二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

齋 藤 飛 鳥

INDEX|16ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 

 月野夕は、にっこりと無邪気に笑った。
 姫野あたるは頷く。
「聞きたいでござる。早く言うでござるよ」
 駅前木葉も頷いた。
「聞きたいに決まってます……。興味しかないわ」
 稲見瓶は、月野夕の笑みに感化されて、笑みを浮かべた。
「半分はわかったよ……。だけど、もう半分がわからない」
 駅前木葉、姫野あたる、中嶋波平が、稲見瓶に注目していた。月野夕も僅かに笑みを残したままで、稲見瓶を見つめている。
 稲見瓶は言う。
「高確率で、乃木坂に関係のある夢だね……。働く意味、とはつまり生きる意味だ。俺達ファンに、他に選択肢なんてない、乃木坂に魅了された人生なんだからね」
「半分わっかんねえってとこは、なんなんだよ?」
 中嶋波平が顔をしかめながら言った。
 稲見瓶は、口元に右の拳を当てて、考える。
「乃木坂をサポートする職に就こうとしてる、と考えるのが、夕的にはらしさがある」
「スタッフかよ!!」
「スタッフさんになるでござるかっ!!」
「運営会社に、就職する、という事ですか?」
 稲見瓶は続ける。
「いや、けど、それはありえない……。夕はもう次の就職先であり、生涯を捧げる会社を腹に決めてる。けど、乃木坂には関係していると思う。だから、半分はわかって、半分わからないって言ったんだ」
 皆は、自然と月野夕を見つめる……。
 月野夕は、にっこりと微笑んで、その口を開いた。
「まず、まだ完成してない、2014年から着工してるすげえ施設があるんだけど……、それは世界的大企業の、ファーコンのCEOが秘密裏に建造してる、巨大な地下の城らしいんだ……。そこはとある住宅街の地下に建造されてるみたいで、すげえ遠くから大きなトンネル掘って、地下空間を建築してるんだって……。もしそれが完成したら、世界の誰も、そんな大きな城が、地下の空間に在るなんて、知らないまま……、誰かがその城で毎日遊ぶんだぜ。そこはさ、例えば、秘密を約束された人間だけが入れる空間で………――」
 ファンタ・グレープとファンタ・オレンジとファンタ・グレープとファンタ・オレンジとファンタ・グレープで、もう一度改めて乾杯が成された。
 姫野あたるは、東側のリビングフロアに立ち、澄ました顔つきで畏(かしこ)まっている。
「えー…、月野、夕君……」
「はい」
 月野夕は、口元に笑みを浮かべながら、ソファを立ち上がって、リビングを回るように姫野あたるの前まで移動した。
 姫野あたるは、誠実な笑みを浮かべて、月野夕に一つ、頷いた。
「月野夕君……。株式会社、コンビニエンス・オーバー・トラディッションの設立、経営、共に充分な働きを納めましたね……。あなたは、不景気をものともしないマーケティングの小さな風雲児だ。世間の荒波を乗りこなし、ちゃんと正しき心で乃木坂を愛し、導かれるまま、才能を生かし、薄利多売(はくりたばい)と厚利少売(こうりしょうばい)の境界線をよく見極めました。ここに、その功績を表します、おめでとう! でござる!」
 姫野あたるは、眼には見えない表彰状を、月野夕へと差し出した。
 月野夕は、眼にはその見えない表彰状を、正しい礼儀を持って、受け取った。
「もう一度、ほんっとうに、おめでとう、でござる!」
 拍手が鳴った。中嶋波平だけは大型ソファに寝そべりながら、脚で拍手しているが。
 月野夕は大型ソファの皆を振り返って、ガッツポーズを作って笑った。そのまま、リビングを回るようにして元いた大型ソファへと戻り、中嶋波平の脚を手でひっぱたきながら、大型ソファに座る。
「稲見、瓶殿……」
「はい」
 稲見瓶は、俯(うつむ)き加減で、大型ソファから立ち上がった。少しだけ俯きながら、リビングを回るようにして、姫野あたるの前まで移動する。
 顔を上げられなかった……。そうしてしまうと、涙が溢れそうだった。将来の自分を思い浮かべた時、理想的だと思えた後ろ姿は、己が成長すればするほどに、大きすぎる存在なのだと知った。
 そんな時に出逢ったのが、月野夕であった。彼は小さな小さな、いつか見た理想形の、稲見瓶の将来をすでに形成させていた。
 少年時代に、母と弟を守りたいと思う心は、家族を養(やしな)いたいという具体性を帯(お)び、それは更なる成長を遂(と)げて、やがてはサラリーマンになりたいという思いへと変わっていった。 
父と出逢い、父の背を知り、偉大だと尊敬し、憧れた。思いはサラリーマンから、役職に就きたいという理想へと変わっていった。
その為の勉強も、中学を卒業する頃にはすでに始めていた。しかし、学べば学ぶほどに、それが如何(いか)にして難しい事なのかという事実だけが、鮮明に、詳細に、的確に理解できて、前はなかなか進めずにいた。
そんな時、少年時代に芽生(めば)えた志(こころざし)を見透かすかのように、月野夕は、自分を会社へと誘ってくれた――。二人の共闘は長らく続き、企業業績を積み重ね、会社は肥大していった。
 確かな感触で、それが、楽しかったのだという、実感があった。
「えぇー……、株式会社、コンビニエンス・オーバー・トラディッションの経営、労働共に充分な働きを納めましたね……。ここに、その功績を表します。以下、同文」
 乃木坂46の齋藤飛鳥がソロで歌唱する『硬い殻のように抱きしめたい』が流れていた。
 稲見瓶は、確かな感覚で、眼には見えないその表彰状を、しっかりと正しい礼儀をもって受け取った。
「おめでとう、でござるっ!」
 拍手が鳴った。稲見瓶は、拍手してくれる皆を振り返って、深く頭を下げてお辞儀した。
「お粗末様(そまつさま)でした」
 そう囁(ささや)いた稲見瓶の一言に、リビングの四人は一斉に賑(にぎ)やかな笑い声を上げた。

