ズッキュン‼‼
両腕に大きなリボンのあるピンク色のロングドレスを身に纏い、秋元真夏がステージに登場した。耳元にはピンクの花飾りのピアスが揺れている。バックスクリーンには、煌めくピンク色の天に遡上(そじょう)する光が……――。
『改めまして、乃木坂46の秋元真夏です。ありがとうございます。ちょっとさっきのVTRにびっくりしていっぱい泣いちゃったんですけど、卒業生のみんな本当にありがとう。同期がいっぱい卒業していって、卒業っていうものを見送る事は誰よりも経験してきてるはずなのに、今こうして自分の番がくると、凄い味わった事のない感情になるんだなっていうのを実感しています。ちょっとだけお話したいと思いますので、聞いて下さい』
『私が乃木坂のオーディションを受けたのは、12年前の夏。2011年の8月だったんですけど、その当時の事を今でも凄く覚えていて。自分の意志で乃木坂に応募して、どんどん審査が進んでいって合格して。そこからはどうなるかっていうのを全然わからなかったですけど、今こうして11年間同じグループで活動して、そこを旅立つ日に、自分のアイドル人生を振り返ると、高校3年生の18歳のときの私、オーディション受けるってよくやったなって言いたくなるくらい。本当にここに入って良かったなって思います』
『私の両親はめちゃくちゃ子供想いな人で、私にもとてつもない量の愛を与えてくれて。いつも私を褒めてくれたり、温かく、いつ実家に帰っても迎え入れてくれたり。本当に優しい両親で。そんな2人に育てられたから、こうして今、乃木坂に入ってキャプテンを3年半務めた時も、みんなに沢山愛を与えたいと思える人になったのかなと感じています』
『本当に感謝を伝えたい人とか、恩返ししたい人があまりにも多すぎて、全部はここで伝えきれないんですけど、メンバーにはさっき伝えさせていただいたので、ますは1番近くにいてくれたマネージャーの皆さん、そして乃木坂に関わってくれたスタッフの皆さん。乃木坂というか、アイドルのマネージャーさんは本当にたぶん大変で。年頃の女の子達をいっぱい束ねるって、私もキャプテンをやって感じましたけど、みんな性格も様々だし、その時によって感情が揺るぐ事があったり、大変な事を乗り越える為に戦っていたり、そういうみんなの姿をサポートしてくれて、マネージャーさんとかスタッフさん無しでは本当に活動できなかったなって事を今凄く凄く感じます』
『皆さんもご存知の今野さん。今野さんもメンバーの事を凄い大好きでいてくれて。私たちに会うと凄く嬉しそうにしながら、ちょっと久々に会うだけなのに「俺の事忘れてないか?」って言ってくるくらい、ちょっと寂しがり屋な人なんですけど、今野さんが乃木坂のメンバーをこうして守ってきてくれたから、私たちがのびのび活動して、こんなにグループを大きくできたんだなって凄く思います』
『そして、秋元先生。秋元先生が書いて下さる歌詞を卒業したらたぶん、私は歌を歌う事はなさそうなので……。もう歌えなくなっちゃうんだなと思うと、凄く寂しいんですけど、私が3年半前にキャプテンに就任した時に、凄く私にしてはネガティブな発言を沢山してしまったり、たぶん私にはキャプテン向いてないって事を先生に直接言ってしまった事も沢山あったんですけど。その時に、まだキャプテンとしての経験がない私に「真夏にしか出来ない事がある」っていうお話をいっぱいして下さって。そのおかげで前を向いてここまで自信を持って、「乃木坂46のキャプテンです」って言えるくらいに成長する事ができたんじゃないかと思います』
『そして、最後にファンの皆さん。この会場にいる皆もそうだし、今回はね、「チケットが当たらなかったよ」って方も沢山聞いてるので、今配信で観て下さってる方もいっぱいいるんじゃないかと思うんですけど。ファンの皆さんって……、私のファンの皆さん。私を応援してて楽しかったですか?』
盛大な拍手が湧き起こった……。
『初めはアイドルになった理由も、凄く目立ちたがり屋で、人前に立ちたいとか、色んな人の注目を集めてみたいとか、みんなに見られたい、そういう理由からアイドルを始めたんですけど、今こうしてアイドルの幕を閉じる瞬間に思うのは、アイドルとして皆さんが1番楽しんでくれる事をできるアイドルになりたいっていう事でした』
『皆さんがこれやったら喜んでくれるのかなとか、「次のイベントとかライブとかでどこどこの席にいるよ」って言われたら見つけたいとか思っちゃうし、本当にどんな無理でもできちゃうくらい、皆さんの事が本当に本当に、大好きになりました』
『4枚目シングルの「制服のマネキン」から、私は外の1期生より遅れてデビューさせてもらいましたけど、心細かった私を支えてくれたのも皆さんで、本当に私のアイドル人生は、皆さんと共にずっと歩んできたんだなっていうふうに、凄く、今思っています』
『そして、1期生が沢山卒業していって、私もアイドルとしての活動を一通り経験させてもらって、全力でダッシュするっていう気持ちが少し落ち着いてしまった時、そういう時期があったんですけど、そんな時に今一緒に活動している後輩の姿を見たら、今から未来に向かって走り出す子とか、今から先頭に立ってグループを引っ張ろうとしてる子とか、そういうスタートダッシュを今から切ろうとしてる後輩たちの姿を見て、もう一度全力で走り出す事もいいものだなと凄く感じる事ができました』
『そんな素敵な後輩に囲まれて、今日最後の日を迎える事ができて、本当に幸せです。生まれ変わっても絶対乃木坂になりたいし、乃木坂のキャプテンを務めたいです。それぐらい大好きな場所でした。11年間本当にありがとうございました』
原作・脚本・執筆・タンポポ
稲見瓶は、深く頭を下げて感謝をした。
長い事、ずっとわからないままで、そのまま放置しておいた事がある。
好き――という、その感情の事だ。
愛も恋も、定義は知っている。ネットや辞書、文献で何度も調べたし、学んだ。けれど、体感する、その心に広がる感情を一言で『好き』というには、如何せん種類が多すぎた。
親族に対する好き。乃木坂仲間に対する好き。そして、乃木坂に抱いた『好き』だ。
どれも好きというには大きすぎて、愛とも恋とも一致させたくなかった。なぜならば、俺のその『好き』は、決して失う事は無く、普遍だと思われたからだ。
愛も恋も失う事があると記されていた。ならば、違うかと、その度に納得するしかなかった。俺の『好き』は、誰にも奪えるものじゃないからだ。
飛び抜けて逸脱していたのは、乃木坂への『好き』だった。
大きすぎて、それは常に速度を増して成長を続けていて、まるで宇宙の膨張のようにも感じられた。
まなったん、ようやく、答えた出たよ。
俺のいう、誰も奪えぬ、決して無くなる事のない、普遍の『好き』は、どうやら、ひとりよがりの事をいうらしい。
どんな文献でも解明しなかったそれを、まなったん達が11年もかけて、教えてくれていた。ひとりよがりとは、わがままで、他言を考慮しない、なんとも傍若無人なものだけど、それがとても、自分らしく思えてならなかった。