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齋 藤 飛 鳥

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『ああ、やる。あとこの言葉もお前にやる。「のりてえ風に乗りおくれた奴は、まぬけってんだ」……。人生、色々ある。それがわかんねえ奴らは色々言うだろう。けどな、言い訳するな。ただ、その時、前にも後ろにも進めずに立ち止まっちまった時、お前の眼の前に吹き込んだ風に乗れ。見逃すなよ、そういうのはその辺にころがってないからな』
 風秋夕は、その言葉を反芻(はんすう)する。
『乗りてえ風に、乗りおくれた奴は、まぬけってんだ、………』
 風秋遊は、そんな風秋夕を満足そうに見つめながら、うまそうに煙草を吸った。白い煙はゆっくりと加速し、浮遊して、そうして白さを空気に消していく。
 風秋夕は父親の顔をまっすぐに見つめる。
 風秋遊は、にっこりと笑った。
『あの港区の地下のお城な、実はもう名前があるんだ。名前はこう、リリィ・・・……――』

 改めて、二千十九年八月十日――。秋元康先生と風秋遊は、〈リリィ・アース〉の地下二階エントランス・フロアの南側の地上へと繋がる大型エレベーターの奥に在る〈応接室〉にて、談笑していた。相席している風秋夕は、憧れの秋元康先生との初対面で、がちがちに緊張と興奮を強(し)いられていた。
 風秋夕がようやく緊張を伴う会話にも慣れてきた頃、秋元康先生のスマートフォンに一本の連絡が入った。誰かがここに到着したらしい、そういう連絡だった。
 しばらくして、風秋遊は席を立つ。風秋夕は秋元康先生と二人きりになり、また計り知れぬ緊張を思い出していた。
 十五分が経つか経たない頃、風秋遊が〈応接室〉に連れて戻って来たのは、乃木坂46の齋藤飛鳥であった。彼女は現在、乃木坂46の23枚目シングルの『シング・アウト』のセンターとして注目されている世界的スター乃木坂46のエースである。
「さあ、挨拶だろ夕。齋藤さんにご挨拶を」
 齋藤飛鳥は、まだ一度も風秋夕と眼を合わせていない。
 特大のサプライズを用意した張本人である秋元康先生も、座った眼で事の次第を傍観しているだけであった。
 風秋夕は、ソファを立ち上がって、震える声を、絞り出す事に努める。
 眼の前に、世界一好きな人間がいるのだ。
 それは国民的アイドルで。
 世界的知名度を持つスターであって。
 齋藤飛鳥、なのである。
 風秋夕は、バレないように短く深呼吸を消化した。
「飛鳥さん、初めまして。飛鳥さんが世界一大好きです。ノギヲタの、風秋夕です、どうぞよろしく」
 齋藤飛鳥は、くすくすと笑ってくれた。
「ああ、ども……」
 ぺこ、と会釈(えしゃく)した齋藤飛鳥は、もう視線を余所に向けていたが、その表情には笑みが残されていた。
 風秋遊は微笑んで、秋元康先生に身体を向けた。
「先生、うちのCMの企画、先生にお任せしたいのですが、ただでお願いするわけにはもちろんいきません」
 秋元康先生は苦笑で、佇んでいる風秋遊を見つめる。
「えぇ? ただで仕事するのぉ? 面白い仕事だったらいいけど」
「ギャラが無いとか言ってませんよ、そのままオファーするのが失礼にあたると言ったつもりなんです。オファーするには、先生に私の考える十五年、二十年先の未来を見てほしいと思い、今車を回させて頂いております。面白かったら、CMの件、丸ごと呑んでもらいますよ。さあ、まいりましょう」
「いいよぅ」
 秋元康先生は高明な笑みを浮かべて、ソファから立ち上がった。
 齋藤飛鳥は、風秋遊と秋元康先生を慌(あわ)ただしく交互に見つめながら、慌てる。
