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齋 藤 飛 鳥

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 月野夕は頷いた。月野夕と同じく北側の大型ソファに座っている稲見瓶と駅前木葉も、姫野あたるに注目していた。
「そうでござるなぁ……。小生は、人を好きなまま死にたい、という言葉を憶えてござる」
 月野夕は問う。
「いい言葉だな……。誰の言葉?」
「お笑い大怪獣、明石家さんま大先生でござる」
「さんまさんかあ……。いい事言うな~、輝きが違う、やっぱり。他には?」
 姫野あたるはにこやかに微笑んだ。
「人間に許された唯一の特権は笑う事……、笑いながら生きるという事が人間としての証や。人は笑う為に生きるんやで」
「最高」
 月野夕は驚いたように微笑んだ。
「誰、それ」
「天才お笑いコンビダウンタウンの、松本人志大先生の言葉でござる……。ちなみに、ダウンタウンは、小生がどん底で、もう微笑む事さえ忘れすぎている時に、ふと付けてみたテレビで、どん底の小生をいきなり笑わせてくれるという、奇跡を引き起こした、そうでござるな、小生の中の笑いの神、でござるな。そんな小生にとって特別なお笑いコンビでもあるでござる」
「笑う事を忘れた人間に、笑う事を思い出させるか……。いや、最強だな」
 月野夕はそう呟(つぶや)いて、前かがみになって駅前木葉を一瞥する。
「駅前さんは? 好きな言葉、ある?」
 駅前木葉はすぐに答える。
「そうです、ね……。強いていえば、私達の長所と短所は、力と物質がそうであるように切り離せないのだ。分離すれば人は存在できない、という格言が好きですかね。ニコラ・テスラという科学者の格言です」
 稲見瓶は駅前木葉を一瞥する。
「テスラって、エジソンと競った、あのテスラ? 電気椅子の?」
「ええ、はいそうです」
 月野夕は稲見瓶に言う。
「電気椅子のって……。テスラ・コイルの、でいいじゃん。で、イナッチは? 好きな言葉……」
 稲見瓶は、月野夕を一瞥してから、答える。
「大丈夫、かな」
「え?」
 月野夕は思わずきき返した。
「何?」
 稲見瓶は薄い笑みを浮かべる。
「大丈夫、が好きな言葉だよ」
 月野夕は深い納得を、大きな頷きで表現してみせた。姫野あたると駅前木葉も、深く納得を漏らしている。
「波平」
「? んあ? んだよ」
 中嶋波平は片眉(かたまゆ)を引き上げて、月野夕を見つめた。
「お前にはあるか、好きな言葉とか」
「に~らめっこし~ましょ、わ~らう~と勝ぁぁちよ、あっしゅっしゅ……」
 月野夕は、しかめっつらの中嶋波平に、ご機嫌で微笑んだ。
「ひっさしぶりにお前の事見直したわ……。確かにそれがぱっと出てくるお前の優勝だな」
「あんだお前は、馴れ馴れしい……。飛鳥っちゃんは俺の嫁なんだからあったり前田のクラッカーだろうが!」
「あ? 何? 前田の? クラッカー? て何?」
「お前な~~、今時ユーチューブとかあんだからよぉ、日本の時代とか勉強しろよ~」
「なんだ、歴史関係か……。俺日本史弱いんだ」
 中嶋波平の隣に座っている姫野あたるは、その顔を明るくして月野夕に言う。
「夕君の好きな言葉なんでござる?」
「ええ、興味ありますね……。どの業界の言葉なのかとか。ダーリンはお笑い界の、私は科学界の、波平君は、……大好きな乃木坂の。イナッチは、……なんの言葉だったんですか?」
 稲見瓶は駅前木葉を一瞥して答える。
「仕事をしに日本に来た、外国人さんの言葉だよ。タワレコで一度会ったっきりの、知らない人だけどね。人生で一番響いた。大丈夫、それが好きな日本語らしい。俺もその言葉を一番好きになった」
 駅前木葉は「えと、では……、それは、どんな業界の言葉でしょうか……」と戸惑っている。
 月野夕は言う。
「一般社会だな」

