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齋 藤 飛 鳥

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 齋藤飛鳥は、きょとん、とした表情のままで「はあ」と呟(つぶや)く。
 風秋夕は楽しそうに言葉を続ける。
「そんな俺は、グーを出す……。いい? ジャンケンをして勝った方が、一つ約束を守るってのはどう?」
「どんな約束ですか?」
「飛鳥ちゃんが勝つんだから、飛鳥ちゃんこそ願い、というか約束を考えなよ。ふふ、一応、俺も考えるけどさ」
「あじゃあ、はい、はい……。いいですよ」
 風秋夕は改めて、優しい笑みを浮かべた。
「じゃあ、いくよ。じゃーんけーん、ぽん!」
「ぽん」
 齋藤飛鳥は、パーを出した。
「えっ?」
 齋藤飛鳥は驚いた顔で、風秋夕を一瞥する。
 風秋夕が出したのは、チョキ、であった。
「俺の勝ち……」
 齋藤飛鳥は笑う。
「ずっる…あっはっは、ずる! だって……、グー出すかと思って……」
 風秋夕は、齋藤飛鳥を見つめて、また微笑んだ。
「これが、俺が飛鳥ちゃんにつく、最初で最後のウソ……。ごめんね、嘘ついて。どうしても勝つ必要があって」
「なに? なんですか。ふふん、ずるいな~……」
 齋藤飛鳥は、上唇と下唇を噛むように隠して、ふらふらとしながら、風秋夕を一瞥した。
 風秋夕は眼には見えない心臓の鼓動をどくどくと加速させながら、涼しい笑みで言う。
「飛鳥ちゃんに、これからも、ここに遊びに来てほしいんです……。俺がいるとか、いないとか、そんなの抜きにして、自由にここを使ってほしい。食べ物も飲み物も、ジム施設も、プールも大浴場も、お化け屋敷も、カラオケも、何もかもが無料で、お金は必要ない場所です」
 齋藤飛鳥は眼を細める。
「お化け屋敷?」
「さっき、ここに入る前に、眼をスキャンしたでしょ?」
 齋藤飛鳥はそれを思い出す。確かに、この地下施設の入り口でもある、地上一階の一般住宅のような出入り口には、瞳をスキャンするキーがかかっていた。
「ここは、選ばれた人間しか入れない……。よって危険が無い事は保証します。何か困った事があれば、随時いる執事のイーサンに言えばいいし、従業員も実は50人以上待機しています。その従業員達は、選び抜かれた人格者揃いで、ここから出る年収も一千万以上あるし、変な気は、まあ絶対に起こさないでしょう。はっきり言ってこんなにいい仕事他に無いから」
 齋藤飛鳥は、呆然とその話を聞いている。
 風秋夕は微笑む事を忘れたまま、必死になって説明を続ける。
「異常事態に対処できる人材であって、異常事態を引き起こす可能性はゼロに等しいんだけど……、一応、ここの決まりで、従業員達は全員、腕にリングをしています。そのリングは、ここの執事であるイーサンが異常を察知した際に反応するリングで、異常事態を起こした従業員は、はめてるリングからただちに針が出て、麻酔が注入されるようになっています。防ぐ事も外す事も、ここから出ない限りは不可能な代物です。だから、普段、姿は見せないと思うけど、従業員達においても、完全に安全なんです」
 齋藤飛鳥は、じっと、風秋夕を見つめた。
 風秋夕は、その美しい眼差(まなざ)しに、微笑む事を思い出した。
「今野さんから、許しをもらったんだ。乃木坂の息抜きの場所にしていいって。俺達は、実はここに出入りする一般人が俺を含めて五人いるんだけど、その五人は、乃木坂が出入りする事実を決して他言しない、て約束で、この場所を乃木坂に捧げてもいいって……。もちろん従業員やここを知る数少ない関係者達も、秘密を約束されてる人達と、秘密を契約してる人達、色々といるけど、みんなが秘密を継続していく」
 齋藤飛鳥は、風秋夕の後ろ側の景色を、もう一度、確かめるように黙視してみた。
 そこは室内というよりは、『空間』で、地下という事実が受け入れ難(がた)いほどに大きかった。
「ふ~ん……。気が、向いたら」
「うん。待ってる」
「いや、待たれても……、それは、ちょっと違う…」
「口コミで」
「それも、ちょっと違う、気がするかな……、うん」
「はは、本物の飛鳥ちゃんだ」
 風秋夕は無邪気に笑った。
「はい?」
 齋藤飛鳥は眉根を寄せて、眼を座視に変えて、その表情を険しくさせた。
「ハッピーバーズデー飛鳥ちゃん、リリィ・アースにようこそ!」
「はあ……」
「ほんとは手が震えてんだ、気づいた?」
「うふん、気づいてた」
「齋藤飛鳥ちゃんだよ、うっわ、……。乃木坂で最初のゲストだ」
「ご飯食べれるって、言いましたよね?」
「うん。言った」
「どこで? お金いらないの? ですか?」
 風秋夕は、心の奥から溢れ上がる感情のままに、無邪気な笑みを浮かべた。
 齋藤飛鳥は、上目遣いで、きょとん、と風秋夕を見上げている。
「ここにはレストラン・エレベーターっていう食べ物とか専門のエレベーターが各所にあって、いついかなる時でも………」

