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齋 藤 飛 鳥

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「茉央ちゃん、茉央ちゃんとさくちゃんの『ボクノート』マジでヤバかったよ。あれ新スタ誕ライブではやんなかったね。配信で観させてもらったよ」
 五百城茉央は白い歯を見せながら可愛らしくはにかんだ。
「あ、あは、ありがとうございます……。え観てくれたんですか? あ、飛鳥さん、メリークリスマスです」
 齋藤飛鳥は会釈する。
 風秋夕は微笑む。
「すっごい観てた。姫奈ちゃんも最高可愛かったし、ダンスも切れてた。最高だね」
 岡本姫奈は照れ笑いを浮かべた。
「えーありがとうございます、もう、ダメです、私は緊張しすぎちゃって……。飛鳥さんメリークリスマスです」
 齋藤飛鳥は「ども」と会釈する。
 風秋夕はにこにこする
「うんうん、いいね。緊張するぐらいが可愛くて好き。咲月ちゃんなんか、歌うまいし、カッコイイし、尾崎良かったな~」
 菅原咲月は小さく首を振ってはにかむ。
「ダメですダメです、でも、ありがとうございます。あ、飛鳥さん、メリークリスマス、です」
 齋藤飛鳥は会釈してから、風秋夕を一瞥する。
「あんた、意外と観てんのね~……。そんな暇ある?」
「基本、リピート再生の時間帯ね、観るのは」
 風秋夕はにっこりと答えた。
 川﨑桜は笑顔で、井上和と稲見瓶に説明している。
「さくたんロース必殺技やって下さいって言われたんだけど、なんかよくわからなくって、どうしようと思って、思いながらロース? お肉のロースの、『さくたんロース、お肉ジュワジュワジュワ~!』てやったら、違う、そっちじゃない、ってなって。さくたんロースがわからなくって……」
 井上和は閃(ひらめ)いたように言う。
「サンタクロースをもじって言ってるんじゃなくて? え違うのかな……、さくたんロース、サンタクロース」
 川﨑桜は真顔で答える。
「あたぶんそうなの……」
 稲見瓶は言う。
「さくたんクロース、なら伝わったのにね」
 川﨑桜は「んふっ」と眼を無くして吹き出すようにして可愛らしく笑った。
 井上和は改めて、礼儀正しく齋藤飛鳥に挨拶をする。
「飛鳥さん、メリークリスマス、おめでとうございます、おめでとうございますって言うのかな……」
 齋藤飛鳥は「おめでとうございます」と短く笑った。
 川﨑桜もにこにこと挨拶をする。
「飛鳥さんメリークリスマスです」
 齋藤飛鳥は「うい」と軽く会釈して笑顔を浮かべた。
「可愛い……」
 齋藤飛鳥は歩き始める。
「じゃあねイナッチ~」
 稲見瓶はついてくる。
「ああ、俺も行く」
「えぇいいよ、いなよ……」
 風秋夕も嫌そうに言う。
「いなさいよあんたは……」
 稲見瓶は歩きながら囁く。
「探してたんだよ、俺も飛鳥ちゃんを……。行く。何か問題でも?」
 三人は粉雪でも舞い落ちてきそうな美しい冬の街並みに、あちこちと視線を向けながら、ゆっくりとした歩調で歩いて行く。
 遠くに冨里奈央を担いで歩く磯野波平の姿があった。風秋夕は、溜息をついて、ぐっと気持ちを堪えて歩く。稲見瓶も、心配そうにそちらに気を取られている。
 齋藤飛鳥は呆れて笑っていた。
 煙突のある印象的なオブジェのロッジの前に、中西アルノと奥田いろはと、先ほど会ったばかりの池田瑛沙がいた。姫野あたると立ち話をしている。
「おおう、世界的アーティストにプロのボディガードが二人もついているでござるな。飛鳥ちゃん殿、メリークリスマス、でござる」
 齋藤飛鳥は姫野あたるを見つめて、大きな瞳をぱちくりとさせる。
「んああメリクリ……。ダーリン、髪伸びたね。茶髪だし……」
 姫野あたるは頭を掻いて、笑った。
「小生、悪い成分になりたくて、草っ。ちょっと悪い魅力的な男を目指してみたでござるよ。似合うでござるか?」
「う~ううん」
 齋藤飛鳥は笑った。
 風秋夕は座視で言う。
「人には役割っていうのがあるんだ、ダーリンのポジションは純粋ヲタだろ? 似合わねえマネすんな、背伸びは疲れんぞ」
 姫野あたるは興奮する。
「その感じでござる! ずるいでござるよ夕殿は! 夕殿だけではござらん、イナッチや波平殿も! その顔を小生のととっかえるでござる!」
「おいおいなんの話だ……」
 稲見瓶は冷静に言う。
「かなりの費用がかかるけど、負担は申し出たダーリンでいいね?」
「いや……、それは……」
 池田瑛沙はふらふらとしながら、何だ何だと眼を見開いて身構えている齋藤飛鳥に近づいて、挨拶をする。
「飛鳥さん…、メリ~クリスマァス……」
 齋藤飛鳥は少しだけ怯えたまま、眼を見開いたままで、くすくすと笑う。
「あ、ああはい、メリークリスマス」
 奥田いろはもにこにこと齋藤飛鳥を見つめた。
「飛鳥さん、メリークリスマスです」
 中西アルノも、笑みを浮かべて言う。
「メリークリスマス、飛鳥さん」
 齋藤飛鳥は「いい子達だね」と眼を細めて、うんうんと頷いていた。
 風秋夕は思い出したかのように、五期生達三人を見て言う。
「アルノちゃん、マジで歌ヤバいね……。いろはちゃんとアルノちゃん、歌ガチでヤバすぎ……」
 奥田いろはは短く首を振りながら、にこにことしている。
 中西アルノは顔の前で小さく手を横に振っていた。
「全然です……。あの、せいいっぱい、歌わせていただいただけですので」
「歌だけでも、惚れる人はいっぱいいるだろうな……。てれパンちゃんは、意外にも歌もうまいんだけど、可愛さが目立つ楽曲担当だったね。可愛くて、声も可愛くて、とにかく可愛かった」
 風秋夕はにっこりと、池田瑛沙に微笑んだ。
 池田瑛沙は「えぇ、ほんとですか…」とくねくねしている。
 次の瞬間、風秋夕は走り出した。齋藤飛鳥は思わず「何、何々‼?」と怯えている。
 視界の先には、逃げ出した冨里奈央を追いかけ回している、磯野波平の姿があった。