「えっ、えっ、……移動、ですか?」
 風秋遊は優しく、齋藤飛鳥に微笑む。
「俺の予感は企業秘密なんだ、こんな絶世の美女といられる時間が短くて残念だけど、俺と先生は行くから、ね。夕に色々と紹介してもらうといいよ、この地下の城は、世間的に誰も知らない秘密を約束された特別な場所だから、何をしても大丈夫だし、何が出来るかが重要なんだが、ここはかなりできる。まあ、楽しんでください、お姫様」
「えっ、え、え」
 齋藤飛鳥は、秋元康先生に、その視線で助け船を求める。
「そういう事らしいよ」
 秋元康先生は齋藤飛鳥に微笑んでから、出入り口へと丁寧に誘導している風秋遊の前を通って、後に続く風秋遊と共にその〈応接室〉から退出していった。
「え、え、え、え、」
 終始そう戸惑っている齋藤飛鳥に、風秋夕は優しく微笑んだ。
「ハッピーバースデー、飛鳥ちゃん……」
「え?」
 胸元で両手の拳を震えさせていた齋藤飛鳥は、笑顔で待っていた風秋夕を、初めてじっくりと観察した。
 灰色のYシャツを肘(ひじ)までまくり上げていて、ブラックのスラックスに、焦げ茶色のブランド名の記されていないGucciのベルト、黒のDiorのローファー。
 前髪は長めで、黒い頭髪は襟足(えりあし)が少し伸びていた。耳にダイアのピアスをしている。少し色黒で、歯が白いのが際立って見えた。
 妖艶(ようえん)に開かれた眼は大きめで、顔が小さい。それはおとぎ話から飛び出してきた王子様のような、絵に描いたような美男子であった。
「飛鳥ちゃん、今日で21歳ですよね」
「え……。ああ、はい」
「だから、ハッピーバースデー」
「ありがとぅございます……」
「こっちに来て」
 風秋夕は、齋藤飛鳥の手を取って、〈応接室〉から出た。指先を弱く握られている齋藤飛鳥は、少しだけむっとしている部分もあったが、それ以上に、眼の中に飛び込んでくる上表量の方が勝っていた。
 無言のままエレベーターをぐるりと通り過ぎると、そこには、地下という事を瞬時に忘却させる途方もなく広大な空間があった――。
 床一面に敷かれた幾何学的な絨毯は蒼く、絵画のようなピクチャーを形成させている。天井(てんじょう)の高さは18メートル以上もある。天井に埋め込まれたライティングは穏やかなサーチライトのように、しっかりと空間を照らし出している。
 ずっと先の前方に、星形に五台並んだエレベーターが設置されていた。上へは繋がっていない。おそらくは先ほどのエレベーター同様に、更なる地下へと向かうのに使用する者なのだろう。
 更に更に奥の、霞みそうな景色の奥に、三段の階段があった。その奥に、巨人が使うのか、巨大な扉が二つ、広大な正面の壁面に存在していた。
 齋藤飛鳥は、自然と離された手を気にもせずに、「うわ…」という言葉を落として、何歩か前身してみる……。
 右と左に、何か、BARカウンターのあるラウンジのような空間が設(もう)けられている。そこにも、左右どちらの壁面にも巨大な扉が一つずつ在った。
 しかし、ここから正面の階段まで、100メートル以上あるのではないだろうか……。
 齋藤飛鳥は、その声にはっとなる。
「ジャンケンをしよう、飛鳥ちゃん」
「は、え? じゃんけん……」
 齋藤飛鳥は、きょとん、とした悪魔のように美しい顔を、風秋夕へと向けた。
 風秋夕は微笑む。
「俺は、グーを出す……。俺は世界的大企業のファースト・コンタクトCEOの一人息子で、未来を約束されてる。そんな俺が負けたら、飛鳥ちゃんの欲しいもの、何でも叶えてあげれるよう、一生つとめるよ。言っておくけど、俺は乃木ヲタで…、飛鳥ちゃんの大ファンね」
作品名:齋 藤 飛 鳥 作家名:タンポポ