       10

 二千二十二年十二月七日、乃木坂46はFNS歌謡祭・第1夜に出演し、『ここにはないもの』を披露した。続く二千二十二年十二月十二日には、乃木坂工事中にて【感涙!飛鳥ラストヒット祈願 贈る言葉になぜか爆笑】の完結編が放送され、二千二十二年十二月十三日には、ハマスカ放送部の二千二十二年度ラストを飾る回が放送された。
 二千二十二年十二月十八日には、筒井あやめがパーソナリティを務めるラジオ番組、乃木坂の「の」に齋藤飛鳥がラストとなる出演を果たし、翌日の二千二十二年十二月十九日には、乃木坂工事中にて【余興だらけの忘年会‼衝撃の展開に大爆笑】の前編が日付変更と共に放送され、その日の夕刻には、CDライブ!ライブ★齋藤飛鳥ラストステージ・齋藤飛鳥からクリスマス・メッセージ!と題され、乃木坂46は純白の衣装で『ここにはないもの』を披露した。
 二千二十二年十二月二十三日には、ミュージックステーション・ウルトラ・スーパー・ライブ2022・全68組75曲生ライブ6時間にて、齋藤飛鳥の歴史をVTRで振り返りながら、『ここにはないもの』を披露した。
 二千二十二年十二月二十四日、クリスマス・イブ。今宵の聖夜、〈リリィ・アース〉には、乃木坂46の数名と、乃木坂46OG達と、乃木坂46を運営する幾多のスタッフ達が集まっていた。
 現在、このクリスマス・イブとクリスマスの聖夜、二日間だけ、〈リリィ・アース〉ではクリスマス・マーケットを運営していた。
 地下二階の広大なエントランス・フロアには、中央の広間に十二メートルのクリスマスツリーが飾られ、それを囲うように飲食店や玩具屋などが出展されている。
 地下三階の広大なライブフロアにも、中央に十二メートルの白いクリスマスツリーが飾られ、やはり、それを囲うようにホットワインやカクテル、ビールなどを扱った店や、世界の料理を提供している店々が出店している。
 地下四階の広大なフロアにも、中央の星形に五台並んだエレベーターと少しだけ距離をとって、オーナメントと発光ダイオードで埋め尽くされた十二メートルのクリスマスツリーが飾られており、やはり、それを囲うようにして、木製の兵隊を模したオモチャや、木彫りのピラミッドなど、遊び心のある玩具屋と飲食店が数々と出店されていた。
作品名:齋 藤 飛 鳥 作家名:タンポポ