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齋 藤 飛 鳥

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「俺はまだ何も叶えてなんかない! 一生をかけてこれからコンビニエンス・オーバー・トラディッションを大企業に変えていくんだ! まだ、途中だ」
 月野夕は、深く息をついて、デスクを見つめた。
「答えは、出てる」
「出てない!」
「俺とお前は、世界一になる」
「い、え………」
「ファースト・コンタクトっていう会社は、自分を試すのに大きすぎるぐらいに都合がいい。やってやろうじゃないの、イナッチよぉ……。俺の親父とお前の親父がやってのけた事よりも、もっと難しい挑戦になるんだぜ、1番をひっさげて走り続けるってのは」
 稲見瓶は、月野夕をじっと見据える。
 月野夕は、無邪気に微笑んだ。
「仮想通貨を創らなかった時点で俺の判断ミスだ、悪いなイナッチ……。でも二度と外さねえ。――色々見てみたいだろ、まだ見ぬ景色ってやつをさ……。俺らが組んで暴れるんなら、ファーコンはいいとこだぜ。この会社たたんで、やり直さないか?」
「まだ、事業存続の危機でもないのに?」
「うん。分岐点があるなら、今がそうだ。俺は二度と勘を外さない」
「限界利益、営業利益、共に黒字なのに?」
「うん。親父がどういう人間なのかを知って、会社も徹底的にリサーチした……。楽しさのスケールが違う。人格も、でかい人だったな……」
「俺の父親、稲見恵も、尊敬できる人ではあるけど……」
「スカウトされてるんだろ?」
「いや、夕との共同経営を知ってからは、何も言ってこない。仕事についてはね、進学はしろと勧められたけど」
「俺はとにかく、母親を安心させるっていう目的は叶えられた……。あとは、自分の番だ」
「本当にいいの?」
 稲見瓶は、月野夕の顔をじっと睨みつけるように見つめた。
 月野夕は、笑みを消した。
「俺が親父に出した条件は1つ……。お前と、イナッチと一緒に採用されるって事だけな。後は自力でのぼりつめるって、イキっちった」
 稲見瓶は、鼻から深い溜息を吐き出して、上を見上げた。
「いつも、いきなりだね……。追いついたと思ったら、もう次の事を考えてる……。それも、どれもこれも、いつも楽しそうな事ばっかりだ………」
「一緒に行こうぜ、世界のどっかまで」
「わかったよ、行こう。世界の、何処かまで」
 夕方が訪れ、夕刻を迎えると、中嶋波平と姫野あたるがアルバイト帰りの泥だらけな姿でやってきた。間もなく、約束のPM19時には、駅前木葉もマンションに訪れた。
 姫野あたるはバスタオルで髪の毛をわしゃわしゃと荒くふきながら、月野夕から借りたパジャマ姿でそのリビングルームへと入った。
「いい湯でござった~……はは、あ。んん? なんでござるか、パーティーでもするんでござるか?」
 南側の大型ソファで寝そべっているTシャツとチノパン姿の中嶋波平は、何やらわからん、といったようなしかめづらで首を傾げていた。
「なんか、卒業式なんだってよ」
「卒業式、でござるか? はん、で、誰の?」
「あいつら……」
 中嶋波平はキッチン・カウンターの奥のキッチンをあごで示した。
 北側の大型ソファに座る駅前木葉も、姫野あたるに振り向いた。
「企業を撤退させるんですって」
 姫野あたるは、また頭をバスタオルでわしゃわしゃとしながら、駅前木葉を見つめた。
「会社を撤退? 倒産したんでござるか?」
「まあ、ニュアンスが違いますね。自(みずか)ら、会社役員をおりる、という意味です」
「この会社を売り飛ばすでござるか!」
