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齋 藤 飛 鳥

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 駅前木葉は、そう囁いた、右隣りに座る伊藤理々杏を見つめて、深く、一つだけ頷いた。
「こうしてまた一人、先輩が卒業されるのですね……」
 と、今度は駅前木葉の左隣りに座る、岩本蓮加から芯に響くような囁き声が聞こえた。
 駅前木葉は、岩本蓮加を見つめる。岩本蓮加も、駅前木葉を一瞥して、言葉を続ける。
 ゼイン&シーアの『ダスク・ティル・ドーン』が流れる。
「11年って凄い……、と心から思います。長く続けるって本当に難しいし、想像を遥かに上回るぐらいの色んな苦労が定期的に訪れるので、逃げ出したくなる時期なんて全員に存在するんです……。でもそれを乗り越えられるくらいのファンの人と周りのメンバースタッフさん、家族、友達、のパワーがあるんですね~……」
 駅前木葉は優しい顔で微笑む。
「れんたんさんも飛鳥ちゃんさんも、うふ。子供、でしたものね……。よく、がんばってくれましたね、心より、感謝しているんですよ、いつも」
 岩本蓮加はちらっと駅前木葉を一瞥して、はにかんで、その笑みをすぐにしまった。
「ううん。みんなの期待に応えられない自分にうんざりする事がほとんどです……。ですが……、飛鳥さんが卒業するまでの期間は、ただただ楽しんでる私の姿、みんなの姿を見てもらえたら良いなと思いますね」
 駅前木葉は、右隣りの伊藤理々杏の声に自然と振り向く。
「僕も楽しみたいな……、うん。そうれが、たぶん……、ファンのみんなだって見たいんだと思うし。僕自身、そうやっていけたらいいな、てぇ、思うよね。ただ! 卒業は悲しいですよ?」
 駅前木葉は「悲しいです」と微笑んだ。今度は左隣りに座る、岩本蓮加の声が駅前木葉を呼んだ。
「卒業される先輩方の姿は本当に美しい……。素敵だなと、ひたすらに思うのです……」
 風秋夕は左手で頬杖をついて、右隣りの秋元真夏を見つめている。秋元真夏は、猫が笑ったような笑みを浮かべながら、風秋夕を見つめて返して言う。
「あすとは性格も真逆だし、好みも、コミュニケーションの取り方も真逆だから、友達っていうよりは、凄くぴったりな言葉は戦友なんだけど」
 秋元真夏は風秋夕に相槌を打ち、相槌をもらいながら、言葉を続ける。風秋夕は口に咥(くわ)えたストローを空気に浮遊させながら、秋元真夏の事を見つめていた。
「アプローチの仕方は違うけど、心の中でメラメラ燃やして、いかに伝えていくかっていうのをまっすぐ、別の方向からではあるけど、あすも私もやってきて……。ね聞いてる? ねぇそれ聞いてんの、ストロー何、ちょっとこっちは真剣に語ってるんですけど」
 風秋夕はストローを口から取って、吹き出した。
「いやまなったん話長げえ、と思って」
 秋元真夏は目頭に皺(しわ)を作ってはにかんだ。
「ちょっとお! 夕君が飛鳥の事語ろうって言ってきたんじゃん話長いって…えそんなのある? ちょ、ひどくない? ひどくないですか?」
 風秋夕も鼻筋に皺(しわ)を作って笑った。
「ご~めんごめん、愛してるよまなったん。飛鳥ちゃんの話、続き聞かせて」
 秋元真夏は恨(うら)めしそうな笑みで頬(ほお)を膨(ふく)らませる。
「も~お……、えと、何だっけ?」
「飛鳥ちゃんの卒業、に思う事」
「はいはい……。だから飛鳥の卒業の日まで、伝えたいものをくみ取って、伝えていきたいし、飛鳥がより素直になれる場所を作って、後輩達と一緒に……、エースとしてがんばってきた子なので、最後はほんとに、何も背負わずに卒業していってほしいな」
「飛鳥ちゃんが卒業するって、まなったん知ってたの?」
「え、夕君は?」
 風秋夕は溜息をつくように、小さく首を横に振った。
「俺らは聞いてない」
 秋元真夏は「そっかぁ」と、小皿のチャプチェを一口食べてから、また風秋夕の方を見る。
「同期が二人だけって状態だったじゃん? だから、だいぶ前から聞いてた。あの、卒業の話は」
「知らんぷり、うまいな、まなったんも、飛鳥ちゃんもさ……。それで、俺らの前でも、ファンの前でも笑ってんだからな。さすが、ていうしかないよな。じゃあ、いきなり、てわけでもないんだね」
 風秋夕は、そう言って、遠い眼でまた、左手で頬杖(ほおづえ)をついた。
 秋元真夏は、明太子餅を一口だけ齧(かじ)った。むしゃむしゃとよく咀嚼(そしゃく)する。
「まだ実感はわかないんだけど、発表した時に寂しさが出てきたり……。一緒にいる時間が少なくなってきてるから、沢山思い出を作ろうと思って、いっぱい話したり写真撮ったりっていう時間がすっごい増えたよ」
 と風秋夕を笑顔で一瞥した秋元真夏を、待ち構えていた風秋夕は、スマートフォンでその秋元真夏の一瞬の笑顔を激写した。
「んー、なにぃぃぃ?」
 秋元真夏は眼を見開いて驚いた顔をする。
 風秋夕はにっこりと笑った。
「まだ飛鳥ちゃんとの時間はある。そういう時間、大切にしなきゃだね。ふう~……、とうとう、最後の一人になっちゃうねえ……。ずっと仲間に囲まれて一期からやってきてさ、今、どんな気持ち? どんな感じなの?」
 秋元真夏は、頬(ほお)を触って、ころん、ころんと、小首を傾げながら答える。
「背負っていかなきゃ、って………。覚悟は決めなきゃな、とは思うよね……。あ」
 秋元真夏は、カウンターにあったスマートフォンを操作する。
 秋元真夏はにこりと、風秋夕に笑顔を見せる。
 風秋夕は「ん?」と秋元真夏を見つめ返した。
 秋元真夏はスマートフォンのライン表示を見せながら、猫を擬人化したかのようにな表情で微笑む。
「ねむーい……、だって」

       3

 二千十六年八月五日、稲見瓶は高校二年の夏休みを利用して、月野夕の経営する己の務める会社でもある(株)コンビニエンス・オーバー・トラディッションに泊まり込みで作業していた。
 月野夕は今、疲れ果てて別室で眠ってしまっている。仕事とは、どうしてか出来る者の方が出来ぬ者よりも疲れを感じるように仕組まれている。作業効率やいや何だという理論は置いておいて、実際に仕事が出来る者においてその日のうちに片付く仕事などは無い。
 月野夕がそうであった。彼は全くを持って『80:20の法則』をその身をもって実行している人材と言える。
 イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが提唱した理論、『パレートの法則』『ばらつきの法則』『働きアリの法則』などがそれに該当するだろう。
 成果の80%は、全体の20%から生み出されているとするものだ。売り上げの80%はたった20%の顧客によってもたらされている。言い方を工夫するなら、世界の富の80%は、たった20%の富裕層が所有している、とも例えられる。つまりは、売り上げの80%は、たった20%の顧客によってもたらされているという事だ。
 うちの会社(株)コンビニエンス・オーバー・トラディッションで検証すれば、それは一目瞭然だった。例えば、夏にクリスマス商品は売れない。うちの仮想現実空間で予約販売している商品でいうと、ケーキなんかも同じだった。
作品名:齋 藤 飛 鳥 作家名:タンポポ