齋 藤 飛 鳥
「やっぱり、飛鳥っちゃん、つったら、ライブのよ、まなったんプロデュースで『ロマンスのスカート』をゴスペルでやった時だろぉ! なあ?」
「何?『ロマンスのスカート』って……」風秋夕は嫌そうな顔をする。「いや『ロマンスのスタート』だから、スタートな! しかもゴスペルでって…、怖ええよもうイメージしたらなんか! んなもんロマンスじゃねえだろ馬鹿者! ゴスロリっていうんだよ覚えとけ愚か者め!!」
稲見瓶は甘えびの刺身をつまみ終えてから、皆を見る。
「飛鳥ちゃんといえば、ライブで宙に浮かぶブランコに乗りながら『硬い殻のように抱きしめたい』を歌った時じゃないかな。あの感動は今もさめない。名曲を歌いきり、感動までさせてくれた飛鳥ちゃんは、最高に輝いてた」
駅前木葉は快(こころよ)く頷いてから、笑顔を強化する。
「ええ、ええ、もちろんわかります。ですが、やはり、飛鳥ちゃんさん、といったら、『バカアニキ』ですよ。わかりますか?」
「もちろん」風秋夕は微笑んだ。「ノギビンゴの妄想企画ね! あれ好きだったぁ……。あれそういえばさ、飛鳥ちゃん、コントでメンドさんもやったよな? あんだっけか?」
「あんだちみはってか?」
磯野波平はあごを出して、風秋夕を凝視している。
「あんだ、ちみはってか?」
「……言ってねえだろ」風秋夕は嫌そうに磯野波平を睨む。「ねえやめてぇ思い出大会でボケ倒すの。200円あげるから」
「に、んなめてんのかっ、キザ野郎!!」
稲見瓶は落ち着いた口調で言う。
「メイドでコントは、乃木坂46ショウだね」
「あーそうだわ!」風秋夕はしっくりきて笑った。「いやさあ、その頃まで遡って思い出したんだけどさ、飛鳥ちゃん、『俺の嫁です』て豪語してた公認の中のお気に入りメンバーがいるだろ? 懐かしくないか?」
「この前、リリィのクリスマスマーケットに来てくれたらしいよ」稲見瓶は無表情で言った。
「なに!」
「ぬぅにぃ!!」
「なんと!」
「お会いしたかった……、残念です」
「ななみん、だよね。俺も会いたかった」稲見瓶はメガネの縁を持ち上げて、位置を直した。「ひっそり来たかったらしいから、仕方が無い……」
「んんー」磯野波平は、風秋夕に手の平を伸ばした。
「……なんだよ?」風秋夕は磯野波平を見つめる。
「2000円、早くよこせ」
「おおう、なんという金利の速さ、200円がもう2000円に!」姫野あたるは二人を交互に見つめながら驚いた。
「はぁ……、わかった」風秋夕は、疲れた顔で磯野波平を一瞥する。「話し終わるまで待ったら、300円やるわ」
「減ってんじゃねえかアホか!」
「アホはお前だろ俺は200円つったんだよアホめ!」
「んじゃ、300円な。あんなあ」磯野波平はご機嫌で話し始める。「飛鳥っちゃんはなあ、齋藤飛鳥、好き嫌い100の事、ちゅう番組でなあ、好きなひらがなは、飛鳥の『あ』で、嫌いなひらがなは『な』つったんだよがあ~っはっは!!」
風秋夕は、肩を落としてから、座視で磯野波平に言う。
「あのうぅさあ……、笑うなら、もっと伝わるようにしてから笑ってくれる?」
「あぁ? ぐわあぁ~っは、っはっはあ!!」
「笑い方の事じゃねえんだよ!」
姫野あたるは磯野波平を見つめる。
「わかりやすく、飛鳥ちゃん殿が『な』を選んで笑った理由を教えるでござるよ波平殿」
