二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

にゃんこなキミと、ワンコなおまえ2

INDEX|12ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

 自分は筋さえ取らぬ房のままポイと口に入れた杏寿郎が「うまい!」と宣うのに、苦笑する。
 薄皮や筋の感触が苦手な義勇のために、杏寿郎がせっせと筋を取るのも昔からだ。杏寿郎自身はまったく気にせずポイポイと口に放り込んでいくのだけれど、義勇に食べさせるぶんまで剥くから、なんだかんだで食べるスピードは同じになる。いつもそうだった。
 甘やかし過ぎだといまだに伊黒は眉間にシワを寄せるが、だってちゃんと剥いてやらないと義勇はあまり食べてくれないのだと、杏寿郎はどこかうれしげに笑うのが常だ。杏寿郎が義勇の世話を焼きたがるのは誰もが認めるところなので、早々に言うだけ無駄と思われるらしい。すぐに誰も平然と流すようになる。
 伊黒だけは、いつまで経っても一言物申さねば気がすまないようだけれども。
 懐かしいなんて思うほどの月日が経ったわけでもないのに、このごろやけにあちらでのことが思い出される。懐かしくてたまらなくなる。不安はどうしても胸の奥にわだかまっているのかもしれない。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「それで、今日はどこに行くんだ?」
 言われるままにおっかなびっくり高速に乗ったのはいいが、今日の行き先はまだ聞いていない。みかんを飲み込んで聞けば、杏寿郎がひときわ朗らかに笑った。瞳がちょっぴりいたずらっぽく輝いている。
「うむ! 夕食やイルミネーションには時間があるから、まずは金魚を見に行こう!」
「金魚?」
 これはまた随分と変化球だ。だがなんとなし納得できぬこともない。義勇の唇にもほんのりと笑みが刻まれる。
「スモモ元気か?」
「あぁ、また大きくなったようでな! 池を拡張しようかと相談中だ!」
 六年ほど前に夏祭りで千寿郎がすくったオレンジ色の和金を、杏寿郎の家ではいまだに飼っている。縁日の弱った金魚にしては破格のたくましさだ。
 千寿郎に頼まれスモモと名付けたのは、杏寿郎と義勇である。
 小さくてアンズ色だからアンズにしようかとの提案に、杏寿郎の名が入っているのはちょっとと渋ったのは義勇だ。じゃあスモモだと杏寿郎が笑ったから、そうしようかと決めた名である。千寿郎はかわいい名前をありがとうございますと笑ってくれたが、伊黒には貴様らのネーミングセンスは相変わらず短絡的だと顔をしかめられた。
 義勇が渋った理由は伊黒が言うように短絡的すぎると思ったからではもちろんなく、杏寿郎が結婚し女の子が生まれたら杏寿郎の名をとって杏と名付けられるかもしれないと、ふと思ったからだ。杏寿郎が知ればさぞ怒ることだろう。
 あのころ義勇はもう杏寿郎への恋心を自覚していたけれど、杏寿郎はどうだったのか。聞いたことがないから、杏寿郎がいつから自分に恋していたのかを義勇は知らない。べつに知らずともいいと思っている。
 なにしろ杏寿郎は、お手々つないでお遊戯していたころから万事において義勇最優先で、大きくなったら義勇と結婚すると満面の笑みで言っていたのだ。恋なんて言葉は知らずとも、ずっと義勇のことが大好きで、義勇とともにある未来しか杏寿郎は見ていない。
 もしもあのとき義勇が素直に理由を話していたら、杏寿郎は烈火のごとくに怒っただろう。いや、杏寿郎の思考は時にズレまくるので、義勇の手を取り「義勇に似た子がいい!」と真っ赤な顔で言ったかもしれない。
 俺が結婚したいのは義勇だけ。幼いころから言われ続けているのは伊達ではないのだ。もしも杏寿郎と恋人になれても、いつかは杏寿郎もきれいな女の子と結婚するんだろうななんていう義勇の切ない想像など、気づけばきれいサッパリ消えていた。
 杏寿郎は、もしも恋でなくとも自分から離れようとはしないだろう。信じるもなにもない。義勇は知っているのだ。事実はそれだけなのだと。

「金魚を見るのはいいが、どこで?」
「うむ! 今日イルミネーションを見るところに、金魚の水族館があるのだ! 日本最大級らしいぞ。金魚を見て、それでも時間が余るようならば、近くを散策してから夕飯にしよう。そのあとでイルミネーションを見る予定でいる! 義勇はなにか予定していたか?」
「いや。杏寿郎に全部任せる」
 義勇にしてみれば地元ということにはなるが、住んでいたのは五歳までだし、今はバイトや学校で忙しくて観光地には詳しくない。それに杏寿郎が張り切っているのだ。自分が口を出すまでもないだろう。
「そうか! それならよかった! 義勇に楽しんでもらえるよう、ちゃんとエスコートするからな!」

 喜び勇んでしっぽを振る犬が見える。キラキラでハッピーな、かわいいワンコが。

 思わずハンドルから手を離し、くしゃくしゃと頭を撫でてやれば、ぱちくりと大きな目がまばたくのが横目に見えた。クスッと義勇が笑うと、ご機嫌な顔がなんだか複雑そうなすね顔に変わる。
「……大人っぽいと言ってくれたはずだが?」
「大人っぽい服だと思ったのは嘘じゃない」
「服だけか……」
 ハァッとため息までつくから、義勇の笑みに苦笑の色がまじった。運転中なのが残念だ。すねるなと金色の頭を抱えこんで、よしよしと撫で回したいのに、そうもいかない。
 そんなことをすれば杏寿郎の顔はきっとうれしさと不満がないまじり、へにょっと眉が下がるだろう。そうしてすぐに、義勇が楽しいならまぁいいかと、ギュッと抱きついてくるに決まっている。義勇はちゃんと知っている。
「……うむ! 今は服だけでもしかたないな! だが、今日は全部俺に任せてくれるんだろう? もうすっかり大人だと言ってもらえるよう、頑張るまでだ!」
 杏寿郎は切り替えだって早い。いつまでも不満タラタラでいたりしない。だからこそ義勇も思う存分かわいがれもする。
「お手並み拝見だな」
「任せてくれ! 義勇にも絶対に、セクシーだと言わせてみせる」
 フッと笑って目を細めるその顔に、賢いくせに馬鹿だなと、義勇は笑みを消し肩をすくめてみせた。

 頑張る必要なんてあるものか。そんなのもうとっくに……。
 
 言ってはやらない義勇の内心を知ってか知らずか、杏寿郎も肩をすくめて苦笑いしている。おそらくは後者だろう。高感度冨岡センサーはこういうときだけ役立たずだ。鈍い。
 悟られないほうが義勇にしてみれば都合がいい。まだまだかわいい弟分でいてほしいのだ。頼りがいのある恋人なのは否定しないけれど、あんまり格好よくなられても困る。
 苦い記憶が義勇を戒める。我を忘れてすがりたくなるような恋は駄目だ。どうにでもしてと、すべて杏寿郎に委ねてしまってはいけない。
 どんなに格好よくなったって。どれだけ大人の色気を身につけたって。義勇にとってはかわいい弟分なワンコであってほしい。今はまだ。
 不安は義勇の胸の奥ひっそりと、けれどもたしかに、忘れるなとささやいていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 出発してから一時間ほど。インターチェンジをいくつか過ぎてようやく到着したのは、スポーツ系のアクティビティが充実し、宿泊や温泉入浴もできる、広大な総合リゾート施設だ。クリスマスの本日は駐車場もほぼ埋まり、家族連れやデート中のカップルでかなりの賑わいを見せている。