ズッキュン‼‼
店内に伊東歌詞太郎の『Virtualistic Summer』が流れる。
磯野波平は「銀ちゃん何すんのう?」と風秋夕の方を見つめていた。
風秋夕は「あそっちぃ?」と驚愕していた。
来栖栗鼠はけらけらと笑う。稲見瓶は、元乃木坂女子達に、簡単に事情を説明した。
松村沙友理は、からあげをおかずに白米をもりもりと食べながら、子供のような無邪気な笑みを浮かべた。
「んふん……。てか、なんでそんな間違い方するん?」
中田花奈は絵に描いたように苦笑する。
「下ネタですか……」
風秋夕は眼を閉じて呟く。
「こいつの人生が下ネタだからな……」
「誰が下ネタじゃこのキザおっ‼‼」
店内にマルシィの『アリカ』が流れる。
稲見瓶は松村沙友理を見つめる。松村沙友理は無表情で見つめられ、「ん? 何、イナッチ……」と少し怯えていた。
「まちゅはどう? 挑戦してみない?」
松村沙友理は、稲見瓶にそう言われて、「んん~……」と可愛らしく険しい表情で考える。
白石麻衣は風秋夕に「夕君、カニ、食べてもいい?」と美しい顔を笑わせて質問していた。
「なんでも召し上がれ、お姫様」風秋夕は微笑む。「じゃあお題を変えようかまっちゅん。除雪車(じょせつしゃ)、除雪、作業中にしよう。今日、東京に雪ふったからね」
松村沙友理は、視線を横の空間に置いて、声を消して復唱した。白石麻衣は【イーサン】に「カニ、ちょだい。イーサンわかったあ?」と注文している。
磯野波平は鼻で笑いながら言う。
「まっちゅん、できなかったら俺とまなったんが結婚だぜえ?」
秋元真夏はびくっと肩を竦(すく)めた。
「え、なんで私? なんで今私巻き込まれたの? え、しかも罰ゲーム重すぎない?」
磯野波平は豪快に笑う。
「お土産(みやげ)かあ、それじゃあ、なあ? があ~っはっはあ!」
「それを言うならお土産、じゃなくて、ご褒美(ほうび)だ、馬鹿だな……」
風秋夕は嫌そうに呟いた。
店内にmewiの『Call&Response』が流れる。
「はい、行けます」松村沙友理は真剣な顔で言った。「行くよ?」
「OKまっちゅん」風秋夕は手を打つ。「はい始め!」
「除雪車じょせすじょ、作業中! 除雪車除雪作業中しょせす、しゃ、じょせしゅ、さいようしゅう……え~~ん」
「可愛い‼‼」風秋夕ははしゃいで絶賛する。「まっちゅんやっぱ可愛すぎるわっはは!!」
「はい結婚~」
磯野波平は秋元真夏をにたっと見つめる。
「む~り無理無理無理!」
秋元真夏は素早く首を振った。
店内にsajou no hanaの『切り傷』が流れる。
桜井玲香は磯野波平を笑いながら見つめた。
「じゃあ、じゃあさあ……、波平君、やってみなよぉ。できたら真夏と結婚すればいいじゃん」
「ちょっと!」
磯野波平は座視で首を鳴らした。
「すぐやんぞ……。おら、いいか、キザ審判!」
「あ俺?」風秋夕は前のめりに言う。「じゃやれよほら始め」
「ざつっ!! ……びびるわ、お前のそういうとこ。ほい行くぞ、……除雪車、処女作業中! 除雪車処女、作業中! 除雪車処女作業中!」
「コーーンプライアーーンスッ‼‼」風秋夕は顔を驚かせながら叫ぶ。「違反ですっ‼ なんか言ってる、確実に言ってるぅぅ‼‼ 意味ができる文章に‼‼ 違う意味になるっ‼」
中田花奈は薄い笑みを浮かべて溜息を吐いた。
「相変わらずか、ここは……」
桜井玲香は「ふ」と笑いを堪えている。
若月佑美は「バカっぽいなぁ」と笑っていた。
