二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

恐竜の歩き方

INDEX|9ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

「え。っあ!」
 秋元真夏は思わず声を上ずらせた……。肘が当たって倒れたグラスの液体が、稲見瓶の座る席のテーブル・サイドへと流れ出したのである。
「あ~あ~あ~あ~」
 と言って、齋藤飛鳥は笑っている。
「拭(ふ)くもの!」
 秋元真夏はA5肉を切り分ける姿勢のままで、顔だけを器用に動かして皆に対応を求める。
 テーブルに液体が広がる――。稲見瓶は、その液体が広がっていく等速度運動をじっと見つめていた。速度は一定で変わらないが、液体の体積は広範囲に広げ続けている。力を受けないと物体はこういった動きをする。これが慣性の法則といい、始まった一定の速さで転がっていくボーリングの玉と一連のストーリーが似ているな、と稲見瓶は妄想していた。
「イナッチぼうっと見てないの! 拭いて拭いて!」
 秋元真夏の大きな声に、稲見瓶は咄嗟(とっさ)に白い長袖(ながそで)のYシャツの右腕の裾(すそ)で、テーブルの液体をせき止めた。
「あーイナッチ濡れちゃうじゃーん! 今ひながティッシュ取ろうとしたのにぃ!」
「んあっはは、やっば。イナッチ面白すぎ……。まあやより、変だよね、イナッチ」
「あ~あ~」
「ちょっと今手が離せないから、誰か、ティッシュ取ってあげて! ちま」
 樋口日奈達は、ティッシュを用意しながら大騒ぎする。稲見瓶は片腕で液体をせき止めながら、無表情で、「ティッシュ、取って下さい」と囁いていた。
 広大なフロアにAZの『ヘイ・AZ』が流れ始める。
 稲見瓶は自室へと着替えに向かった。
 秋元真夏は切り分けたA5ステーキの平皿を、五人の女子にそれぞれ分配した。
「なんか、ちまのだけちょっと、焦げ目が入っちゃってるけど……、一番美味しそうな部分だから、んふ」
 秋元真夏は微笑む。
 樋口日奈は、明らかに焦げている肉の部分を、幸薄そうな表情で見下ろしていた。
 横柄な態度でソファにふんぞり返っている磯野波平が言う。
「ひなちまはなー、オシャレな店で本日のパスタ頼んだら、よくわっかんねー豆みてえなパスタが出てきちゃう子なんだよ! 守ってやんなきゃいけねえ子なんだよ!」
 樋口日奈は、皆と共に笑顔を取り戻した。
「そう~……。本日のパスタよく憶えてるね? 本日のパスタでねえ? 変な、なんか、豆みたいなパスタが出てきちゃったの……」
「食ったんか?」
 磯野波平が言った。
 樋口日奈は、よくわからない含み笑いで、頷いた。
「食った……」
 黙って樋口日奈を見つめていた風秋夕は、笑(え)んで言う。
「あのさあ、いつかの乃木どこのキャンプのロケの収録でさ、バーベキューの時だよ、それこそもう乃木坂初期の頃。ね? ひなちまが薄着しててさ、それをスタジオでキャンプの映像観てる時に指摘されて、それでひなちまが言った一言があるんだけど、わかる人いる?」
 齋藤飛鳥はアイス・コーヒーを原料としたチョコレート・バニラ・アイスをゆっくりと口に運びながら、ぼうっと風秋夕を見つめている。
 和田まあやは数秒間、静止してから、また風秋夕を見つめてしゃべり出す。
「えそれ……、あれ、かなあ? ノギどこ?」
「そう! それだ、たぶん」
 樋口日奈は風秋夕に言う。
「え、ひななんて言ったの?」
 和田まあやも言う。
「え、薄着してたんでしょう?」
 風秋夕は、にやけながら囁く。
「今しか出せないなぁ、と思って………。て言ったんだよ、ひなちまのこの可愛いお顔でだよ? 可愛すぎん?」
