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齋 藤 飛 鳥

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 会社、兼、たまり場であるマンションは3LDKで、八畳の和室と洋室が一部屋ずつあり、六畳の洋室が一部屋あった。皆は六畳一間の、ベッドとブラインドしかないからっぽの部屋に、私物を置いた。
 リビングは十六畳あり、キッチンカウンターを隔(へだ)てて、小振りのキッチンが北側の方角に在った。
 向き合うように置かれた一脚四人用の、二脚のロング・ソファに、挟む込まれるようにしてガラス製の小テーブルがある。南、北と置かれた二脚のロング。ソファの西側にテレビが置かれていて、ベランダは南側のソファの背後と、西側のテレビの背後に在った。
 買い込んだ物はそのほとんどが食品で、カラの冷蔵庫を飾るにはちょうど良かった。
「夕君、お支払いすますので、言って下さい。おいくらぐらい、お支払いすればよろしいでしょうか?」
 駅前木葉が冷蔵庫の前で、不安そうな瞳を向けて月野夕に言った。
 月野夕は飲みかけの缶コーヒーを飲み切るまで待てと、左手を向けている。
 稲見瓶がも、冷蔵庫への作業を終えて、駅前木葉の隣に立った。
「夕、五人で割ろう」
「ぷあ、あ~~、コーヒーはうまいな。ああ、いい。俺会社やってんだ、お前らより少し金持ちだろうからさ……。金の事は今後も気にすんな」
「そんなわけには……。いいん、ですか? 本当に? でもぉ……」
 駅前木葉が戸惑う隣で、稲見瓶はメガネの中のその顕在的に鋭い眼を、月野夕の軽い笑みに釘づけていた。
「会社を? 高校一年生だよね、十五歳の……」
「ああ、経営してる。設立はもう一年前だよ」
 月野夕はその整った顔ではにかんだ。
 駅前木葉は二人を交互に見上げている。
 稲見瓶は、メガネの位置を指先で少しだけ上げて、見つめたままの月野夕へと言う。
「なんの仕事を?」
「ただの仲介屋だよ」
「職種は?」
 月野夕は、笑みを浮かべて、腰をキッチンカウンターに預けた。
「インターネットの簡易的なVR、つまりバーチャル空間、仮想現実空間っていうんだけど、そこに小規模な店舗やデパート、街を造って、そこに本物のサイズや造形、写真なんかが窺えるアイテムを飾り、消費者はアバターと呼ばれるVR、仮想現実空間での己を用いて自由に買い物ができる……。もちろん、本物の金でね」
 磯野波平と姫野あたるは、どうやら意気投合したらしく、リビングのソファでテレビを点け、ブルーレイレコーダーの録画機能を使い、録画番組を見て盛り上がっていた。
 稲見瓶はその言葉を躊躇いながら、唾を呑み込んでから言う。
「ただの高校生とは、最初から思えなかったけどね……、そう。そんな事を、もう。利益はどうやって?」
 月野夕は「プライバシーだぜえ?」と笑ってから答える。
「会社的には、商品を飾る事でCM料金が発生する。売れ行き次第ではもちろん、インセンティブも発生する」
 稲見瓶は、足が震えそうに、衝撃を受けていた。SNSで知り合ったばかりの同じ学年の高校生が、会社を経営し、すでに大人社会でのマーケティング技術を身につけている。
「会社名は?」
「まえ株、コンビニエンス・オーバー・トラディッション……」
「株式なんだね……。何か、飲み物を取ってくれるかな、駅前さん……」
「あ、はい!」
 月野夕は、腕組みをしながら、稲見瓶を見つめ返して言う。
「イナッチになら言ってわかるだろうから言うけど、この俺の会社は、仮想空間をヴァ―サティルにデザインして、多様的に活用していく事で、業界ではちょこっと注目を集めたんだ」
