齋 藤 飛 鳥
柴田柚菜は出入り口のすぐ近くのテーブルに座る、阪口珠美と弓木奈於と、天野川雅樂(あまのがわがらく)と来栖栗鼠(くるすりす)と比鐘蒼空(ひがねそら)に捕まっていた。
来栖栗鼠はにこにことその女の子のような童顔を笑わせて、元気よく言う。
「ねえ~じゃあさ~、飛鳥ちゃんの好きなところ、言い合いっ子しなぁい? しようよぉ!」
比鐘蒼空は眼の前の、阪口珠美と弓木奈於と柴田柚菜に、激しく緊張している。
弓木奈於はにやける。
「飛鳥さんの好きなところ? いいよ、いいですよ~、いつでも。奈於いっっぱいある」
来栖栗鼠は隣に座る天野川雅樂に笑顔を向ける。
「じゃあはい、雅樂さんから~!」
「え、俺からかよっ………。深けぇぞ、俺のは……、いいか? いいすか?」
乃木坂46の三名はOKと頷いた。
「ツンデレなのに……、母親に、家族に対する愛情がしっかり伝わってくるとこです。やっぱ俺思うんすよ……、今の自分があるのって、親のおかげ、て…でっけえな、って……。それに対して、ちゃんと感謝したり愛情で返すのって、俺らの歳じゃ意外と難しくて、俺なんかは、いまだに親に心配ばっかかけてんすけど、ありがとうの一言も、なかなか素直に言えなくて……。飛鳥ちゃん見てて、そういうとこ、愛情深けえ人だな、て……惚れ直します」
弓木奈於が「おお~~」と拍手をした。
来栖栗鼠は嬉しそうに言う。彼はいつも嬉しそうである。
「飛鳥ちゃん見ててそ~ゆ~とこが見えるのって、もう飛鳥ちゃんマニアだね~」
「うっせえぞ来栖……」
「はい次じゃあ、たまちゃ~ん!」
阪口珠美は、ふと考える素振りを見せる。
「え、え~……うーん、沢山あるんですけど、最近お話しする機会が増えて、褒めて下さるところです。ファンの方には、ツンデレとか毒舌っぽいイメージがあると思うんですけど、温かい長文のメッセージを下さったりするのが、凄く嬉しい……」
弓木奈於は「ああ~~」と拍手していた。
店内にはジェニファー・ロペス ft.LLクールJの『オール・アイ・ハブ』が流れている。
「はい次ぃ~、ゆんちゃ~~ん!」
柴田柚菜ははにかむ。
「向こうでもさっきおんなじような話してたよ。えー柚菜ぁ? 全部が好きだからぁ…どうしよう……。一見、あんまり他人には興味がないように見えて、実際は他人の事をよく見ていて、後輩の事をすごく気にかけて下さっていて、いつもいい言葉を下さって、そういう心の温かいところが好きです」
弓木奈於と来栖栗鼠が「おお~」「わあ~」と拍手をしていた。
「はい次ぃ~! 弓木ちゃ~ん!」
弓木奈於は、真剣の中に笑みを交えたような、独特な表情を浮かべた。
「飛鳥さんご本人はご自分の事をネガティブだっておっしゃっているんですけど、奈於達にかけて下さるのはいっつも凄くポジティブな言葉ばかりなんです。自分に対して厳しい分、他人に対しては凄く優しくて、それが飛鳥さんの温かさだなと思いますし、大好きなところです」
来栖栗鼠は「弓木ちゃん真面目じゃ~ん、ほんとはそういう人なのぉ?」と嬉しそうに笑って拍手していた。
「どういう事ですか? へ?」
「へへ、うん何でもない。はい次の人ぉ~、蒼空君~!」
比鐘蒼空は、その綺麗な顔を俯けたままで、囁(ささや)く。
「おいらは……、シンプルに言います、ね。飛鳥ちゃんは、ドラムできる、のが……、あの美しい外見と、ギャップが激しくて、……そこが一番好きです」
来栖栗鼠は笑顔で言う。
