ズッキュン‼‼
「オリコン1位になるわけがないよぅ夕くぅ~ん、あはは音痴(おんち)なんだからさぁ~……。僕ならこう言うね~。かっきー……、この歌、僕が君の為に作ったんだ。心を込めて歌うから、聴いて下さい。乃木坂46で、きっかけ」
磯野波平は「だからそりゃ乃木坂の歌だろうがこのお馬鹿さんっ‼ 馬鹿か‼‼ 作ったな~秋元先生だろうがタコ‼ 美少女みてえなツラしやがって、しまいにゃ裸にひんむいて色々いたずらすんぞ‼」と吐き捨てた。
「俺ならこうだな……。かっきー、今日から、俺のマイクは君だけのも」
「下ネタでしょうよだからあんたは‼‼」風秋夕は激しく突っ込みを入れた。
三人の男子は、同時にそちらを振り返る――。賀喜遥香は「ふふん?」と首を傾げている。遠藤さくらは、顔を背けて、込み上げる笑いを我慢している様子であった。
清宮レイは、苦笑して言う。
「さくちゃん、笑ってるよ」
風秋夕は、言う。「料理人の場合……。レイちゃん、俺今度、店出すんだ……。もしよかったら、今度俺が出す店のぉ……、女将(おかみ)に、なってくれないかな」
来栖栗鼠は鼻で笑った。
「女将になれって、夕くぅ~ん、プロポーズで働けはないよぉ~う……。僕ならこうだ。レイちゃん、僕は料理人として、そして、君の理解者として、作ったものがあるんだ。もしよかったら受け取って下さい。こんにゃく指輪」
磯野波平は横柄(おうへい)に「ダジャレかよクソガキ~、今時んん~なシャレで笑ってくれる奴なんかいねえぜえ~?」と吐き捨てた。
「俺ならこう言うわな……。これ、よかったら受け取ってくれよな。こんにゃく指輪」
「気に入ってんじゃねえかってめえ‼‼」風秋夕は激しく突っ込む。「今リッスンが言ったばっかだよお前……、すんげえ気に入ったなあお前」
三人は、同時にそちら側を見つめる――。清宮レイは「はははあ」ととろけるバターのように笑っている。遠藤さくらは、顔を背けたままで、尚も込み上げてくる笑いを堪えている模様であった。
風秋夕は言う。「警察官の場合……。俺は今まで、警察官として市民を守ってきた……。でも悠理ちゃん、俺は警察官だ、でも今日からは、1人の男として、悠理ちゃんを守っていきたいと思う」
来栖栗鼠は鼻で笑った。
「夕君、それじゃダサいってえ~……。僕ならこう言うなぁ~……。悠理ちゃん、僕は警察官だ。君を一生逮捕する」
磯野波平は「ダサ。馬鹿かどいてろ‼」と吐き捨てた。
「俺ならこう言う……。悠理ちゃん、俺は警察犬だ」
「犬じゃねえか‼‼」風秋夕は激しく突っ込んだ。「何をどうしたいのあんたは‼‼」
三人の男子は同時に、そちら側を見つめる――。北川悠理は、「はあ……」と意気消沈して、苦笑している。遠藤さくらは、クッションで顔を隠しながら笑っている模様であった。
磯野波平は唐突に、風秋夕に風秋夕に頭を下げた。
「社長、金持ちのボンクラ……。社長! マジで首だけは勘弁して下さいよ!」
風秋夕は、腕組みをして、顔をしかめる。
「ダメだな。君は首だ。しかもなんで金持ちのボンクラって言ったんだよ、台本にねえだろうが……」
磯野波平は必死に頭を下げる。
「お願いしますよ、社長!」
「ダメだダメだ、はっきり言ってな、お前みたいなクズを雇う余裕は無いんだよ」
磯野波平は、顔を上げて、眉を顰める。
「社長……。今、なんつったか、もう一度言ってくださいよ。聞き逃したのあやまります」
「うん何で聞き逃したの」風秋夕は困ったように言った。「だから、お前みたいなクズを雇う余裕は無いって言ったんだよ」
