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ズッキュン‼‼

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 磯野波平は、涙ぐみながらその歌を口ずさんだ……。
 天野川雅樂は、「はあ? 英語かそりゃ?」と大袈裟に耳を傾けている。来栖栗鼠は即座にスマートフォンで磯野波平の動画を撮っていた。
 まなったん……。こりゃあなあ、ボンジョビの『オールウェイズ』っつう、バラードだ・・・・・。オールウェイズ、つまりな、【いつも】だ……。
 いつも見てる……。
 ちが、なんか、キモかったか、今の……。そういう意味じゃねえんだけどな。
 ま、いいか。いっつも、見てる………。
 なんか、ちげえな……。
 磯野波平は、激しく顔をしかめながら、煙そうに煙草を吸っている。
「こいつ、マジで面白れえ生きもんだな来栖ぅ……。財布、抜き取っても今なら怒らねんじゃねえか?」
「ていうか僕、この人の下で一生働くの、なんか嫌だよ~……。でもなんか、わけもわからず大成功しそうな雰囲気もあるけどねぇ~」
「もう一服したら、いっちょ仕事に戻ろうぜ。ヤクルトも飲んだし、回復回復」
「えまだ吸うのぉ~? 普通、いっぷく、てえ、一回なんじゃないのぉ?」
「細かい事言うなよ来栖ぅ……、へ、一緒に夕さんにファン同盟に選ばれた、仲間じゃねえか」
「ま、そうだね~」
 磯野波平は更に顔をしかめて、首を傾げた。
 まなったん、いっつも、じっくり見てる、その脚を……。いやいや、ちげえし。なんか言い方怖ええし。
 まなったんよう、いっつも……、望遠鏡でのぞいてっからな。いやいやいや、覗いてねえだろうが。なんか心込めた言い方したかっただけだし。なんかちげえし……。
 まなったん……、いっつも、まなったん
の事、マジで見てんぜ。いや、マジで見てるけどよ、マジで見てんぜ……。んん、なんか、そういう感じじゃねえだろうが……。なんっか、ちげえな、あれ? いっつもどんな感じだっけ俺……。
 まなったん、いっつも……。

       5

 二千二十三年一月十六日。この日は東京都の港区には雨が降っていた。道路工事専門の警備会社、三島ガード株式会社のガードマンを務める姫野あたると宮間兎亜(みやまとあ)は、この日も通常勤務通り、港区周辺の道路工事を警備していた。
 雨合羽(あまがっぱ)を羽織り、雨の滴(したた)るヘルメットをかぶり、白い吐息を吐きながら、懸命にガードマンを務めているように外観的に見える姫野あたるは、二十八歳であった。
 姫野あたるは、笑顔で道路に突っ立っている。
 いつぞやの近年のライブでは、飛鳥ちゃん殿プロデュースで、『CATS(キャッツ)』、可愛らしい猫の衣装で4期生楽曲の『アウト・オブ・ザ・ブルー』を歌ったでござるが……、その時の歌い方が、『にゃーにゃー』と、猫語で歌ったのでござったな。草。もう可愛くて、可愛くて、感無量でござった……。
 まなったん殿は、2012年に乃木坂の活動を再開してから、すぐの4枚目のシングル『制服のマネキン』にて、初の選抜入りを果たしたでござるな。まなったん殿は、いうならば、乃木坂46の超エリートでござる。こんなにもエリートという響きがしっくりくるメンバーもないでござろうに。
 そして、そんな超エリートさを感じさせないほどの柔らかなる気さくさは天晴(あっぱれ)、でござる……。まなったん殿は、本当の、本物の真のアイドルでござろう。
 2013年に『BOD BOYS J』にてレギュラー出演し、ついに、女優デビューを果たしたでござる。監督は、窪田崇監督と、滝本憲吾監督でござったな。
 2014年には、『超能力研究部の3人』、懐かしいでござるな~……。初の映画主演でござった。監督は、山下敦弘監督で、主題歌は乃木坂46の『君の名希望』でござった。
 2015年に『オトナヘノベル』にて、テレビドラマ初主演……。こんなにも輝かしい活動歴を持ちながら、どうしてか、まなったんは変わらぬまま、ひたむきな明るい笑顔を絶やさぬ気さくな人格のままでござった。
 一体、誰がこれをマネできようか……。普通、運動会のリレーで1位を取った程度でも鼻が高くなるでござるのに。学校の普通のテストで100点を取ったぐらいで自慢げにしてしまうのに……。
 2016年には、写真集『真夏の気圧配置』がなんたらランキングで1位を取ったでござる。なんたらランキングのままでは失礼でござるな……、後で調べるでござるよ。すまなんだ。
 宮間兎亜は雨をうざったそうに顔をしかめながら、姫野あたるの持ち場まで歩いてきた。
 ぽけっとしている姫野あたるを、強調的な半眼で数秒間見つめてから、宮間兎亜は印象的なハスキー声で話かける。
「ちょと。ダーリン…、休憩交代(きゅうけいこうたい)よ……。ねえ、ねえって言ってんでしょう、あんた起きてんの?」
 姫野あたるは、笑顔のままで、宮間兎亜は一瞥した。
「おお、これはこれは、わざわざ言いに来てくれたでござるか。それはそれは、ありがたい。かたじけないでござるよ、宮間殿」
「ていうか知ってるわよね、一人20分休憩なんだけど、あんたの休憩時間はあと4分ぐらいよ」
「な、なんとぉ‼‼」
 姫野あたるはオーバーリアクションで驚愕(きょうがく)した。
 宮間兎亜はテンションの低いままで言う。
「時間見てないあんたが悪いのよ……。他の人達も、自分でちゃんと時間になったら休憩してるんだから」
「よ、4分でメシを、食えと申すでござるか……」
「煙草でも一服(いっぷく)しなさい。じゃあね」
「ああ、宮間殿っ!」
 姫野あたるは、振り返った宮間兎亜に微笑む。
「教えに来てくれて、ありがとう、でござるよ、宮間殿」
「はいは~いん」
 では、一服でもしに、向かうでござるかな……。
 まなったんは、2019年には、乃木坂46の2代目キャプテンに就任したでござるな……。なんと華々しき、まなったん殿の乃木坂道……。
 2020年には、秋元真夏、渾身の写真集『しあわせにしたい』が馬鹿売れしたでござるな。んふふ、しあわせになったでござるふふふ。
 姫野あたるは、掘っ立て小屋のような仮設の休憩所で、煙草を吸う。室内には一応、電気ストーブがつけられていた。
 まなったん殿はそういえば、学生時代には、部長、文化祭委員長、生徒会副会長、そして、生徒会長まで勤め、その人望の厚さを小生達ファンも驚き、深く納得したものでござる……。
 部活は、料理関係の部に属しており……、そうでござる、調理部でござる。そう、まなったん殿は昔から、お料理を愛する家庭的な1面がうかがえたでござる。調理部時代に、まなったん殿は確か、家庭科料理技能検定3級を取得しているでござったな、確かまだ、中学生だったのではないでござろうか……。
 姫野あたるは、濡れたヘルメットをかぶって、仮設休憩所を出て、雨の中、また持ち場へと戻る。
 雨の降りしきる都会の雑踏の中、姫野あたるは、温かな微笑みを、俯けた表情に浮かべる。路を行く人々の姿も少ない。
 姫野あたるは、小さな囁き声で、歌を口ずさんでいた……。

 You`re insecure don`t know what for
You`re turning heads when you walk
through the door
君はいつもそんな物々しい顔しているけど
作品名:ズッキュン‼‼ 作家名:タンポポ