「ここのマンション契約は継続するようですけど、会社という届(とどけ)は、消えますね。今日はその卒業式みたいですよ。今、二人でお料理を作って下さっています。このテーブルに並ぶお料理も、お二人で作られたお料理なんだそうですよ、美味しそうですね」
 姫野あたるは、バスタオルを首に回しながら、ガラス製テーブルに並べられた料理の品々を見つめた。青椒肉絲(ちんじゃおろーすー)、唐揚(からあ)げ、生ハムのサラダ、手巻き寿司、カレーのルー、ざるそば、春巻き、の七品が並んでいる。
 姫野あたるは駅前木葉の隣である、北側の大型ソファに腰を下ろした。
 半袖の灰色と黒のボタンシャツに黒のカーゴパンツをはいたエプロン姿のをした稲見瓶がトレーにチャーハンを載せてガラス製の小テーブルまでやってきた。
 姫野あたるは、稲見瓶の横顔を不安げに見つめる。
「会社、たたむのでござるか?」
「うん。さ、みんな食べてて、もう全部料理はそろったから」
 月野夕の「洗いもんしちゃうからイナッチも先食ってていいぞ~~」という声がキッチンから聞こえてきた。
 稲見瓶は、エプロンを外して、キッチンカウンターの上に置いた。
 姫野あたるは振り返って稲見瓶を見つめ続ける。
「何か、あったんでござるか?」
「ん?」
 稲見瓶は姫野あたるに振り返って、薄い笑みを浮かべた。
「ああ、うん。色々とあった」
「残念でござる……、ご愁傷様」
 稲見瓶は鼻を鳴らして笑った。それから、キッチンの冷蔵庫へと向かう。
 中嶋波平は早食い大会に勝ち進むべく勤(いそ)しむ猛者(もさ)のように、次々と料理の形を減らしていく。
 それを呆気に見ていた姫野あたるの顔にも、笑顔が戻った。
 十数分後――。月野夕も磯野波平の隣に着席し、いつもよりも少しだけ特別な食事会が始まった。尚、磯野波平はずっと食べ続けていたが。
 稲見瓶は北側の大型ソファに座っていた。左隣の駅前木葉にと、小皿に、丁寧に手巻き寿司と春巻きを載せている。
 ソファ・スペースの西側に置かれた大型液晶型テレビにて、フジテレビ系列FNSうたの夏まつりが生放送されている。根本的に、今日この日乃木坂46ファン同盟が集まったのも、この番組の生放送の乃木坂46を観戦する為である。
 今宵、乃木坂46が生放送で披露する楽曲は、21枚目シングル、齋藤飛鳥センター楽曲の『ジコチューで行こう!』であった。
 月野夕はテレビ画面に映る齋藤飛鳥をじっと、強く見つめている。中嶋波平が大騒ぎしていた。稲見瓶も、テレビ画面をじっと見つめていた。駅前木葉と姫野あたるが、乃木坂についての何やらを会話していた。
 乃木坂46のエース的存在である齋藤飛鳥の堂々たる素敵なパフォーマンスに充分な満足感を覚えた後で、月野夕は何気なくその口を開いた。
「溜めた金は……、夢の為に使う……。これから入るだろうっていう財産を全部はたいても、払いきれないぐらいの夢……。実際に、その一歩に全財産つぎ込むつもりでいる」
「おんまえ……」
 中嶋波平は驚いたように、月野夕の顔を強烈に睨む。
「お前の全財産って……、もう億だろ? 何億円だろう? なんだよ、競馬(けいば)か? 競輪(けいりん)か? パチンコ~?」
 姫野あたるは笑顔できく。
「夕君の、夢ってなんでござろうなぁ~……。きいてみたい気もするでござるが、なんだか、いささか、怖い気もするでござるよ。遠くに行ってしまいそうで……」
 駅前木葉は、黙って姿勢よく、月野夕の顔を見つめている。
 稲見瓶は、きく。
「夕の夢? 仕事じゃなくて?」
「俺は夢を仕事にできるような器用な人間じゃない……。仕事を、続けていく意味、それが俺の夢だよ」
「競馬だろ?」
 中嶋波平は顔をしかめて言った。
「聞きたい?」
作品名:齋 藤 飛 鳥 作家名:タンポポ