「あ~あ、そうっすか。これで俺の人生もザ、エンド、ですわ……」
「うん。ジ、エンドだそこはな」風秋夕は顔をしかめた。
磯野波平は、不敵な笑みを浮かべる。
「お~お~いいっすよ、俺を雇ってくれる会社んてな、他にも月の数ほどあるんっすから」
「……じゃ1個しかねえじゃねえか」風秋夕は険しく言った。
「こいつが地獄に落ちますように」磯野波平は、顔つきを弱いものへと変える。「社長、そこをなんとか!」
「なんで今すごい悪口はさんだんだよ」風秋夕は嫌そうに言った。
磯野波平は、驚愕する。
「聞こえました? 心の声が、もれた?」
「もれたなんてレベルじゃねえよ」
磯野波平は、姿勢を正した。
「お呼びですか、社長?」
「呼んでねえよ、つうかもうずいぶん前にクビにしてんだよ。なんで会社来てんだよお前は……」
遠藤さくらは二人を見つめながら、くすん、と笑いを堪える。筒井あやめは「やっば」と無邪気に笑っていた。
風秋夕は険しい表情で、磯野波平を睨んだ。
「じゃもう一回言うと、君はもういらないんだ、今週いっぱいでもう来なくていいと言ったはずだ」
「おい、嘘だろ」磯野波平は驚愕する。「マジかよ、嘘だろ、おい」
「何だ、おいって……」風秋夕は嫌そうに言った。
「社長、俺の聞き間違いっすよねえ?」
「いいや君の聞き間違いじゃないんだよ、今週いっぱいでもう来るなと、先週君に実際にそう言ったんだ」
磯野波平は、困惑した表情をする。
「でも社長、今昆虫のおっぱいがどうのって」
「うん聞き間違いだな、それは」風秋夕は首を振る。「昆虫におっぱい無い。今週いっぱい! ……つまりはクビだ、君は」
「クビ?」磯野波平はきき返す。「クビ?」
「そうだクビだ……」
「いや待ってくだっさいよ社長!」磯野波平は必死に呼びかける。「クビんなったら俺この会社にいずらいじゃないっすか~!」
「いちゃダメなんだよ‼‼ クビなんだから来てもダメなんだよ……。なんで今日も来てるんだお前は……」
「大体なんで俺がクビなんっすか! 俺なんにもしてないじゃないっすか!」磯野波平は必死に言う。「毎日会社に来てなんにもしてないじゃないっすか!」
「だからクビなんだよ‼‼」風秋夕は怒った。「だからだよ‼」
「キザ野郎は地獄に落ちろ。それに……、妹の手術代も、稼いでやらないと……」
「うんいや何で今キザ野郎とかちょっと言ったんだよ」風秋夕はいらいらする。「台本にねえだろ……。妹? 君の、妹さん、手術するのか?」
「はい、眼をもっと大きくするみたいで」
「美容整形かよこのクソ野郎っ、心配して損したわ‼‼」
「そこをなんとかお願いしますよ‼ この通りですから‼」磯野波平は、中指を立てた。
「顔と行動が言ってる事と激しく違うな君は‼‼」風秋夕は困った顔で言う。「てかさ、何で台本に無い事ばっかやんのお前は……。あんなに特訓したろうが! はっ倒すぞ‼‼」
早川聖来は笑いながら、小首を傾げた。
「台本、て……。さっきから、何?」
矢久保美緒は笑いを落ち着ける。
「え? アドリブじゃないって事ぉ?」
佐藤璃果は稲見瓶を一瞥した。
「イナッチは……、やんないの?」
稲見瓶は、無表情で頷いた。
「できない」
田村真佑は来栖栗鼠にその驚いた顔を向ける。
「え、何? みんなグル?」
来栖栗鼠は無邪気に笑う。
「グルってひっさしぶりに聞いた気がする~、まゆたんおんもっしろ~い!」
弓木奈於はきょとん、と呟く。
「あ、え? 何、今ケンカしてたんじゃないの? 何?」
松尾美佑は苦笑する。