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齋 藤 飛 鳥

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「ただいま。はぁ、ゆんちゃん、るなぴ、飛鳥ちゃんに卒業されちゃう事についてはどう思ってる? 寂しいわよねえ」
 柴田柚菜は大きな瞳を瞬かせて答える。
「んー、寂しいよ、もちろん寂しい。でも、卒業が近いだろうな~って事は感じていてぇ、うん、でも今年いっぱいっていう事を聞いて、驚いた……。やっと少しずつ声をかけて頂いたり、お話しする機会が増えてきたところでいなくなってしまうのは寂しいんだけど、期待の言葉や優しい言葉を沢山かけて下さるので、これからもっとその期待に応えなきゃな、て思ってる」
 二千二十二年十一月十日の深夜〈リリィ・アース〉地下八階の〈BARノギー〉には、ベストヒット歌謡祭2022【今年のヒット曲総決算!みんなで作る音楽番組】の生放送帰りの乃木坂46数名のメンバー達と、お仕事終わりの乃木坂46メンバー数名と、乃木坂46OGの生田絵梨花が遊びに訪れていた。
 オレンジ色に染まる薄暗い店内には、ブラックライトの蛍光色が紫色に発行し、九十年代風洋風居酒屋テイストの雰囲気を醸し出している。
 店内には、R.ケリーの『アイ・ウィッシュ』が流れている。
 宮間兎亜はしとしとと声を殺して泣いていた。林瑠奈が真剣な表情で語り始める。
「今年に入ってから沢山の数のライブをやらせて頂いてる中で、夏の全国ツアーでは、先輩方が後輩が目立つような構成を考えて下さったじゃないですか? そう……、去年に比べて、だいぶ先輩方とお話しできるようになったんですね。飛鳥さんに自分から話しかけに行くなんて、今までだったら考えられなかったんですけど、少しずつ出来るようになってきた中での、ご卒業発表だったので、本当にあっという間だな、ていうのを今、現在進行形ですごい、実感していて……。このまま年末まであっという間だと思うので、寂しいなっていう気持ちと、残りの時間に吸収できるところを沢山見て、自分の成長にも繋げていきたいな、とは思ってはいる」
 御輿咲希は感慨深く納得の頷きを数度、繰り返してから、二人にきく。
「飛鳥さんとは、最近、いいえ。最近じゃなくてもいいんですの、何か、飛鳥さんとはお話をしましたか?」
 柴田柚菜は嬉しそうに微笑んだ。
「一番印象に残ってるのは「期待してる」っていう言葉をかけて頂いた事かなやっぱ……。柚菜は、自分は何もできないって感じててて、あれがやりたいけど、自分にはできない、こうなりたいけど、きっと自分にはなれない、って、全部、自分で否定してたんだけど、飛鳥さんに「期待してる」って言われた事で、がんばったらできるかもしれないし、希望を持っていいんだなって気付く事ができて……。飛鳥さんと3回くらい大きな出来事があったんだけど、それが最初だったんだけど、その後にも色々あって。全部すごく印象に残ってて……」
 御輿咲希は微笑む。
「その3回、全部ききたいですわ」
「うんいいよぉ。あのね、2回目は、このシングルの表題曲のミュージックビデオの撮影の時に、飛鳥さんにコートを着せて頂くシーンがあって」
 林瑠奈が相槌(あいづち)を打つ。
「ファースト・カットだよね?」
 柴田柚菜は微笑み、声で頷く。
「そうなの。びっくりしたぁ……、そのシーンの撮影が何テイクもあっから、その間、ずっとお話しさせて頂いて。その時に、ずっーっと暗かった自分の気持ちが晴れて、眼の前が明るくなったんです……。3回目は、『乃木坂工事中』でヒット祈願の回があって。詳しくはオンエアを観てほしいんですけど、飛鳥さんから、自分が思ってた事と真反対の事、自分では思ってもいなかった事をいわれたんですね。そこでもまた、私が知らない私を見つけて下さって……。しかも、見つけて下さったのが飛鳥さんだったっていうのがすごく嬉しかったんです」