「そういうのもほんとの好きだと思う、わかる~~。あ、じゃあ最後、僕ね! 僕は飛鳥ちゃんの好きなところは、ダンスでしょう? 演技でしょう? あとファッションでしょう? あと考え方ぁ、あとねー、世界一可愛いのと、内またなところぉ!」
店内にネリー ft.ケリー・ローランドの『ジレンマ』が流れる。
追加のフライド・ポテトが〈レストラン・エレベーター〉に届いた後も、来栖栗鼠は楽しそうに続ける。〈レストラン・エレベーター〉とは、ここ〈リリィ・アース〉と地上1階の数軒の一般住宅に化けた〈リリィ・アース〉調理場とを繋ぐ、地下を通る運送専用エレベーターの総称の事である。
「じゃあね~、乃木坂の3人にだけ質問! 自分にあって、飛鳥ちゃんに無いもの! 答えられなかったら罰ゲームでえ、僕とチュウね~!」
天野川雅樂はひきつった表情で「来栖っ、お前っ」と慌てている。来栖栗鼠は「んん?」と無表情にして天野川雅樂を見つめ返していた。
「はいゆんちゃんからぁ~!」
柴田柚菜は面食らったように、苦笑しながら答える。
「っえ! 無いよ……、でも、チュウは嫌だな……。あじゃあ、運動神経! 飛鳥さんは運動が苦手なのかなという印象があるんですけど、私は得意なので」
「はい次たまちゃぁん!」
阪口珠美は大きな瞳を泳がせて、考えてみる。
「え、なんだろう? 無いですよ……。うーん……、じゃ~、若者感! 飛鳥さんは若者言葉を使ってると「何言ってんだ?」って感じで見ますし、タピオカとかも好きじゃなさそうだし、ふふふ……。私はそういう若者が好むフードとかも好きだし、ギャルっぽい言葉とかも使ってしまうので……」
「あっはは、はい次~弓木ちゃ~ん! 自分にはあって、飛鳥ちゃんには無いものだよぉ!」
弓木奈於は「あでも一つあるよ」と話し始める。
「すっごく、落ち込む事……。奈於、1個の事に対して尋常じゃなく落ち込むのね? この前も歯医者さんで落ち込み泣きしちゃって、歯医者さんをびっくりさせちゃったり、ふふん……。飛鳥さんも落ち込む事は在ると思うんですけど、切り替えが早い方なので、奈央はそれを見習わなきゃなって思ってます」
来栖栗鼠は笑顔で、3人を見回すようにして情の深い囁き声で言う。
「飛鳥ちゃんの卒業シングル、選抜入り……、おめでとうございます。飛鳥ちゃんの背中は乃木坂の背中だよ、しっかり見ておいてね。僕もそうするから……」
阪口珠美はフライド・ポテトを飲み込んでから答える。
「私は、8作ぶりの選抜なんですけど、全開が『シング・アウト』で飛鳥さんのセンター曲だったので、個人的には飛鳥さんがセンターのシングルの選抜に帰ってこられた事に凄く思いがあって……。近くにいられる喜びとか幸せを嚙みしめながら、がんばりたいな、と思ってます」
柴田柚菜はしゃべり出す。
「今まで先輩の卒業シングルで選抜に入れなくて、最後まで話せないって事が何度もあったから、今回は最後まで近くで見送れるっていうのがすごく嬉しいし……、最後の最後まで一緒にパフォーマンスできる事がすごく、幸せだなって思う……」
弓木奈於も想いを語り始めた。
「奈於は、飛鳥さんとシングルでご一緒する事は2回目で、他の方と比べて一緒にいる期間は短いかもしれないんですけど、それこそずっとファンでもありましたしぃ、飛鳥さんから頂いたものは皆さんと同じくらいあると思うので、一緒にシングルで活動できる事に対して感謝の気持ちと、飛鳥さんダンスをちゃんと目の当たりにして、今後の自分に繋げていきたいなと思ってます」
店内には、アトミック・キトゥンの『エターナル・フレイム』が流れている。