「仮想空間を、一人で?」
「いんや、まさか」
 月野夕は可笑しそうに笑みをこぼした。
 稲見瓶は笑わない。
「はい、稲見君……」
「ありがとう、駅前さん」
 駅前木葉からファンタ・グレープのペットボトルを受け取り、稲見瓶は呷るようにそれをごくごくと飲み込んだ。喉の奥に、甘い微炭酸がしみた。
「仮想空間は本当に簡易的なシステムで、デジタルな面は専門の大学生を40人雇って創ったんだ。一人二万で雇い倒したからな、大学生は才能と知識が旺盛で、金に乏しいから助かる。会社設立までの費用は、150万前後、てとこかな」
「株式にした、理由は?」
「有限だと、あとあと広げたい時に、動けないからな。まあそのうちわかるよ、たかだか25万ぐらいで、株式にはできるんだから」
 稲見瓶は震えそうな脚を、強靭な精神力で制御する。今目の前にいる人物が、人物でも人員でもなく、人材だという事がはっきりと彼にはわかっていた。
「商品の家具とかの詳細なサイズ注文とか、自宅での配置なんかのテストも、VRの中で全部可能だからぁ、3次元コンピューター・グラフィックスには、かぁなり拘(こだわ)ってるかな……」
 稲見瓶の脳内は、月野夕への質問で溢れていた。しかし、稲見瓶は、ききたい事の順番を順序良く頭の中で綺麗に整列させてから、その抑揚のない低い声と顕在的なポーカーフェイスで月野夕に尋ねる事にする。
「資金調達は、どうしたの?」
「お年玉と、バイトした。中一から初めて、中三の夏までやったよ。バーテンダー、深夜から朝までの時間帯で」
「歳は?」
「店長が女の人だったからな、すぐ見抜かれた。でも、雇ってくれたんだ、やっすい時給でさ」
 月野夕は、冷蔵庫へと赴(おもむ)く。
 稲見瓶は、月野夕のいなくなったキッチンカウンターの空間を見つめたままで質問する。
「今後も、続けていくんだよね、会社を……」
 月野夕は、冷蔵庫にしゃがみ込んで、アイス・コーヒーのペットボトルを取り出しながら答える。
「今、仮想通貨を創ろうか検討してる……。それが叶えば、マーケットは日本から、世界中へ広がる……。駅前さん、なんか飲む?」
「あ、ううん、いえ、だいじょぶ、です……」
 月野夕は立ち上がる。
「俺達、今日から本当の仲間になろうぜ――。乃木坂46ファンの、同盟を組もう……。それから、うちの会社、今ポストがあいてんだ。たぶん、お前にしか任せられない。やるか?」
 稲見瓶は、月野夕を振り返った。
「やらせてもらう。いつか、夕に追いついてみせるよ……。必ず。それだけの働きをみせよう」
 月野夕は、無邪気に微笑んだ。
「OK相棒。――さ、今日はFNS歌謡祭、乃木坂が今話したい誰かがいるを披露する!」
 稲見瓶は、ふっと力んでいた肩の力を抜いて、微笑んだ。
「なぁちゃんとまいやんのセンター、飛鳥ちゃんは六回目の選抜だ」
「俺の飛鳥ちゃんコレクション見る?」
 月野夕は笑みを浮かべて、駅前木葉と稲見瓶を交互に見つめた。
「見たいです!」
「夕、飛鳥ちゃんはみんなのものだよ」
 月野夕はさっぱりとした笑みで言う。
「だけど飛鳥ちゃんは一人しかない」
 稲見瓶は苦笑した。
「困ったね、本当だ」
 駅前木葉も苦笑した。
 リビングに移った後は、大盛り上がりで騒いでいる磯野波平と姫野あたると合流し、改めての自己紹介をした。
 やがて、そのリビングに時が来る――。
 二千十五年十二月二日の(株)コンビニエンス・オーバー・トラディッションのリビングフロアの大型液晶型テレビには、FNS歌謡祭にて、乃木坂46が13枚目のシングルとなる『今 話したい誰かがいる』を披露していた。
作品名:齋 藤 飛 鳥 作家名:タンポポ