ズッキュン‼‼
研究データの更新には一定の時間がかかる。一応、〈実験用〉のカメラも回ってはいるのだが、駅前木葉は研究データの更新中には一切の作業をしなかった。
まなったんさん、研究データは、それが得られた研究のプロジェクトよりも長く使われます。
組織化、文書化、保存・共有がしっかりとされたデータは科学研究を推進する事や学習、及びイノベーションの機会を増やす事において計り知れない価値があるのです。
研究データとは、研究の過程で、あるいは研究の結果として収穫、生成される情報の事をいいます。仮説を検証する為に使用されたり、結論を導く為に使用される事もあります。
電子的なデータのみ研究データと定義する事も、紙ベースの情報も研究データに含める場合も、どちらも両方あります。
研究データのとある形式はテキストや3Dモデルなど、様々あり、記録されるものも研究ノートや写真、音声テープなど多岐にわたります。
まなったんさん、研究データを構成するものは、けっこう沢山あるのですよ。
文書ファイル。スプレッドシート。アンケート。転写物、コードブック、写真、フィルム、スライド、人工物、サンプル、統計的なデータファイル、モデル、アルゴリズム、スクリプト、方法論、ワークフロー、研究ノート、フィールドノート、日誌、音声テープ、ビデオテープ、研究の過程で獲得され、生成されたデジタルの資料のコレクション、データベースのコンテンツ、アプリケーションソフト、標準的な操作手順。などがそうです。
研究者は、慎重が売りなのです。そして、研究においては、プロセスをとても大事にしています。
まなったんさん、こうしている間にも、まなったんさんは、次の世界へと羽ばたこうと時間の壁をよじ登っていますね。
私は、その手をひっぱるのではなく、脚の踏み台になりたいくらい。でもそれは、誤解しないで下さいね。決して、卒業を囃(はや)したり卒業を喜んでいるわけでないのです。過去のあなたに会いに行っています。毎晩のように。そこで微笑むあなたを見ていると、映像にも残っていないまなったんさんの様々な瞬間を思い出すのです。
そんなあなたが、卒業を迎えるのなら。11年間、がんばってきたあなたなのだから。私はあなたにエールを贈りたいのです。
でも、だけれど、過去のあなたに会いに行っても、もう、今は思い出せない瞬間もあるのですね。不思議です、あれだけ愛したはずなのに、それだけ、長い年月を戦って下さった証拠なのですね。
駅前木葉、研究データを見つめたまま、歌を口ずさむ……。
こんな晴れた日は 二人で丘に登ろう
港が見渡せる丘に
どんな空が思い浮かぶ 教えておくれ
キスしたい気分さ
何もない午後の入り江を
往く船をただ見つめていた
どうすれば時が戻る
眩しい太陽の下で
どれだけ涙流れても
静かに海は広がる
逃げ出したくなるような夜に
抱きしめていてくれるのは誰
つまらない事で一緒に
一緒に笑いあえるのは誰
どうすれば時が戻る
今何処で何をしている
全てを捨てたとしても
罪だけが増えていく
どうすれば時が過ぎる
言葉はいつも役に立たない
あの日の君の声は
もう僕に届かない
まなったんさん、B`z(ビーズ)さんはご存知ですか? 今の歌はB`zさんの『TIME(タイム)』という楽曲です。日本最高峰(にほんさいこうほう)のハードロックバンドで、弊社(へいしゃ)のCEOでもある、風秋夕君のお父様から直接教えて頂いた特別な曲なんですよ。
今は、『TIME』も、まなったんさんへの想いにしか結び付かないぐらい、あなたを想っています。この時間は録画されているのですが、音声は記録されないので、私は結果を待つ間、よく歌を歌います。小さな声でですけれど。
思い浮かぶ歌はどれも素敵でいて、そして、あなたへの想いを孕(はら)んでいます。
まなったんさん、例えば、こんな歌はどうでしょうか。
止まった手のひら
ふるえてるの 躊躇(ちゅうちょ)して
この空の 青の青さに心細くなる
信じるものすべて
ポケットにつめこんでから
夏草ゆれる線路を 遠くまで歩いた
心に 心に 痛みがあるの
遠くで蜃気楼(しんきろう) 揺(ゆ)れて
あなたは雲の陰に 明日の夢を追いかけてた
私はうわの空で 別れを想った
これは、YEN TOWN BAND(イエン・タウン・バンド)の『Swallowtail Butterfly(スワロウテイル・バタフライ)~あいのうた~』という楽曲です。母の好きな歌で、聴いているうちに好きを受け継いだ楽曲なのですが、不思議と今はまなったんさんの卒業とだぶります。
あなたと出逢った頃から知っていた曲ばかり思い出してしまいますね。私は歌が不得意ですが、歌うのも、ピアノを弾くのも大好きです。それは、普段心に閉じ込めて置いた想いを発散できるから。
気がつくと、乃木坂の歌ばかり、歌っては弾いているんですよ。繰り返し、繰り返し。乃木坂以外の歌では、不思議と、まなったんさんの卒業への一念が含められるような歌ばかりを聴いたり、歌ったり、弾いています。
例えば……。こんな歌……。
誰だって誰かによっかかって
替わりばんこにこなしてる
失ってはじめてわかる存在
こんなにも近くで支えられていた
ずっと あなた 見守り続けた
静かな愛に気付いた ありがとう
私を見ていて これが気持ちだから
ありがとうのかわりに
私を見ていてね
言葉では伝えきれない
だからこそがんばれるよ
言葉から伝わってきた
優しさが1つポロリ
これはKOKIA(コキア)さんの『かわらないこと~since1976~』という楽曲です。これも、母が私の誕生日に歌ってくれた事で知った歌でした。
まなったんさん達が、乃木坂46が、普段歌っている『歌』というものは、本当に不思議なものですね。私は音楽が大好きで、本当ならばピアニストになりたかったぐらいに音楽に興味があるのです。ですが、その夢は実力的にもそうですし、実家の経済的にも、私の勇気的にも、叶いませんでした。
歌を通して色んな事を学びました。乃木坂46ならば、『誰よりそばにいたい』で、涙が止まらなくなり、愛という形の無いもの、その存在しか把握していなかったあやふやな偏った知識の感情を、私は深く学ばされました。好きではなく、愛という存在を強く実感できたのは、家族愛以外では『誰よりそばにいたい』がそうではないでしょうか。おそらく、そうです。そう記憶しています。