 林瑠奈はまるで待ち構えていたかのようにしゃべり始めた。
「飛鳥さんは年齢もそうですけど、期としても離れてる先輩で。特に私は4期生の中でも後から入ってるので、なかなか全体でしかご一緒する機会がなかったんですね。でも、今回の選抜発表の後に飛鳥さんとお話しする機会があって。「ちゃんと見てる人がいるから選ばれたんだよ」って言ってくれたのが凄い嬉しくて……。もちろん、ファンの方や家族、私を好きで見てくれてる方が沢山いて下さるのも嬉しいんですけど、凄く近いけど遠い存在……、先輩方やメンバーから、「ちゃんと見てるよ」っていうふうに言ってもらえる事は、ファンの方からの応援とは違った意味で凄く嬉しくて。がんばらないといけないな、ていうのをより実感したし、ご卒業されちゃうんだな、っていう寂しさもまたそこで感じましたね……」
 宮間兎亜はハンカチで眼をぬぐったまま、囁くように言う。
「あたいは……、メンバーでもないし、家族でもないわ……。でも、飛鳥ちゃんの大ファンなの……、あたいはあたいで、齋藤飛鳥を見つめてきたわ…だから、どんな人か知ってるのよ、あんないい奴、いないわぁっよっ、ぅっ……」
 店内を飾るBGMにケリー・ローランドの『ストール』が流れている。
 また泣き出した宮間兎亜を短く見つめてから、御輿咲希は二人に微笑む。
「実際、どんな人なんですの? 近くから見た、飛鳥ちゃんって……」
 柴田柚菜は大きな瞳でぐりん、と斜め横を一瞥しながら答える。
「柚菜はファンとして乃木坂を見てた時は、言い方が悪いのかもしれないけど、あんまり他人に興味ないのかなって思ってた。んだけど、乃木坂に入って、こんなに人の事見ていて、後輩の事まで気にかけてくれるんだなと感じて。本当に優しいなっていうのを特に最近は日々、感じてるぅ~」
 林瑠奈は待っていた順番が来たとばかりに語り始める。
「口に出さないだけで周りは良く見えている方だと思います。本当に近しいメンバーとか、一緒にいる時間が長すぎて、逆に普通だったら見えずらい部分があると思うんですけど、一歩引いた目線で見て下さっていて……。近くにいる存在だからこそ、言ってくれる言葉や行動に信頼感とか説得力があるし、重みも感じる。本当に表からじゃわからないぐらい、色んな人の事考えて気にかけて下さってて。今になってしか気付けなかった自分がダメだなって思うんですけど、あまり表には出さないけど、凄く見て下さったり、知って下さったりしてるのは嬉しいなって思います」
 御輿咲希は深い納得を落とした。
「じゃあ、柚菜ちょっとメイク落としてくるね」
「え? 今?」
 林瑠奈は驚いた顔で席を立ち上がった柴田柚菜を見上げた。
「うん、ちょっとほっぺがかゆい……。最近ちゃんとお手入れしてるの。3人で話してて」
「ほ~い」
 林瑠奈はしばしば了解した。柴田柚菜は通路を歩いて行く。
 御輿咲希は、テーブルでスマートフォンを弄り始めた林瑠奈の両手を握って、上品に微笑んだ。
「わたくし、るなぴの選抜入り、祈願していたんですの。アンダラでのるなぴの叫びを聴いた時から、箱を忘れるほどにるなぴに夢中になってしまっていて……。あの、選抜入り、おめでとうございます」
「あ~り~がとぉ~う、じゃ乾杯しちゃいます? 私はジュースで」
「ええ、乾杯しましょ」
 宮間兎亜は泣いたままで「るなぴおめでとぉ~~」と唸(うな)っていた。
作品名:齋 藤 飛 鳥 作家名:タンポポ