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誰にだってあるもの

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「爺さん、俺もう、三日間、何も食ってないんだ。そのピザ、ひときれ分けてくんないかな……」
 秋月奏はそう言うと、その場にしゃがみ込んだ。

 飛鳥は表情を変える事無く、秋月奏の一連の行動を見据えている。

 老人は、笑みを浮かべるでもなく、困った顔をするでもなく、秋月奏に言う。
「食べて食べて」
 老人に指差されたピザ・ボックスのピザを、その場にしゃがみ込んだままの秋月奏は、片手で掴んで、美味そうにひと齧りした。
 汚れた衣服を身に纏った老人は、黙ったままで食べかけのピザを食べていた。
 秋月奏は、笑みを浮かべる。
「ありがとう」

 人々が行き交う雑踏の中で、飛鳥は時を止めたように、じっとその光景を黙って見ていた。

 ひときれのピザを美味そうに食べ終えた秋月奏は、老人に「ピザをありがとう、お礼です」と、手紙の入ったレターケースを手渡した様子だった。

 飛鳥と坂根双葉のもとへと再び戻ってきた秋月奏は、「行こう」と言って、また前の方向へと、颯爽(さっそう)と雑踏に紛れて歩き始める。
 飛鳥は、老人の方を見つめた。
 レターケースを開けた老人の手には、札束(さつたば)と、秋月奏からの手紙が握られていた。
 冷静で何事にも無頓着(むとんちゃく)であった老人は、砕け散るように天を仰(あお)ぎ、受け入れがたい真実に、首を振って涙を堪(こら)えている。
 飛鳥はじっと老人を見つめる。
 涙する老人は、秋月奏の姿を探している様子であった。秋月奏はもう人混みの中を歩き始めている。
 坂根双葉は、秋月奏の背中を遠目に見つめて、飛鳥の耳元で微笑んだ。
「いつもなんだよ。さ、行こう、飛鳥ちゃん」
「うん……」
 飛鳥は、老人を見つめながら、人混みの中へとまた歩き出した。
 老人は、手紙を抱きしめて、震えるように泣いていた。

       2

 日本からニューヨークに越してきてからのルームメイトは、ずっと筒井あやめだけだった。ルームメイト、というよりかは、ルームシェアする先輩と後輩、の方がしっくりくるかもしれない。
 もちろん、先輩は私の方で、後輩は筒井あやめだ。
 この筒井あやめという後輩は、ちょっと天才で、謎が多い。二十歳前後のその年齢で、すでに〈アンダーコンストラクション〉から独立したブランドを展開しようとしているらしい。才能的には間違いなく天才系な感じで、人間的には謎の人物だった。あ、礼儀は正しいけどね。
 飛鳥はソファに深く持たれて、筒井あやめを見つめる。
「何年選手?」
「へ?」
 筒井あやめは、その美しい顔で間の抜けたリアクションを取った。
 飛鳥は、言い直す。
「あいや、ほら、入社してから何年目?」
「4、5年、とかです」
「え?」
 つくづく驚かされるというか……。一体いつから働いていたというのだ。いくら才能がものをいう職種で、そういう時代だからといっても、二十歳前後の4、5年前って、十五じゃんか。
 筒井あやめは、しんなりと表情を笑わせて、囁くように言う。
「デザイナー目指しててぇ、去年の12月まで東京の本社にいたんですけどぉ、なんか…、ニューヨーク行けって言われて」
「あ……」飛鳥は閃いたかのように言う。「夏のランウェイ企画、デザイン画が採用されたとかじゃなくて?」
「あ、はい」筒井あやめは頷いた。「採用されました」
「ああほらね」飛鳥は僅(わず)かな笑みを浮かべた。「あれは、ファッションのワールドカップみたいなもんだから。ファッションのオリンピックかなあ?」
「はあ、そうなんですか……」
「すっごい才能なんだね」飛鳥は物珍しそうにじろじろと見る。「アイドルにも向いてるけどね、顔は」
「でも、もう少ししたら帰るんですよ」筒井あやめは綺麗に苦笑した。「東京に」
「え?」
「飛鳥さんが、ジャパンイベントで夏に帰国するじゃないですか」
「あうん……」
「私は、その後ぐらいに日本に帰ります」筒井あやめは微笑んだ。「力はつけたし、後は日本にいてもできる事なので」
 飛鳥は「ふうん」と頷きながら思う――。この子の言ってる事は、さんざんどたばたして、日本から即決でこのニューヨークに来てから、しばらくして、知識やインスぺレーションをこの国で感化されてから、最終的に私の出した答えと同じだ。
 ふわふわしてるけど、しっかりしてる。
 実力もあるんだろうな。
「半年でとんぼ返り」筒井あやめはにこっと笑う。「私には、渡米はまだ早かったみたいです」
「私もまだたいした事言えないけど……、んんなんて言っていいのかわかんないけど、この国に来た甲斐(かい)はあったんでしょう?」
「はい。ありました」
「それなら、それでいいんじゃない?」飛鳥はアイスコーヒーのストローを咥えた。
「はい。あの……」筒井あやめは、絨毯の方のリビングにあるテレビを振り返って、指差していた。「映画とか、よく観るんですか? ていうか、観てますよねえ、私が寝た後に……」
「うるさかった?」飛鳥はアイスコーヒーを飲む。
「ううん、いやそう、じゃなくて……」筒井あやめは、今度はキッチンの方の冷蔵庫を指差した。「ポップコーン、買って来たんですよ、今日……。飛鳥さんがいつも映画観ながら食べてるキャラメルポップコーン」
 飛鳥はアイスコーヒーを丁寧に飲み込んだ。危なく吹き出すところであった。
「なんで? 知ってるのそんな事……。ゴミ箱の中見てるの?」
「はい」筒井あやめは笑みを浮かべた。「見てます」
「あかんな、お主」飛鳥はテーブルにアイスコーヒーを戻した。「で? 買って来たから? なに、くれんの?」
「あの、一緒に映画観ませんか?」筒井あやめは、振り返らずに絨毯のテレビを指差した。「私も映画観るの好きなんですよ……。ネトフリも、ユーネクストも、Huluも、けっこう何でも繋げてあるんで」
「えそうなの?」飛鳥は美しく華やかな美形を大袈裟に驚愕させた。「私、DVDレンタルしてたわ……、馬鹿みたいじゃん私」
「それはいいんですけど」
「なにそれはいいって……。よくねえわ」
「観ませんか?」筒井あやめは冷蔵庫を指差した。「キャラメルポップコーンと、スタバのコーヒーおかわり、あります。冷やしてあります」
「ほぉ~ん、んんじゃ…、観ますか……」飛鳥は面倒くさそうに、ソファから立ち上がった。「なに、何でもあるの?」
 リビングの電気を消して、間接照明だけにした。柿色の僅かな光の中、キャラメルポップコーンとスターバックスのアイスコーヒーを装備して、絨毯に座り込んだ二人は、fire tv stickで映画コンテンツを選び、これから観るタイトルを物色していく。
「昨日何観ました?」筒井あやめは、操作しながら、飛鳥を一瞥した。「凄い音してたけど、ミュージカル?」
「あ? 昨日?」飛鳥はテレビ画面を見つめながら考える。「北野武のBROTHERかな?」
「ていうミュージカル?」筒井あやめは飛鳥を一瞥する。
「あ違う……」飛鳥は明後日(あさって)の方向を見上げる。「孤狼の血LEVEL2だな……。てかミュージカルじゃねえし」
作品名:誰にだってあるもの 作家名:タンポポ