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恐竜の歩き方

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「ああ、わかりましたよわかりました~、はいハンサムです!」
 磯野波平は後頭部に後ろ手を回して、満足そうに鼻から息を吹き出した。
 稲見瓶は、天野川雅樂と姫野あたるに言う。
「見送るんだ……。そうだね、具体的には、心の中で、卒業するその人へ思いを打ち明ける、というのに近いかもしれないね」
 姫野あたるは笑顔で言う。
「心で呟くでござるよ……。ありがとう、と」
 天野川雅樂は真剣な顔で、スマートフォンにメモしている。
「自分の言葉でいいんすね?」
 稲見瓶と姫野あたるは同時に「そう」「そうでござる」と声を返していた。
 駅前木葉は、宮間兎亜と御輿咲希と会話している。
「八月の海外出張の件は、本当にまいりました……。全ツに出れないだけでなく、八月が二日間しか帰国できなかったので、乃木坂の皆さんにもリリィでほとんど会えませんでしたし……。でも偶然に会えた事に感謝するべきですね、この場合」
「ちまちゃんとの時間、少しはとれましたので、わたくしは全く後悔はありませんし、今後も変わらず推しですので、寂しさも………、寂しさも……」
 宮間兎亜は特徴的な半眼を座視にして、御輿咲希を笑った。
「あ~んた、無理する事ないのよ~う。みい~んな、寂しいんだから。卒業ライブなのよう? 泣くでしょう? 泣くわよねえ? 泣くって事は、寂しいって事なのよ」
「ええ……。そうですわね」
 駅前木葉は、御輿咲希の肩を触った。
「みこ氏は、真面目すぎる。卒業ライブだからといって、もう少し肩の力を抜いていいんですよ。あちらを見てみて下さい」

「があ~っはっは! 後輩なんざパシリよパシリ! 走って煙草でも買って来いってな!」
「ええ~~、そんな厳しい掟(おきて)とかあるの~?」
「ねえわ! てめえの血は何色だ!」

「ね?」
 駅前木葉は、御輿咲希に微笑んだ。
 御輿咲希も、息を吐き、やんわりと上品な微笑みを浮かべた。
「ええ、はい……。元気出ましたわ。待ち遠しいですわね、ちまちゃんの、セレモニー」
 宮間兎亜はスマートフォンで時刻を確認する。
「もうすぐよ」

 影ナレは、秋元真夏と梅澤美波のキャプテン&副キャプテンであった。
 乃木坂46一期生オーディション。その頃はまだ、13歳の女の子。今日その子は、グループから、旅立つ。その子の名前は――、樋口日奈……。
 樋口日奈のセンター曲『マイルール』が始まる――。白い生地に紫の取り入れられたロングドレスを振り払って舞姫達は踊る……。

「しょっぱなマイルールかっ! すっげえ気合入ってんな! ひなちまーっ!」風秋夕は清々しく大声で叫んだ。
「歴史ある一曲だ……。一曲目から、感動するね……」稲見瓶はサイリュウムを振りながら囁いた。
「ちまーーっ! 大好きだぞーーーっ! うおおおおーっ!」磯野波平は大声で叫び散らす。
「思えばアンダーの歴史も深なんだ。時の流れを感じるでござるふふふふうう~っ!」姫野あたるは涙を浮かべて、叫んだ。
「ひなちゃーーんっ! 可愛いひなちま~~!」来栖栗鼠は笑顔で囁いた。
「最後か……っく! ひぃなぁちまぁーーっ!」天野川雅樂は精いっぱいでサイリュウムを振った。
「ひなちまーっ! 美しいです! ひなちゃんさん」駅前木葉は涙を浮かべる。
「ちまちゃーーん! わたくしあなたが大好きですのーーっ!」御輿咲希は声を振り絞って叫んだ。
「何よみこ氏あんた、今頃愛の告白なのう? あたいなんて高2で済ませたわよ、ふふ。ひなちまー!」宮間兎亜はサイリュウムを激しく振る。
「………」比鐘蒼空は、巨大スクリーンに映った樋口日奈に、その眼を釘づけていた。