「あ?」磯野波平は、顔をしかめて、説明を始める。「だから、なぁちゃんと生駒ちゃんとまなったんがそこにいたんじゃねえか……。生駒ちゃんは『りな』で『な』があんだろ? まなったんも『まなつ』で『な』だろ? へへっへ、なぁちゃんなんか『ななせ』で『な』が2個もあるっつってなあ! びびってたぜぇがあ~っはっは!!」
姫野あたるは手を挙げた。
「じゃあはい、でござる。はい。……飛鳥ちゃん殿が、小さい頃からよくやっていた癖(くせ)は、な~んだ? でござる。ちと難問すぎて申し訳ない。わかった人には千両でござるな~、かっかっか、草!」
風秋夕はしれっと答える。「いやわかるって。あれだろ? おへそ、いじる癖だろ?」
「なん、なんと!!」姫野あたるは驚愕(きょうがく)する。「レギュラーものではない知識まで!!」
「千両は?」
「う、ぐぬぬ……」
稲見瓶は苦笑した。
「おへそをいじる癖は、小さい頃からの癖にありがちだね。うちの弟もよくやって、やりすぎてよく腹痛を起こしてた」
「そうでござるそうでござる!」姫野あたるは嬉しそうに、稲見瓶を指差して頷いた。「飛鳥ちゃん殿もやりすぎて、ゴリっとやってしまい、腹痛の中、握手会を決行したのでござるよ!」
風秋夕はにっこりと微笑む。
「飛鳥ちゃんあるあるならさ、飛鳥ちゃん顔小さいじゃんか? だからさ、メンバーは一緒に写るのを嫌がるわけさ。公開処刑、とか言われちゃうからさ。そんな中、まなったんだけは『おいで飛鳥』て言ってくれたんだとよ。『いいよもう私はあきらめてるから』て。理由はともかくとして、エピにまなったんらしさがあって、しかも飛鳥ちゃんあるあるで、最高じゃね? 俺、優勝かな?」
「あれ?」稲見瓶は無表情で風秋夕を見る。「いつから対戦形式になったの?」
姫野あたるは「対戦形式でも構わぬでござるよ、小生は負けやせぬし」と笑った。
「のぎ天の夏合宿では、魚を掴(つか)み取りしたでござるが、飛鳥ちゃん殿はけっこうな達人だったでござるよ。今なら、飛鳥ちゃん殿はきっとやれないでござるよ、生魚の摑み取りは」
風秋夕は姫野あたるを見る。
「『神に選ばれし美少女』ってヤンジャンに載った時ぐらい?」
「知らぬ!」姫野あたるは大声をはった。「わからぬ!」
「いや、なんで怒ったの今……」風秋夕は驚いたしかめづらで、姫野あたるを見つめた。「わからない、お前という人間がわからない……」
磯野波平はにこやかに言う。
「飛鳥っちゃんはドラム、やっぱ乃木団が凄かったよなぁ~。たぶんよぉ、男ならキムタクがチャンピオンベルト巻くぐれえにカッコイイんだろーな!」
風秋夕は大きく納得の笑みを漏らす。
「ギャップな、わっかる。世界最強の魅力武器、ギャップさえ、飛鳥ちゃんはドラマーっていうすげえギャップ持ってるんだからな。最強に間違いは無いな」
姫野あたるは微笑む。
「46時間テレビの、飛鳥ちゃん殿のラジオ体操も、最強でござろうな!」
風秋夕は姫野あたるを指差して喜ぶ。
「あー、ラジオ体操できない人なんだよな、飛鳥ちゃんって。はは、か~わい、どっこのお嬢さんだよ。なんであんたさっき怒ったの……」
「いや、小生が知らぬ知識を言われたもので、少し、取り乱した、すまぬ夕殿……」姫野あたるは、そう言ってから、皆に微笑む。「来年は兎年(うさぎどし)でござるが、のぎ天で飛鳥ちゃんは、ウサギを膝に乗せながら、『この子可愛いね? 飼いたいね? でも、その前に、私の事を飼って欲しいぴょん』と言った事があるでござるよ……。今では、何より難しい注文でござる」
風秋夕は口元を引き上げる。