齋 藤 飛 鳥
「演技が凄い、といえばいいのでしょうか……。まるで、飛鳥ちゃんさんじゃない、別物の興味を惹かれるというか、別人になって物語を魅せてくれるんですよね、飛鳥ちゃんさんは……。役者向きですね、確実に」
磯野波平は言う。
「役者ん時と別人の飛鳥っちゃん、つったらよう、ビリビリ水に口からいって感電したろ? 乃木中でえ! があ~っはっは!」
風秋夕は補足する。
「顔、指差して、『あります?』って言ってたから……、顔がな? 顔、ありますか? てさ。だから、か~なりの衝撃だったんだろうな。はは」
姫野あたるは考える。
「ノギビンゴで顔面生クリーム砲を受けた時以来の衝撃でござろうか?」
風秋夕も片眼を瞑(つぶ)ってしぶく思い出していく。
「あ~生クリームな……。いや、水静電気を口からいった時代に、確か、葉月ちゃんとタッグの、3期生代行戦、みたいのやってんだよ。それで、葉月ちゃん負けて、飛鳥ちゃん生クリーム食らってるな……。あれいつだったっけなぁ……」
姫野あたるは嬉しそうににやける。
「そういえば、なぁちゃん殿の卒業時期だったかもしれぬでござるな……。ぐっふふ、あの、なぁちゃん殿が卒業する時の、乃木中の感動回に、なぁちゃん殿と、まいやん殿がそろってバスの後部座席に座り、なぜか、なぁちゃん殿の卒業の事ではなく、二人とも飛鳥ちゃん殿の話をする、というのがあったでござるよ」
風秋夕は微笑む。
「あー、あったわ!」
稲見瓶も微笑んだ。
「あったね」
駅前木葉も微笑む。
「ええ、わかりますよ、もちろんです」
磯野波平ははにかむ。
「あのバスなあ、運転してたの、俺」
風秋夕は嫌そうに、磯野波平を一瞥する。
「何て言えばいいの? どうしたいの、お前は……」
「憶えてる、っつう事だろうが!」
「わかりずらいわ!」
駅前木葉は微笑んでしゃべる。
「『飛鳥はずーっといるだろうね』となぁちゃんさんはメンバーと話していたんですよね。そしてまいやんさんが、飛鳥ちゃんさんは、まだ二十歳になったばかりだから、あと10年いてほしいと言いました。そのVTRを観ていた飛鳥ちゃんさんは、『ちょっと厳しいなぁ』と呟(つぶや)いていました」
風秋夕は微笑む。
「あった。飛鳥ちゃんは30最までいかせよう計画」
稲見瓶は微笑む。
「今はまなったんがそうだね。46歳までいて欲しい計画だ」
風秋夕は白雪姫のように美しく眠る齋藤飛鳥を一瞥してから、皆に笑う。
「いや~年末から、新年めがけて相変わらず最高な話してるな。我ながら、あすが乃木坂46ファン同盟だわ」
姫野あたるは閃(ひらめ)いたように言う。
「新年といえば、いつかの乃木中の新年企画で、イノシシ鬼ごっこをやったでござるな。あの時、飛鳥ちゃん殿はイノシシの着ぐるみをかぶった鬼で、ゲームが始まる前に、眼をギラギラと滾(たぎ)らせていたでござるよ傑作(けっさく)! 草ぁっ!!」
風秋夕は笑う。
「ゆったんと丸太みたいな棒にまたがって、棍棒で粉の上に落とし合う、ていうゲームです~ぐ負けちゃうしな。はは、粉に塗(まみ)れる飛鳥ちゃんは絶対可愛いよ」
磯野波平もご機嫌で笑う。
「ハンドボール持たしゃ、日村さんの金玉にボール当てるしな? 可愛いよな?」
「何そこ、何でそこ急にぶっこんできたの?」風秋夕は不満そうに磯野波平を凝視する。「色々あるだろ、飛鳥ちゃんらしい可愛いがさ……」
磯野波平は笑ったままで言う。
「人の不幸好きだしな? 可愛いよな?」
「ん……」風秋夕は、少し考えてから、迷惑そうに言う。「いや可愛いよ、可愛いけどさ、何? お前は……、反抗期ぃ?」
