ここにしかないもの
また違う人間が続きを歌い始める――。エスカレーターに乗る人々が同時にそちらへと振り返る……。1Fと2Fのエスカレーター付近にいた周辺の人々も、【歌唱】という異変に気がついて、視線を注目させる。
飛鳥もそちらの方をまっすぐに見つめていた。その先には、2Fからエスカレーターに乗り込みながら高らかに歌う二十台ぐらいの外国人金髪女性の姿がある。
And all those things I didn't say
今まで口にしなかった全ての事
Wrecking balls inside my brain
頭の中で鉄球がぶつかってる
I will scream them loud tonight
今夜、その言葉を叫ぶの
Can you hear my voice this time
聞こえる? 私の声が
飛鳥は1Fのフロアに仁王立(におうだ)ちで、己と光葉慎弥を囲(かこ)んだ合唱する集団を見回しながら、微笑んでいる光葉慎弥を、感動に震える手と脚を踏ん張らせて、驚愕(きょうがく)に微動する視線で摩訶不思議にと見つめていた。
2Fフロアから乗り込んでくる二十人以上の男女が、手拍子に、大合唱しながら1Fフロアへとエスカレーターに続々と連なって乗り込んでくる。
パレードような、教会のゴスペルのような、盛大な大合唱が渋谷マークシティの吹き抜けのフロアに木霊(こだま)する。
This is my fight song
これは私の闘いの歌
Take back my life song
人生を取り戻す歌
Prove I'm alright song
私はもう大丈夫だと証明する歌
My power's turned on
準備はできてるの
(Starting right now)I'll be strong
(今、始まる) 強い自分になる
I'll play my fight song
この曲をかけてがんばるの
And I don't really café
If nobody else believes
誰も信じてくれなくたってかまわない
Cause I've still got
A lot of fight left in me
だって私にはまだ闘う力が
みなぎっているんだから
Losing friends and I'm chasing sleep
友達も失って、夜もなかなか眠れない
Everybody's worried about me
みんな、私を心配してる
In too deep
say I'm in too deep (I'm in too deep)
私はどっぷりはまり過ぎたと
And it's been two years
あれから2年が経って
I miss my home
前いた場所が恋しいけど
But there's a fire burning in my bones
身体の奥で燃えているの
And I still believe
まだ信じてる
Yeah I still believe
そう、まだ信じてる
And all those things I didn't say
今まで口にしなかった全ての事
Wrecking balls inside my brain
頭の中で鉄球がぶつかる
I will scream them loud tonight
今夜、その言葉を叫ぶの
Can you hear my voice this time
聞こえる? 私の声が
This is my fight song
これは私の闘いの歌
Take back my life song
人生を取り戻す歌
Prove I'm alright song
私はもう大丈夫だって証明する歌
My power's turned on
準備はできてるの
(Starting right now)I'll be strong
(今、始まる) 強い自分になる
I'll play my fight song
この曲をかけてがんばるの
And I don't really café
If nobody else believes
誰も信じてくれなくたってかまわない
Cause I've still got
A lot of fight left in me
だって私にはまだ闘う力が
みなぎっているんだから
A lot of fight left in me
闘う力がたくさんみなぎってくる
Like a small boat on the ocean
海に浮かんだ小さなボート
Sending big waves into motion
大きな波が押し寄せる事がある
Like how a single word
たった一言が
Can make a heart open
心を開かせるように
I might only have one match
一本のマッチしか持っていなくたって
But I can make an explosion
大爆発は起こせるもの
This is my fight song
これは私の闘いの歌
Take back my life song
人生を取り戻す歌
Prove I'm alright song
私はもう大丈夫だと証明する歌
My power's turned on
準備はできてるの
(Starting right now)I'll be strong
(今、始まる) 強い自分になる
I'll play my fight song
この曲をかけてがんばるの
And I don't really café
If nobody else believes
誰も信じてくれなくたってかまわない
Cause I've still got
A lot of fight left in me
だって私にはまだ闘う力が
みなぎっているんだから
Now I've still got
A lot of fight left in me
私にはまだ闘う力がみなぎってる
渋谷マークシティの誰もが吹き抜けの空間から、飛鳥と光葉慎弥を囲んで合唱する集団をスマートフォンで撮影したり、その眼で見下ろす中、合唱を終えたその集団は、まるで自分達が今まで何をしていたのかも記憶にないといった無色の表情を浮かべながら、皆が一斉に散り散りに分散していった。
飛鳥は驚愕に動けぬまま、円(つぶ)らな瞳を潤(うる)ませながら見開いたままで、光葉慎弥を見つめて、小首を傾(かし)げた。
光葉慎弥は、合唱団の中にいた、ソロ歌唱もした美声が印象的であったアジア系の少年から、最後の時に手渡された、綺麗な包装紙に巻かれた小包を持っていた。
「なぁにぃ……、ひっひ、なんなのぉ~?」
「ファイトソングだよ。壁に立ち向かう為の……。ハッピーバースデイ、飛鳥」
「なにぃ、え、待って……。慎弥があの、人達を集めた、って、事ぉ?」