 樋口日奈の挨拶から、秋元真夏のMCで樋口日奈とのトークが繰り広げられる。
 セットリストは、樋口日奈本人が、一から考えたとの事であった。
 鈴木絢音は「ひなさんさみしいですよ~」と寂し気に声を挙げてから、舞台で樋口日奈に「白目を剥け」と笑える助言をされた事を暴露した。
 伊藤理々杏は、樋口日奈が卒業する事にはまだ実感がわかないが、舞台セーラームーンでの思い出を、涙を堪えながら語ってくれた。
 田村真佑は、樋口日奈はいつでも前向きな答えをくれたと、去年のお誕生日の日にボイスメッセージで「真佑は魅力的な子だから、本当に大好きだよ」との声をプレゼントされた事を嬉しそうに語ってくれた。
 皆が話の途中に、そして最後に、『大好き』と付け加える。
 ナレーションがVTRを語る――。樋口日奈のアンダーとしての最初の一歩と、苦労と迷い。当時『がむしゃらが道を開くんだ』という歌詞に泣きそうになった事を語り、今はその歌詞をポジティブに歌えるようになった事を誇らしそうに語ってくれた。
 樋口日奈のセンターで『左胸の勇気』が始まる――。『ノ~ギ~ザ~カ~、46!』の部分では、オーディエンスや多くの配信で見守るファン達が心で叫んだ事だろう。
 樋口日奈のセンターで『狼に口笛を』が始まった――。5期生と樋口日奈が共にこれを歌う……。受け継がれていく意思と執着、愛と魂。それは狼の遠吠えとなり、ステージから駆け巡る歌声となる――。
 樋口日奈の「ありがとうございます」――から、5期生とのトークが始まった。『左胸の勇気』は、がむしゃらに頑張っていたら、きっといい事、あるだろうなと、思わせてくれた一曲だと語る。
一ノ瀬美空は、樋口日奈のような、そんな太陽のような存在になりたいと笑顔で語ってくれた。
 『狼に口笛を』は、MV撮影の夜、スーパー銭湯に行ったり、その後で握手会に行ったりと、楽しい苦労を思い出す一曲であると語る。
樋口日奈は、『狼に口笛を』は、加入して一年目でこの曲をやった事もあり、今の5期生とそう変わらない感覚なので、ぜひ一緒にやりたいと思ったと語ってくれた。
五百城茉央が『少しでも、一緒に歌ったり、踊ったりできた事が嬉しかった』と最後に感謝を述べた。5期生は皆、終始、涙を堪えている様子であった。
 樋口日奈のセンターで『やさしさとは』が歌われる――。樋口日奈、秋元真夏、齋藤飛鳥、鈴木絢音の四人で歌う……。バックスクリーンには樋口日奈の懐かしい映像。この四人が寄り添ってこの曲を歌うその姿は、これで最後になるだろう……。
 鈴木絢音のMCで樋口日奈と1期生、2期生の鈴木絢音のトークが始まる。
 なぜ『やさしさとは』を選んだのか、という問いに、樋口日奈は答える。当時、『16人のプリンシパル』や学業など、やる事が多すぎて混乱していたという事から、彼女は語り始めた……。

『楽屋で泣いちゃったんだけど、すぐに駆け寄って『大丈夫?』って言ってくれる子もいれば、そっと飲み物を持ってきてくれる子もいれば、おうちに帰ってから連絡をくれる子もいたり、このグループにはこんなにも沢山の優しさが詰まってるんだなって思った時に、この曲に出逢って、『ああ、乃木坂を歌っているようだな』と思って……。今でも何の曲が好きですかと聞かれたら、すぐに名前を挙げる楽曲』

樋口日奈は、そう、笑顔で語ってくれた。
 先輩メンバーのぬくもりはまだ憶えている――。とも、彼女は印象的に語った。
作品名:恐竜の歩き方 作家名:タンポポ