       8

 二千二十二年十一月二十三日、テレ東音楽祭2022冬~思わず歌いたくなる・最強ヒットソング100連発!~から、二千二十二年十一月二十六日、NHK・Venue101から、二千二十二年十二月三日、日テレ系音楽の祭典ベストアーティスト2022と、乃木坂46は立て続けに生放送の音楽番組に出演し、純白の衣装で『ここにはないもの』を鮮やかに披露した。
 そして、二千二十二年十二月五日、深夜に放送された乃木坂工事中にて、齋藤飛鳥の31枚目齋藤飛鳥ラストヒット祈願が放送された。
 番組のロケーションで、齋藤飛鳥は、京都の奈良に出向き、そこにある己の名前と所縁(ゆかり)のある〈飛鳥駅〉に赴(おもむ)いていた。
 東京駅からJR新幹線のぞみで約二時間かけて京都駅まで行き、そこから近鉄京都線特級・橿原神宮前行(かしはらじんぐうまえいき)に乗り換えて、約一時間かけて橿原神宮前駅に行き、そこから近鉄吉野線・吉野行に乗り込んで、一駅で飛鳥に着き、そこから約一分間歩いて飛鳥駅には辿(たど)り着いた。
 風秋夕(ふあきゆう)は辺りを見渡し、深呼吸を消化する。PM13時24分であった。
バス停の近くに人だかりが出来ていて、そこに『日本の飛鳥から 世界の飛鳥へ』という看板が立てられている。すぐ近くにも人だかりがあり、そこにも『この自販機の収益の一部は 飛鳥保存に役立てられます』という看板があった。
作品名:齋 藤 飛 鳥 作家名:タンポポ