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ズッキュン‼‼

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「いやいや、明らかに違うでしょ、それは。弓木ワールドすぎるよさすがにそれは……。ていうか、なんか暑くね?」
 黒見明香は、手を叩いて笑っている。
「もっとやって」
 秋元真夏は驚愕して、笑みを浮かべた。
「ええ~? それじゃ……、昨日からあ?」
 姫野あたるは、まいった顔で優しく苦笑した。
「そうでござる。卒業を前に、乃木坂に笑顔をと、みんなでプロのお笑いを色々と勉強したり、プロのネタをミックスさせたりと、それはそれは苦労して稽古を重ねてきたでござる」
 秋元真夏は、驚いた笑みを浮かべたまま、溜息をはいた。
「や、ほんとに……、ダーリン、頭おかしくなっちゃったのかと思った~……」
「この青いペンキも、実はこちらが用意した演出でござる。かっはっは! 草っ」
 風秋夕は、遠藤さくらに微笑んだ。
「さくちゃんと角ちゃんさんの漫才も勉強したんだけどね、あの漫才、やっけに難しかったんだよ」
 清宮レイは不思議そうに風秋夕を見つめた。
「え、全部、台本なの? 誰の漫才ぃ?」
 来栖栗鼠は、風秋夕を一瞥した。
「誰のだっけ?」
 風秋夕は苦笑する。
「いや詳しい事は知らん。波平がユーチューブでネタを完コピしたって言うから、文字に起こして……。つっても、だい~ぶアドリブ入ってっけどな?」
 姫野あたるは、秋元真夏に微笑んだ。
「文化祭のようで、稽古もけっこう楽しかったでござるよ。しかし如何(いかん)せん、イナッチ殿だけは、どうしてもセリフを覚えられなんだ……。頭のいいイナッチ殿らしくなく、途中であきらめたでござるよ」
 秋元真夏は、稲見瓶を見つめた。
 すぐ近くにいた稲見瓶は、その会話を聞いていたらしく、秋元真夏にその無表情を向けた。
「負けた事があるというのが、いつか、大きな財産になる……。バイ、スラムダンク」
 秋元真夏は、声のした方を咄嗟に見つめて、微笑んだ。
「なんの為の特訓かわかんなくなっちゃうでしょうがっ‼‼」
「だから俺は自分でネタ書くっつっただろうが! て~めえがピーチクパーチク文句言いやがったんじゃねえか‼‼」
「小学生ぐらいしか笑わんネタしか書けなかったじゃねえか‼‼ 下ネタばっか持ってて‼‼ ちんちんとうんこしかてめえの書いたネタで見てねえわっ‼‼」
「笑ってたじゃねえか‼‼」
「鼻で笑ったんだこのアホめっ‼‼」