松村沙友理は「んんふう‼‼」と食べ続けている同じからあげに新たなる感動を覚えていた。
白石麻衣はウニの軍艦を口の中に入れて、眼のあった稲見瓶に、にこっと眼を見開いて笑った。
秋元真夏はクリアアサヒを一口だけ呑んでから、空間を見上げた。
「イーサン? あのね、乃木坂の『ここにはないもの』かけて。お願いねイーサン、ズッキュン‼‼」
12
二千二十三年二月十一日の夜――。〈リリィ・アース〉の地下二階のエントランスフロア、その広大な空間に在る東側のラウンジには、乃木坂46の5期生が集結していた。
その尊き時間を共にするのは、乃木坂46ファン同盟の風秋遊、稲見瓶、磯野波平、姫野あたるの四人であった。
姫野あたるがカラになった厚紙製のコーヒーの器を捨てようと、トレーの上に集めていると、菅原咲月の素早い動作の腕が姫野あたるの伸ばした腕とぶつかり、まだ中身の入っているカフェ・ラテがテーブルに倒れてこぼれだした。
「おおう、みんな、服にコーヒーがつくでござるよ気を付けるでござる!」
「あ、ごめんなさーい、私?」
菅原咲月は己を指差しながら、体積を広げていくテーブルの液体を眺めた。
「いいんでござるいいんでござるよ、小生の手がこぼしたのでござるして」
姫野あたるは布巾で、すぐにテーブルの液体をふき始めた。
「ごめんなさーい……、あ、私、やります」
「大丈夫、ありがとうでござるよ、咲月ちゃん殿」
菅原咲月が悪そうにしおしおとそれを眺めていると、中西アルノが不敵な笑みを浮かべながら菅原咲月を見つめた。
「もっと、心込めて言って」
「え?」
中西アルノは整った顔をにやけさせながら、テーブルをあごで指し示した。
「ごめんねって、もっと心から謝罪して……。そしたら許してくれるって、ダーリンさんも」
「いやいや」
「ごめーんねい‼」」
菅原咲月は顔を縦(たて)に弾(はず)ませるようにして、白目をむいてそう言った……。
「む……、むっふ、むふふぁっはっは‼‼」
姫野あたるは大笑いする。菅原咲月はおたおたと照れ笑いを浮かべていた。
中西アルノは、視線を変えて、川﨑桜に声を向ける。
「はい、さくた~ん、必殺技! やって、ほら」
川﨑桜は最初、何やらわからんといったふうな表情を浮かべていたが、中西アルノが笑顔を強調すると、協調性をみせて己も笑みを浮かべた。
「さく炭酸しゅわしゅわしゅわ~~、バイバ~イ!」
川﨑桜は可愛らしい笑みでそれを披露した。姫野あたるは大興奮する。
「おおう、まさか今日というこの日にさくたん殿の奥義が見られるとは‼ 長生きはするものでござるな……」
姫野あたるは、ゆっくりと、恐る恐る、井上和の様子を一瞥した。
井上和は姫野あたるに強い笑みをみせる。
「やらないですよ?」
姫野あたるは、拝む。
「そこをなんとかっ‼‼」
井上和は姫野あたるを見据えたまま、困ったように言う。
「1日1回なんです」
風秋夕は稲見瓶に言う。
「好きな色は~?」
稲見瓶は、無表情で返す。
「いろは~」
「いやもっと嬉しそうに言え‼」
奥田いろはは苦笑する。風秋夕は稲見瓶に言う。
「せーの…」
稲見瓶は無表情で言う。
「なおなお~」
「あんた、感情あんのちゃんと?」
「ある」
冨里奈央はにこにこと笑っていた。冨里奈央は、会話を聞いていた隣に座る一ノ瀬美空に催促するように言う。
「はい、あれやって!」
一ノ瀬美空は、可愛らしく小首を傾げた。
「好きになってくれんと、すねるけん……」
風秋夕は人差し指と親指でキュンを作って笑った。