ズッキュン‼‼
稲見瓶は、contax t3で宮間兎亜の事も撮影する。一瞬のフラッシュが背景と宮間兎亜を捉(とら)えた。そのカメラは、稲見瓶が齋藤飛鳥の影響で手に入れた至極の一品である。
風秋夕はスイートチリシュリンプを急いで飲み込んで、思い出したかのように興奮する。
「ZIP! 二月の金曜パーソナリティーにまなったん、就任だよ! おいどうするみんな? ZIP! 様様だな! 日本テレビばんざい!」
「梅ちゃんもTHE TIMEに出演中だしね。TBSばんざいだ。月曜日の朝は梅ちゃん」稲見瓶はごきそうさまの動作をしながら言った。「番組立ち上げから参加して、二年目になる。月曜日が梅ちゃんの印象になってから、もう二年なんだね……。金曜日も、きっとまなったんの印象に変わる」
宮間兎亜は男子二人の会話に忙しく視線と耳を機能させている。御輿咲希は早くも二つ目のバーガー、油淋鶏チキンに食べ進んでいた。
風秋夕は閃いたかのように、嬉しそうに微笑む。
「そうそう、そうだそう、美月ちゃん! RESEXXYのイメージモデルになったよ! すげえ! RESEXXYだぜえ?」
「美月ちゃんは、CanCamの専属モデルもそうだね。あとPEACH JOHNの初代ミューズでもある。あ……」
稲見瓶は、星形に五台円周に並ぶエレベーター付近から、こちらへと歩いてくる秋元真夏と松村沙友理と新内眞衣と、遠藤さくらと賀喜遥香と柴田柚菜と早川聖来と、筒井あやめと清宮レイの姿があった。
宮間兎亜と御輿咲希は振り返って興奮する。御輿咲希はバーガーを咀嚼しながら「んんん‼‼」と立ち上がっていた。
間もなくして、乃木坂女子と、乃木坂女子OGが東側のラウンジのソファ・スペースに立ち寄った。
「何、マックだ?」秋元真夏は屈託なく微笑む。「皆さんお揃いで」
「いやこっちのセリフ、皆さんお揃いで」風秋夕はにこりと笑った。「どういうメンツ? え、待ち合わせして? このメンツ?」
「偶然、ばったり会ったの」
秋元真夏はソファへと歩み寄りながら微笑んだ。暗黙の了解で、席替えが行われる。
東側のソファに座ったのは、遠藤さくら、賀喜遥香、柴田柚菜、早川聖来である。その正面となる西側のソファに座るのは、秋元真夏と松村沙友理と新内眞衣であった。
南側のソファに腰を置いたのは、筒井あやめと清宮レイと宮間兎亜と御輿咲希で、その正面となる北側のソファに着席したのは、風秋夕と稲見瓶であった。結果的に風秋夕が席を移動した形になった。
「まっつん、推し武道、ヤバいって可愛すぎるし面白いし、まっつんにぴったりだし」風秋夕は無邪気に笑った。「俺なんか本物のまっつんもえりぴよに見えてきた」
松村沙友理は微笑む。「うふふん、こっちは本物のまちゅやで。ていうか、なに、夕君髪伸ばしてんの?」
「変?」
「ううん、イケメンだよ?」松村沙友理は何とも言えない真顔と笑みと中間の表情を浮かべた。「ただ髪長いのも、似合うなあ、と……。思いました、へへへへ」
「アイラビュ」
「ありがとーえへへん」
新内眞衣はメニュー表を皆に配る。
「と~りあえずなんか食べよ? なんか、あったかいの、いこうよ」
秋元真夏はにっこりと微笑む。
「あじゃあ、鍋とかいっちゃう?」
「それいこう」新内眞衣は、メニュー表の鍋の特集ページを開こうとする。「チゲかな~……、あでも、ここのキムチも美味しんだよな~」
賀喜遥香は顔を前に出して、耳を稲見瓶に向けた。
「え?」
「すみれちゃんこんばんは」
「すみれちゃん? ああ、私ね?」賀喜遥香はおどける。「ああ、おお…、こんばんは、ふふ」
