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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ2

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 そうして寂しさを無理やり押し殺し、一人で膝を抱えるのだ。そんな自分の姿は簡単に想像がつく。我ながら暗い。
 杏寿郎の主張はそれを見越してだと理解できてしまうから、義勇もあまり強く出られないでいる。

 生まれ故郷とはいっても、義勇がこちらに住んでいたのは五歳までで、知り合いなどほぼいない。元来口下手で人見知りでもあるから、新しい友達を作るにも時間がかかる。
 錆兎と真菰、それにこちらで新婚生活を始めた姉夫婦ぐらいしか頼れるものがいない新生活は、マイペースな性分の義勇にもそれなりにこたえた。
 なまじ向こうにいたころは友人にも周囲の大人にも恵まれて、暮らしは裕福でなくとも心豊かでにぎやかな日々だったから、一人きりの小さな部屋がずいぶんと寒々しく感じられたものだ。
 杏寿郎にはきっと全部お見通しなんだろう。義勇が寂しくないように、我慢しないようにと、毎月新幹線に飛び乗り満面の笑みで逢いにくる。
 本当に、よくできた犬だ。忠犬もここに極まれり。
 
 難点をあえて挙げるとすれば頑張りすぎるところだと、うどんをもぐもぐ噛みしめながら義勇はちょっぴり眉を寄せた。それと、義勇に関してだけは妙に心が狭いところも、どうかと思わないでもない。
 もう少し言っていいなら、若さゆえなのか体力が有り余っているのか知らないが、元気すぎるところも、ちょっとだけ困るというか、なんというか。
 ……七味唐辛子をかけすぎた気がする。辛い。なんだか顔が熱くなってきた。錆兎と同じ秋鮭丼にすればよかったかもしれない。

「でもアイツ受験生だろ? 大丈夫なのか?」
「息抜きも大事だからって押し切られた。模試も毎回A判定だから大丈夫だって言ってる」
「へぇ、頭いいんだねぇ。ね、どこか行くの? クリスマスだもんね、絶対にあのワンちゃん張り切ってるでしょ」
「ワンちゃんって言うな。……ドライブする。イルミネーション見に行こうって言ってた」

 おぉーっ、とそろってあがる声には、わずかながら冷やかすひびきが混じっている。嫌悪や蔑視などかけらもない声や表情に感謝もするし安堵もするが、からかうのはやめてほしい。色恋沙汰など慣れちゃいないのだ。想ってきた時間の長さに対し、恋人として過ごした時間はまだまだ少ないのだから。
 それでもデートじゃないと反論しなかったのは、二人に嘘をつきたくないだけでなく、自分もちょっと浮かれているせいかもしれない。
「レンタカーか? なんなら俺の車貸すぞ?」
「錆兎たちもどこか行くんじゃないのか?」
「私たちはまったりおうちデート。クリスマスは楽しくて好きだけど、どこ行っても人が多いのが嫌だよねぇ」
 少しうんざりした声音で真菰が言うと、錆兎の顔にわずかばかり苦笑が浮かんだ。
 もしかしたら真菰に言わなかっただけで、錆兎もクリスマスだからとデートプランを立てていたのかもしれない。持ち上げた丼の影からちろりと視線を投げれば、以心伝心。錆兎の眉根がキュッと寄って、余計なこと言うなよという視線が返ってくる。
 答える代わりに義勇は、丼に残った汁をグイッと飲み干した。即座に真菰の手が伸びてきて、また口元を拭われる。

 本音を言えば真菰の言には同感の一語だけれども、口にはしないでおく。
 前回のお泊りで切り出されたクリスマスの予定に、人混みに出るのはと義勇が口ごもったとたん、杏寿郎がいかにも悲しげに言葉に詰まったあとすぐに「たしかにクリスマスじゃどこも混んでるな! いつもどおり家にいようか!」と空笑いで言ったのを思い出したので。

 眉が一瞬だけへにゃりと下がり、ごまかすように笑ってみせたわりには、声がちょっぴり上ずってやせ我慢がみえみえだった。そんなふうに笑われては、嫌なわけじゃない楽しみだと答える以外、義勇になにが言えようか。
 たちまち「本当か!? 当日のプランは任せてくれ! 義勇と行きたいと思って調べたのだ!」と、見えないしっぽをブンブン振りまわしているのが感じられるほど喜色をあらわにするから、胸がキュンとしたことまで思い出してしまった。
 錆兎や真菰になにかもの申せば、そんなあれこれも口にせざるを得なくなる。口下手な自分の口さえをも軽くしてしまう人というのはいるものだ。目の前の二人がまさにそうだし、筆頭は杏寿郎である。
 杏寿郎の場合、日ごろは圧の強さによってだが、雨の日に捨てられた子犬のような眼差しで見てくるギャップも大きい。卑怯だ。あんなの強く出られるわけないじゃないか。
 脳裏に浮かぶキュンキュンと鳴くすね顔に、思わず頬がゆるみかけた義勇は、すぐに少しうつむいた。

 楽しみなのは嘘じゃない。逢いたいのは自分だって同じだし、初めて二人きりで過ごすクリスマスにソワソワともしている。
 今までは煉獄家に招かれたり、宇髄たちも一緒に遊ぶのが常だった。そのころはまだ、お互いを言い表す関係は幼馴染だとか友人としか言いようがなかったので、しかたのないことかもしれないけれど。だけど今は恋人同士なのだ。クリスマスなんて絶対に外せないイベントではないか。
 去年のクリスマスだって本当は、二十五日には逢えるはずだった。なのに、インフルエンザで義勇がダウンしてしまったせいで、予定は全部中止だ。逢うことすらできなかった。当然、看病に行くと電話口でわめかれたが、そんなことさせられるはずもない。
 姉さんのところで世話になるから来るなと言い聞かせた義勇の声音は、我ながらいつも以上にぶっきらぼうで少し気だるげに聞こえた。だからだろう、杏寿郎が了承するまで長くはかからなかった。
 ここで揉めて義勇の病状を悪化させるわけにはいかない。杏寿郎はきっとそう考えた。それでも電話越しに「わかった、お大事に」と告げる声は、なんだか泣き出しそうだった。
 義勇も本当は泣きたかった。だって、恋人になって初めてのクリスマスだったのだ。気恥ずかしさが先に立ち素直に好きだと口にするのは稀だけれど、義勇だってちゃんと杏寿郎が大好きで、できることならいつだって一緒にいたいと思っている。
 熱に浮かされているときには、実際にちょっと泣いた。逢いたくて、そばにいないのが寂しくて。

 まぁ、そのぶん、あちらにお邪魔した正月にはべったりくっつかれて、ちょっとばかり難儀したけれども。

 いや、くっつかれているのはべつにいいのだ。ギュウギュウとたくましい腕で抱きしめられるのは、照れくさいけれどもうれしいし幸せだ。でも、ご両親やらまだ小学生の弟の前でもべったりというのは、いかがなものか。

 うんうん、寂しかったな。約束守れなくてごめん。そう言って甘やかしてやれたのは、一時間が限界だった。義勇にしてみれば、よく我慢したと自画自賛したいぐらいである。
 正月早々に――といってもあちらに行けたのはギリギリ松の内という日付だったけれど――平手打ちしたのは、ちょっとだけ悪かったかなと思わなくもないが……まぁいい。しつけは大事だ。どんなにかわいくても、ご家族の前でキスなどしかける駄犬には、鉄拳制裁も辞さない構えでいなければ。でないとあのワンコは元気がありあまりすぎてて……ちょっと……うん。