 中嶋波平は嬉しそうに、大型液晶型テレビに微笑む。
「おお、よっしゃ、もうすぐ乃木坂だってよ。おお、映った映った! おーい観てんぞぉーみんなぁーっと!」
 大型液晶型テレビには、ベストアーティスト2017に満を持して登場した乃木坂46が映し出されていた。映像はすぐに切り替わり、また別のアーティストが映される。時刻はPM20時台が終わろうとしていた。
 姫野あたるは笑顔で、月野夕を急かす。
「まだ答えてないでござるよ夕君、もう、じらさず教えるでござるよ……。夕君の、好きな言葉は、なんでござる?」
 稲見瓶と駅前木葉も、月野夕の横顔に注目した。
 月野夕は、微笑んだ。
「1998年8月10日」

       6

 二千二十二年十一月十五日、風秋夕と稲見瓶と磯野波平と姫野あたるが過ごしているのは、秋田県秋田市阿仁笑内にある(株)ファースト・コンタクトCEOであり、風秋夕の実の父親である風秋遊(ふあきゆう)の所有する山の麓(ふもと)に構えた二階建てコンクリート建造物の〈センター〉であった。四人がここへと訪れてから、もう五日が過ぎている。
 この日の日没に、駅前木葉が〈センター〉へと訪れ、乃木坂46ファン同盟の初代メンバーが茜富士馬子次郎(あかねふじまごじろう)こと通称『夏男(なつお)』の前に勢揃いしたのであった。
 雲の大きな塊(かたまり)が群れをなしている、層状または斑状(はんじょう)、ロール状となった層積雲(そうせきうん)が、夕焼けに染まり、鮮やかな下層雲の日差しがその世界を包んでいた。
 稲見瓶はアーチのそばで、しばし夕焼けに染まる世界を眺めていた。
「イナッチ」
 風秋夕が〈センター〉の正面玄関から出てきた。
「夕飯の投票だけど、イナッチは何食いたい?」
 稲見瓶は、笑顔で振り返った。
「彼氏に作るなら、ミートソース……。飛鳥ちゃんは、いつかそう言ったね」
 風秋夕は、ドアから完全に身体を出して、微笑んだ。
「ミートソースかぁ……。いつかの46時間テレビか、何かだったな。うし、ミートソースに二票だ」
「中に入ろうか」
「おう。この時間もう寒いからな」
 キッチンではミートソースに六票集まり、今夜の夕食がミートソース・スパゲッティに決定した。
 調理を担当するのは、今夜は夏男の番であった。調理補助は、駅前木葉である。
 風秋夕のスマートフォンから、大きな音で乃木坂46の『扇風機』のBGMが流されている。
 風秋夕は、赤のマルボロにジッポライターで火をつけた。
「フウ~……。どう? あんたらもう充分に現実逃避(げんじつとうひ)できた? 会社に何て言ってきたのか知んないけど、今日で五日目、そんなに休めないだろ?」
 磯野波平は風秋夕のジッポライターで煙草に火をつける。その煙草も風秋夕の煙草である。尚(なお)、風秋夕は嫌そうにそれを見ている。
「俺ぁ別に、現実逃避しにここに来たんじゃあねえし……、フウ~~、失いたくねえから、それをどうしようか考えに来ただけだしよ」
 姫野あたるは言う。
「小生は、悲しみの忘れ方を探しに来た次第でござる……。ゆえに、今もまだ、この悲しみからは逃れられぬ……く、っ」
 片腕で顔を隠して泣き始めた姫野あたるを短く一瞥してから、稲見瓶は、煙草にジッポライターで火をつけた。
「フ~~制服を脱いでサヨナラをしようとしてる飛鳥ちゃんを、硬い殻のように抱きしめたい一心だけで、ここには来てる……。現実逃避じゃなく、現実をどう受け止めるかを、考えに来てるつもりだよ」
作品名:齋 藤 飛 鳥 作家名:タンポポ