       14

 地下二階の高さ十二メートルのクリスマス・ツリーの真下には、幾つもの色とりどりの紙で包装されたボックスのクリスマス・プレゼントが飾られていた。その眼の前に設けられた広場のやや中心にある巨大な木製のテーブル席の周囲に、ドリンクを手に持った乃木坂46三期生達と、齋藤飛鳥はいた。
 乃木坂46ファン同盟の風秋夕、稲見瓶、磯野波平、姫野あたる、駅前木葉もここにいた。
 ドイツのクリスマス・マーケットを模した広場の街並みに、設置された立食用の木製テーブル。そこを囲うようにして、稲見瓶と駅前木葉、風秋夕と磯野波平と姫野あたるは向き合ってディスカッションをしていた。
 齋藤飛鳥は、呆れながらその口論を傍観している。
 稲見瓶はメガネの位置を直してから、説明を再開させる。
「身長には体重の限界がある。巨大にしすぎると、体型的、造形的には脚を太くしなければ自重を支えられない」
 磯野波平は鼻を鳴らして笑った。
「そ~んなん、太くすりゃいいだろうが。多少はそうだろうな?」
 稲見瓶は説明を続ける。
「走ったり跳んだりする際には、脚をつく瞬間に体重、つまり質量だね、その質量の120%から140%の圧力が地面にかかる。さっき言ってたけどね、ガンダムが43.4トンだけど、実際にはノッシノッシとしか歩けない」
作品名:齋 藤 飛 鳥 作家名:タンポポ