメシ、頼むといいよ。までしょう?」
「うん。頼む~」
 阪口珠美は「あ、ありがとうございま~す」と、宮間兎亜からメニュー表を受け取った。おもむろにメニュー表を開いて、阪口珠美はすぐに電脳執事のイーサンにリリィ・アース・エクセレント・サラダとリリィ・アース・アイス・カフェラテを注文した。皆も注文済みである。
 風秋夕は阪口珠美に微笑む。
「シークレットグラフィティーでさ、合いの手、できる? て話になったんだよ。たまちゃん、もちろんできるでしょう?」
 阪口珠美は、にま、と照れ臭そうに微笑んだ。
「できますよ。当たり前ですよ~、ひなちまさんの曲だもん。そ~りゃ、できますよ。できなきゃ、困った問題でしょう、それは……」
 やってみて――。という事になり、樋口日奈がアカペラで歌い、阪口珠美とその場にいる乃木坂46ファン同盟が、合いの手をやる事になった。

 待ちのはずれ(フッフー!)
 国道沿い(フッフー!)
 いつも暇なダイナー(ひなちまひなちま、フーフー!)
 ウェイトレスが(フッフー!)
 可愛いって(フッフー!)
 噂なのは知ってるだろ?

 賑やかな笑い声がこぼれる中、樋口日奈は、阪口珠美の見事なまでの合いの手に、やんわりと拍手しながら言う。
「珠美はね、ほんと。愛しすぎますよ……。嬉しい、珠美。私は幸せ者だよ」
 阪口珠美は樋口日奈を一瞥して、首を振る。
「私こそ幸せ者です」
「相思相愛よね」
 宮間兎亜はにんまりと半眼を笑わせて言った。
 樋口日奈は、皆の顔を見回しながら言う。
「ファンの方はさあ、沢山応援してもらってさあ、沢山気持ちも届いてるけどさあ、こんなに、身近、真隣(まとなり)にいて……、そうやってぇ、好きってえ、想いを伝えてくれる、子がそばにいてくれるってね、ほんとに幸せだし、めちゃめちゃ辛い時はね、珠美が、がんばれる糧(かて)だった」
 阪口珠美は「え」と驚いている。
「ほんと」と樋口日奈。
「えー、そんなもう」と阪口珠美。
「ありがとう」と樋口日奈。
「こちらこそ、ありがとうです、ほんとに」と阪口珠美。
 エントランスフロアにプラーズの『ゲットー・スーパースター』が流れ、続いてN.O.R.Eの『オイェ・ミ・カント』が流れ始めた頃には、皆の注文したフードとドリンクが東側のラウンジのソファ・スペースに届いた。
 阪口珠美は、サラダを中断して、話を続ける。
「なんか、ひなちまさんから貰った心に残ってる言葉が、もう名言がありすぎるんですよ……」
 御輿咲希は膝の上に置いたクッションに、両手を組んで、阪口珠美の話に聞き入る。
 宮間兎亜は言う。
「どんな名言なのん?」
 阪口珠美は、少しだけ考える素振りをみせながら説明する。
作品名:恐竜の歩き方 作家名:タンポポ