       15

 二千二十三年二月の中盤を迎え終えた頃、茜富士馬子次郎(あかねふじまごじろう)こと通称【夏男(なつお)】は、生まれてから初めてとなる巨大地下建造物〈リリィ・アース〉を大興奮で体感していた。
 数十年ぶりに自然の猛威となって襲ってきた大雪に、秋田県北秋田市阿仁笑内に在るキャンプ場の〈センター〉には居(お)れず、夏男は年始から、友人である風秋遊氏がオーナーを務める〈ダイアモンド・パレス〉にて宿泊し、数十年ぶりの東京を堪能していた。
 夏男が〈リリィ・アース〉に訪れてから、約まる一日が経ち、現在は夕方を終えた真新しい宇宙が夜空を飾っている頃だろう。
 姫野あたるは項垂(うなだ)れたまま、最後のひと口であるアイス・カフェラテを、ぐいっと飲み干(ほ)した。
「夏男殿……。とうとう、卒業が、近づいてござる。秋元真夏ちゃん、まなったんには、小生……。何を返せばいいのでござろうか……。鶴だって、恩返しぐらいするでござるのに……。小生は……、夏男殿、一体、小生は何をどうすれば感謝を、あの人に伝えられるのでござろうか……」
 地下二階のエントランスフロアに在る、東側のラウンジ。そこに在る巨大なソファ・スペースにて、姫野あたると、夏男は言葉を交わしていた。
 夏男はそわそわと浮足立った様子で、ぱんぱん、と手拍子で音を立てた。
 すぐに『はい、承ります』と、電脳執事の【イーサン】のしゃがれた老人男性の声が東側のラウンジに響き渡った。
「あっはあ~っ‼」夏男は満面の笑みで宙を見上げた。「あのねえオジーサン、だっけ? 名前…まいいや。お爺さん、あのねえ、じゃあ~……、ホットコーヒー、おおめにちょうだい!」
 畏まりました――と、電脳執事の【イーサン】が応答した。
 夏男は「あっはあ!」と喜ぶ。
「あのう……、夏男殿」
「んぅ?」
 姫野あたるは、座視で夏男の顔を見つめた。
「話を聞いて下さらぬか、イーサンでいたずらしてないで……」
「あ~、いーさん、だ? ね? イーサンだったね」夏男は微笑んだ。「ごめんね~イーサ~ン、あ返事しないていいからね~、これは独り言~!」
「夏男殿!」
 夏男は苦笑した。
「わかった、わかったようダーリン……。こういうの久しぶりなんだから、ちょっと興奮したっていいじゃん……、ちぇ」
 姫野あたるは、その表情を険しくさせる。そのソファ・スペースから数百メートルを挟んだ場所に在る、東側のラウンジの反対側となる西側のラウンジでは、西野七瀬と高山一実がお茶を楽しんでいる姿があった。
「卒業していくまなったんに、一体何をどうすれば、この深き、深き感謝の想いを伝えられるのでござろうか……」
「君は、今はどうしてるの?」夏男は笑みを消して、真顔になった。「今もここで一緒にいる時があるんでしょう? 向こうにも、元乃木坂のメンバーがいるみたいにさ」
 姫野あたるは、小さく、頷いた。
「あるでござる……。小生、今は……。まなったんを、笑わそうと、している、のでござろうな……。きっと、そうでござる。笑顔でいてほしくて……」
 夏男はころんと微笑んだ。
「今のままでいいんじゃない? ありのままでさ。ダーリンは、何かを卒業した事ってあるかな」
「なに、かを……。あるでござる」姫野あたるは、大きく、力強く頷いてみせた。「小生、小中と、夜間学校を卒業してきたでござる……。あと、エロ本も卒業したでござるけど」
「うん、え?」夏男は微妙に微笑む。「エロ本って、最近聞かないワードだね……。それは何で卒業したの?」
「願掛(がんか)けでござる。小生が一生エロ本を読まないかわりに、小生にもっと、強い心が宿りますようにと、願ったでんござるよ」
「何に?」
 姫野あたるは、天井を指差した。
「星に……」
「へえ~……。初耳だねえ。え、それで、強くはなれたの?」
「おそらく……」姫野あたるは、苦笑した。「夜間学校以来、エロ本は読んでないでござるよ。その縛りが、なんとなく……、小生の心を少しだけ、心強くしている感は、あるんでござろうな。小生、エロ本が大好きでござったから、かっはっは、それを人生で無くした分だけ、人に優しくなれればいいかなと、当時の自分は思ったんでござるよ草っ」
 夏男は深く感心するように、何度か、大きく頷いた。
「エロ本、見ないんだ?」
「見ないでござる」
「エロ本がいいんじゃない。それでも見ないのう?」
「小生の中から消せる大事なものは、エロ本しかもう残ってなかったでござるよ。別に、エロ本でなくともエロい関係の何かは存在するでござるし……。後悔は無いでござる」
 夏男は、まじまじと姫野あたるを見つめた。
「ほえ~……。あの~ね……、俺の知り合いに、君と同じように、自分の中から大事な物を消して、自分に願掛(がんか)けしてる人がね、1人だけいるよ」
「ほう」
作品名:ズッキュン‼‼ 作家名:タンポポ