「可愛すぎるでござるっ‼」
「素敵すぎます! ぐっふ、笑止!」
 風秋夕は、笑顔の皆に言う。
「それでさ、ちゃんとその後、写真集『恋人のように』で、出しちゃうんだよね~。ちょっと可愛い歴史があるんだ、ひなちまの薄着にはさ」
 齋藤飛鳥は苦笑しながら言う。
「ふっ。なんか、ヲタク……」
 風秋夕は無邪気に笑った。他の乃木坂46ファン同盟のメンバーも嬉しそうに笑っていた。新しい白シャツに着替えた黒のスーツパンツの稲見瓶の姿が、秋元真夏と和田まあやの背後に見えていた。
 姫野あたるが思い出したかのように、嬉しそうな顔でしゃべり始めた。
「そうでござる、ひなちま殿は、その昔、恐竜のモノマネをしていたでござるよ。憶えてござろう? みんな」
 風秋夕は嬉しそうに言う。皆が自然と、姫野あたるから風秋夕へと視線を移した。女子達はステーキにかぶりつきながら聞いている。
「坂之上君のモノマネね! 『ここー!』て言いながら、どし、どし、どし、てティラノサウルスの形態模写しながら歩いてたね! ふふん、ひなちまは可愛すぎるな~~」
 樋口日奈は、頬に噛みかけの肉をしまって、苦笑する。
「や~め~て~~、もう坂之上君とか、懐かしすぎるから!」
「坂之上君と仲良しだったでござるか?」
 興味深そうに、姫野あたるがきいた。
「い~や、全っ然。ねえもうやめてぇ、坂之上君の話ぃ」
「坂之上君っちゃあ、坂之上君じゃね? 俺なんか」
 磯野波平は謎の発言をしたが、齋藤飛鳥が顔をしかめて「はあ?」と言っただけであった。
「坂之上君とは、ご連絡は……」
 そう言った駅前木葉に、樋口日奈は人差し指を向けて頬を膨らませた。
「もうやめてぇ、ほんと。なんにも知らないから」
 風秋夕は微笑む。
「いま、坂之上君は、元気っぽい?」
 樋口日奈は、可愛らしく風秋夕を睨みつけた。
「知ぃりぃませんっ!」
「やあ、坂之上君といえば、恐竜の歩き方だね?」
 稲見瓶は、元居たソファに腰を下ろしながら、爽やかに微笑んだ。
「ひなちまの恐竜の歩き方を初めて見た時は、強烈に印象的すぎて、初めてジョン・オバニオンの『里見八犬伝(さとみはっけんでん)』を聴いた時よりも衝撃が大きかった」
 樋口日奈は笑っている。
 和田まあやは、稲見瓶に表情を険しくさせる。
「ジョン、おばに4? 犬か、かんかが、おばに4回、何か芸をするとか? 何かですか? それは……」
 磯野波平は大声で笑い倒す。
 稲見瓶は、イーサンに『ジョン・オバニオンの里見八犬伝をかけて下さい。今、お願いします』と命じた。
 十八メートル以上の高さを誇る広大なエントランス・フロアに、ジョン・オバニオンの『里見八犬伝』が流れ始めた……。
 稲見瓶は、和田まあやと樋口日奈を中心的に、説明していく。
「これは、里見八犬伝(さとみはっけんでん)という、薬師丸ひろ子さんと真田広之さん主演で制作された邦画のエンディング曲だよ。そういえば、歌詞もなんとなく、ひなちまとまあやの卒業を知った後の、今の俺達の心情と重なる面もあるね……」
 皆は、耳を清ませて、ジョン・オバニオンの『里見八犬伝』に聴き入る……。
 稲見瓶は歌詞を解説する。
「夜は、僕らの眼には見えないほど、飛ぶように過ぎていく………。時間は充分にあるはずなのに、二人を包む魔法のせいだろう………。あと数時間したら、さよならを言わなくては………。わかるだろう、行かなきゃいけないんだ………。僕も凄くつらいけれど………」
 姫野あたるは眼を閉じたまま、顔を見上げて囁く。
「確かに、気持ち的には、同類でござる……」
 稲見瓶は、歌詞の続きを説明していく。
作品名:恐竜の歩き方 作家名:タンポポ