姫野あたると稲見瓶は会話している。駅前木葉は、すやすやと寝入る齋藤飛鳥を見つめていた。
「飛鳥ちゃん殿は、観たい映画作品なんかをメモしているそうでござるよ。知っていたでござるか?」
「初耳かもね」
「46時間テレビでは、視聴者からの感謝のメッセージに、あれでござるな、あの曲でござる。『隣人よそばにいて』でござる! その『隣人よそばにいて』に送られてきた」
「まあ、『世界中の隣人よ』なんだけどな」風秋夕はさっぱりと言った。「まあいい、はい、どうぞ続けて、姫なんたら」
「姫なん……、いやあ! そこはダーリンでよかろう!」姫野あたるは驚愕する。「ダーリンでいいでござるよ、姫、姫なんたらとは……、ひどいでござるな夕殿!!」
磯野波平は顔をしかめて、姫野あたるにクッションを投げつける。
「うっせえなも~お、ごちゃごちゃ言ってねえで早く続き聞かせろ!」
風秋夕は座視で磯野波平を一瞥する。
「お前もお前でジャイアンか……」
稲見瓶は、咳払(せきばら)いをする。「おほん」
姫野あたるはしみじみと言葉を再開させる。
「その、『世界中の隣人よ』に、視聴者から、感謝のメッセージが届き、読み上げた美月ちゃん殿が、堪えきれずに、泣いたでござるよ……。それを、先輩として、や、優しく見守っていた飛鳥ちゃん殿が、自分が話す番になったら…くぅ、飛鳥ちゃん殿も泣き始めたでござる、うぅ」
「で」風秋夕は苦笑する。「なんでダーリンも泣くのよ……」
「いや、これはゲップを我慢しているだけでござる!」
「いや嘘へったくそかよ!」風秋夕は驚く。「びっくりするわ! そんな嘘、ガキでもつかねえだろ……」
姫野あたるは泣きながらソファを立ち上がる。
「泣きたくもなる! なんならば、小生を笑わせればよかろう! くふぅぅ……んぐ」
磯野波平は座視で言う。
「あんなあ……、梅ちゃんだけどなあ…、飛鳥っちゃんが先に楽屋入りしてる後に、おそく楽屋に入ってく時なあ、『おはようございます!』つってよ、畏(かしこ)まって挨拶すんのかと思いきや……、ひっくい声で、『どぉうもぉ~~』て言うらしいぜ、飛鳥ちゃんに……」
「ぷぷう!」姫野あたるは口元を両手で押さえながら、笑いながら着席する。「かっはっはっは!!」
「いや赤ちゃんぐらい簡単に笑っちゃったよこの人!」風秋夕は嫌そうに驚いた。
姫野あたるは涙を指先でふき取りながら、満足げに言う。
「あ~……、面白き梅ちゃん殿。梅ちゃん殿も美月ちゃん殿も、映像研から飛鳥ちゃん殿と急激に距離が近まったでござるな」
風秋夕は気分を一新して微笑む。
「そうだな~、乃木中の自己分析選手権も面白かったな~……。あれで美月ちゃん、飛鳥ちゃんの事、短所を当てるクイズだからって、悪い事言いまくりだったからな、はっは」
姫野あたるはにっこりと微笑む。
「声可愛い選手権でも、飛鳥ちゃん殿は可愛らしい声で優勝をおさめるでござるが、内容はずいぶんと悪い事を叫んだでござる。まあ、それは番組の用意したセリフでござるが」
稲見瓶は思い出したかのように語り出す。
「可愛い声選手権の時は、みなみちゃんの声が確か殿堂入(でんどうい)りだったね。HOSIMOもその時やってくれた。やってくれたのは飛鳥ちゃんもだよ。憶えてる?」
磯野波平はソファにふんぞり返る。
「ロボットになって歩いて、パン拾って食うやつだろ?」
風秋夕は、眠る齋藤飛鳥を一瞥して言う。
「ASUMOな。ハ、ナ、シ、カ、ケ、ナ、イ、デ、ク、ダ、サ、イ、な?」
「があっはは!」