「すみれちゃん?」早川聖来は小首を傾げる。
「最初はパー」賀喜遥香は早川聖来を一瞥した。「ドラマの、役」
「あ~、そっか~!」早川聖来は納得した。「なんだイナッチ無表情だから一瞬わかんなかった」
稲見瓶は無表情で親指を立てた。
筒井あやめはきょとん、と顔をそちらに向ける。
「はい?」
御輿咲希は前かがみになって、筒井あやめと清宮レイを交互に見つめた。
「ああ、いえ、あの…、見事な美少女コンビですわねと、そう言っただけですの……」
「はあ……」筒井あやめは、ゆっくりと微笑んだ。「ありがとうございます」
「え、私もですかあ?」清宮レイは人懐っこく御輿咲希を見つめる。「私も?」
「もちろん、お二人に言ったの」御輿咲希は微笑む。
「あ~りがと~!」清宮レイは両手で作ったハートを御輿咲希に見せて微笑んだ。「ビッグラァブ!」
御輿咲希は数秒間その笑顔に見とれてから、咄嗟に、口と鼻の間を触って、鼻血が出ていないかを確かめた。鼻血は出ていなかった。
風秋夕は視線を遠藤さくらに送り続けていたが、一向に眼が合わないので、遠藤さくらに声をかける。
「さ~くちゃん」
「?」遠藤さくらはふっと気を引き締めるようにして、風秋夕を見た。「はい?」
「新入荷のメニュー、あるんだ」風秋夕は遠藤さくらの透明感溢れる視線にうっとりとしながら、微笑む。「コロッケなんだけど。もうコロッケの概念を超えてて、だけど、ちゃんとコロッケの魅力もそのままで、ていうコロッケなんだけど。さく散歩コロッケ、て頼めば、期間限定で食べれるよ」
「コロッケ……」遠藤さくらは、苦笑する。「この前、夜にコロッケ食べたくなっちゃって…、食べて……、にきびできたんだよなぁ……」
「にきびには専科のパーフェクトホイップよ!」宮間兎亜はにやけた。「まあん、さくちゃんなら当然チェック済みだと思うけど。一応ね、まいやんのCMしてるやつよん」
「うん」遠藤さくらは微笑んだ。「わかる。ちゃんと知ってる」
風秋夕は、遠藤さくらに「いつでも頼んでね」とウィンクし、柴田柚菜と早川聖来に微笑んだ。
「ゆうちゃんクリスマス以来じゃね? 元気してた?」風秋夕は更に笑みを絶やさずに続ける。「せーらさん、クリスマス以来だよねえ? 元気してた? 二人ともメディアでは拝見しておりますが…、あとトークとかメールとかでね」
早川聖来は笑う。「来ぉへんかったんは、たまたまやで? 本当は来たかってん」
柴田柚菜も微笑む。「柚菜家に帰ったら外に出ないから……。あでも、たまには出るよ? たまには出たくもなるけど、家に帰ったら……、な~にしてるかなぁ? んん~……」
「私はお料理してる」早川聖来は女神のようにはにかんだ。「この前はジャガイモと玉ねぎの豆乳スープ作ってみたの。あ昨日だ」
「どんだけ女子力高いのせーらさん」風秋夕は笑った。
「柚菜何してたかなぁ……、あ」柴田柚菜は天使のようにはにかんだ。「昨日はぁ、ママとおばあちゃんと柚菜がよく行くご飯屋さんに行ったんだ……。今日は出てくるまで、家で主婦やってた。朝洗濯して洗い物して、帰ってきてお料理して洗濯物取り込んで、畳んだ……」
「主婦じゃんエリートじゃん」風秋夕は驚く。「えゆんちゃんって野球中継観ながら寝っ転がってる人じゃないの?」
「違うっ」柴田柚菜は吹き出した。「あのね、主婦って凄いんだよ。やってみるとわかる……。一人暮らしすると気付くけど、世の中の主婦さんってがんばってる……。これに子供がいるって考えるともう本当に凄い。世の中のみんなは、本当にお母さんの事敬(うやま)った方がいいよ」