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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ2

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 人待ち顔の義勇をチラチラとうかがってくる視線には、ちっとも気づかない。義勇が改札から視線を外すのは、スマホがメッセージアプリの通知を伝えたときだけだ。
 頻度はわりと多い。毎月のことだというのに杏寿郎は、今どこを過ぎただの富士山がきれいだだのと、毎回律儀に伝えてくるので。
 先月の来訪は二週目の土曜だったから、いつもと違って六週間も逢えなかった。月一と決めて遵守させているのは自分なのだから、文句を言う筋合いなど義勇にはない。けれどもやっぱり、寂しかったのは否めない。
 今朝は楽しいクリスマスに水を差す出来事があったせいで、余計に杏寿郎の笑顔を待ちわびている。同時に、怯えも少し。大丈夫と何度自分に言い聞かせても、義勇のことなら杏寿郎はびっくりするぐらい敏感に察してしまうのだ。今朝のはさすがに吐いてしまい、今も胃のあたりがしっくりこない。杏寿郎に見抜かれないか不安だ。
 義勇は、今は沈黙しているスマホをポケットから取り出した。画面には、先月までは存在しなかったアイコンがある。思い出したせいで無意識に緊張していたんだろう、アイコンを目にし、こわばっていた肩から力が抜けた。
 動揺と嘔吐がおさまってすぐに連絡し、動作チェックだってしてもらった。つくづく槇寿郎の顔が広くて助かった。警察関係者に顔が利くおかげで、アプリ開発も所轄署に協力してもらえたと聞いている。子供の見守りアプリという触れ込みも――実際、もともとそのためのアプリだ――疑われていないらしい。
 スマホを見ていると、安堵や協力してもらえた感謝と喜びもわくが、体調ばかりはいかんともしがたい。こと義勇に関しては敏感すぎる杏寿郎だ。わずかな顔色の悪さを隠しきれるか不安は尽きない。
 ふぅっと軽いため息をつき、義勇はポケットにスマホを戻した。このアプリの難点はやたらとバッテリーを消費することだ。杏寿郎のメッセージを受け取るたび、残量がザクザク減っていく。万が一のときに役立つか不安は残るが、どっちにしろこのアプリが活躍するのは初動のみだ。要件さえ果たしてくれればそれでいい。
 あくまでもベータ版。予定していた機能を突貫作業で無理やり詰め込み、ひとまず動作する状態にしただけのもの。重々言い聞かされたから、ちゃんと承知している。
 嫌味もたっぷり言われたけれど、感謝はやっぱり尽きないし、信頼も同様だ。それに、駅に来る前に手土産持参で車を借りに行った村田家での歓待っぷりで、気持ちも体調も少し浮上してもいる。

 杏寿郎たちほどじゃないけど、村田もお父さんや弟さんと似てたな。

 意識して気持ちを切り替えれば、義勇の頭に思い浮かんだのはやっぱり杏寿郎だ。村田のことを考えた端から、すぐに思考は杏寿郎へと繋がっていく。
 煉獄家の男連中は本当によく似ている。まるでマトリョーシカか成長過程の図だ。
 千寿郎を見るたび、杏寿郎もこんなだったなぁと懐かしくて微笑ましくなるし、槇寿郎を見れば、杏寿郎もいつかこんな苦み走った大人の男になるんだなと、ちょっとドキドキしたりもする。そのたび、センサーでも付いてるんじゃないかという素早さで杏寿郎が視線を遮ってくるから、ドキドキはすぐに苦笑や呆れに変わるけれども。
 少しだけうっとりとしたため息がこぼれたら、キャア! と黄色い声が聞こえた。何事かと視線を向ければ、中学生ぐらいの女の子たちがこちらを見ている。
 なんだろうと小首をかしげたとたん、少女らはキャアキャアと騒ぎながら走り去ってしまった。いったいなんなのだ。少しだけ眉根を寄せた義勇は、背にしたウィンドウをちらりと振り返り見た。
 とくに変わったところなど見当たらない。どこでも見かけるクリスマスらしいディスプレイだ。
 騒ぐほどのものとは思えないが。首をひねった義勇は、ガラスにうっすら映る自分の姿に気づき、知らずウィンドウに向き直った。
 ソレは似合わないコレは顔映りが悪いと口やかましい……もとい、忠告してくれる真菰に従い、本日のコーディネートはすべて真菰セレクションである。そんな予算はないと言えば、錆兎の借りればいいでしょと押し切られた。
 着せかえ人形然とああでもないこうでもないと着替えさせられる義勇に、真菰の死角から手を合わせてきた錆兎の顔には、明らかにご愁傷様だとかごめんだとか書いてあった。

 真菰が選んだんだし、変なところはないと思うが……。

 ガラスに薄ぼんやりと映っている自分は、いつもの着古したダウンやデニムと比べたら、たぶんオシャレな部類に入るんだろう。ファッションのことなんて義勇には全然わからない。けれど、真菰が選んだ服を着ているときの錆兎は、義勇の目から見ても男らしさが際立ち、いつも以上に格好よく見えるのは事実だ。錆兎という素材の良さもさることながら、きっと真菰のファッションセンスも優れているに違いない。
 そんな真菰がチョイスしたライトグレーのピーコートは、錆兎からの借り物だ。アラン編みとかいう、ちょっと大人っぽい白のタートルニットも、同じく錆兎の私物である。去年貰った真菰からのクリスマスプレゼントだそうな。
 義勇にそれを差し出しながら、手編みじゃないけどねぇと真菰は屈託なく笑い、錆兎は少しだけ視線を泳がせていた。錆兎がよく巻いているマフラーを見れば理由は察せる。たとえ編み目がガタガタでほつれだらけなセーターだろうと、真菰が一所懸命編んだのなら、錆兎は躊躇なく着るのだろうけれど。
 黒のスキニージーンズとスニーカーだけは、自分で買った。さすがに全部借りるのは申しわけなさすぎたし、ちょっぴり情けない気にもなったので。選んだのはやっぱり真菰だが、安価な店でさらにクーポンだなんだを駆使し価格を抑えてくれたのが有り難い。
 首に巻いたロイヤルブルーのマフラーも自前だ。これだけは、義勇が自発的に巻いた。今年の正月に、遅ればせながらのクリスマスプレゼントとして杏寿郎がくれたきれいな青いマフラーは、暖かくって肌触りも抜群にいい。

 都心よりも暖かく雪など滅多なことでは降らない街だけれど、寒がりの義勇からすれば、冬はやっぱりつらい。両親が亡くなったのが、四月の初めだというのに時期外れな雪が降った日だったからかもしれない。寒い日には、体よりも心が冷える。
 でも、このマフラーを巻くたび杏寿郎がキュッと抱きついてきているような心地がして、照れくさくも幸せにひたってしまうから、一人でいてもどうにか耐えている。
 ときどき無性に寂しくなると、部屋のなかでもマフラーを巻き、そっと顔をうずめてしまったりもする。我ながら恥ずかしい習性だ。杏寿郎が知れば喜びつつも義勇を寂しがらせている不甲斐なさに頭を抱える百面相が見られそうだが、知られたくはない。
 夏でもマフラーを押入れにしまい込めない理由なんて一つきりだ。口にしたが最後、絶対に杏寿郎はこちらの学校に転校すると言い出しただろう。わかりきっているから杏寿郎が来るときだけしまい込むマフラーには、逢いたい気持ちが募りすぎてときどき我慢しきれず落ちた涙が、少なからず染み込んでいる。