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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ3

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 大声で笑えば人目を集めすぎる。ますます義勇はへそを曲げてしまうに違いない。なんとか声を抑えようとするのだが、あとからあとから湧き上がる笑いは、止められそうになかった。
「土産を買うんだろうっ、行くぞ!」
「悪い、置いてかないでくれ」
 笑みを消せないままとっさに腕をつかめば、振り払われるかと思いきや、義勇はちょっぴり唇をとがらせただけだった。
「涙ぐむほど笑うな」
「うん、すまない。かわいくって止められなかった」
「かわいくない。杏寿郎のほうがよっぽどかわいい」
 すねた声音だが、義勇は本気で言っている。杏寿郎の笑みが少し苦笑じみた。
 昔から義勇は、どことなく自己肯定感が薄い。蔦子に言わせると、両親が亡くなってからそんな具合らしかった。つまりは杏寿郎と出逢う少し前からだ。
 両親の事故から重なる出来事に心がついていかないのだろうと蔦子は思っていたようだが、今でも義勇は自分を卑下しがちだ。かなり根深い。
「俺をかわいいなんて言うのは、今じゃ義勇ぐらいだぞ」
「……宇髄は?」
 ちろりとねめつける視線に、杏寿郎は思わずグッと言葉に詰まる。
「あれは意味が違うんじゃないのか?」
「杏寿郎がかわいいと思われてるのに変わりはない」
 それはそうかもしれないが、宇髄の言うかわいいは多分にからかいだ。杏寿郎が恋心に翻弄され右往左往するさまに対しての、年長者の余裕である。見た目も性格も愛らしい義勇への賛辞とは、意味合いがまったく違う。
「だとしても、義勇にかわいいと言われるのは、ちょっと悔しい」
「じゃあ、もうかわいがらなくていいんだな?」
「それこそズルいだろう……」
 かわいいと子供扱いされるのは口惜しいが、おいでと甘くささやかれ抱きしめられる愉悦をまるきり捨て去ってしまうのも、それはそれで惜しい。
 恋する青少年の煩悩をなめてはいけない。だって、義勇が甘やかしまくってくれるのは、今ではそういうときだけなのだ。
 大人扱いされたいし、頼りがいのある恋人として見てもらいたい。けれど、かわいいと甘やかされるのだって、嫌いなわけじゃない。

 やわらかな声と、やさしく撫でてくれる手。いい子、杏寿郎かわいいと、悦楽にかすれる声で笑いかけてくるささやきは、蜜のなかで溺れるごとくに甘い。
 あれを全部なくす? それは……ちょっと。だってああいうときの義勇の色っぽさは、たぶん、杏寿郎がリードして《優位に立って》の行為で見せてくれるはずのものとは、また一味違う気がしてしまうのだ。まだ見たことがないから、わからないけれども。
 ついでに、杏寿郎のほうこそがリード《手綱》を握られ躾けられている気もちょっとばかりしないでもないけれど、そこは杏寿郎の努力如何で改善可能と期待したいところだ。

 へにゃりと眉を下げ情けない声で杏寿郎がボヤくと、義勇の機嫌が浮上する気配がした。きっと頭に思い浮かべた言葉は、ちょっぴり呆れまじりの「かわいい」だ。どうやら義勇のなかでは『どちらがかわいいか合戦』の勝敗は決まったとみえる。
「買い物するんだろう? 千寿郎へのクリスマスプレゼントも買おうか。もう買ってあるか?」
「いや。一緒に選んで買おう。割り勘って約束だからな」
「クリスマスプレゼントだぞ」
「でも土産だろう?」
 じっと見つめれば、肩をすくめ義勇が苦笑する。よかった。ここだけは勝てたらしい。杏寿郎の顔にも少しだけ情けなさの余韻がにじむ笑みがのぼる。
 視線を義勇の手にちろっと落とすと、フゥッとかすかなため息が聞こえた。
「……お手」
 ぶっきらぼうな声で言い、手を伸ばしてくれるから、杏寿郎の笑みが朗らかなものに変わる。
「ワン!」
 声を弾ませ手をとれば、義勇の頬がほんのりと赤らみ、やさしくたわんだ目が杏寿郎に向けられた。
 大人の男としてエスコートするという目標を軌道修正する気はないけれど、こういうやり取りだって、結局のところ杏寿郎は好きなのだ。
 義勇のそばにいて、義勇が笑っていれば、杏寿郎は天下無敵だ。誰にも負けないし、誰にも義勇を傷つけさせない。姫を守るナイトでも、ご主人さまを守り抜く忠犬でも、なんとでも呼んでくれってなものだ。とどのつまり、義勇を守りきれるならなんだってかまわないのである。
「さぁ、行こうか」

 それでも、せめて仔犬ではないと思ってもらいたいものだ。

 杏寿郎がそっと指を絡めても、義勇が振りほどくことはなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ショップが並ぶ棟はそれなりに広い。すでにイルミネーションが点灯されているせいか、人気はまばらだ。
 観光地特有の地名入りキーホルダーや絵葉書、どこでも買えそうな幼児向けの玩具なども並んでいるが、メインの商品は食べ物らしい。観光地だけあって値段はそれなり。手痛い出費に違いはないけれども、どうにか予算は超えずに済みそうだ。
 手にとった瓶詰めのケチャップをしげしげと眺めている義勇の横顔を、さりげなくうかがいつつ、杏寿郎はさもたった今思いついたふりで話しかけた。
「義勇、土産を買い終えたら、明日の朝飯用にパンも買っていかないか?」
「めずらしいな、和食じゃなくてもいいなんて。俺のことなら気にしなくていいぞ。なんなら土産とはべつにさっきの金山寺味噌を朝飯用に買ってもいいが?」
「いや、石窯アンパンとやらが有名らしいんだ。かなり大きいらしいぞ。食べてみたくてなっ」
 ふぅん、ととくに気にした様子もなく義勇がうなずいた。杏寿郎は胸中で小さくガッツポーズする。これで明日の朝食を確保できる。
 今夜はきっといつもより無理をさせてしまうだろうし、朝はできるだけ上げ膳据え膳で過ごしてほしい。だがホテルのルームサービスやダイナーで食べるのは無理だ。義勇が嫌がるに決まっている。そもそも大食漢の杏寿郎が満足できる量とも思えない。予算オーバーして義勇に出してもらうのは絶対に避けたい。
 かといって、コンビニ弁当では特別な夜を過ごした翌朝には味気ないし、なにより杏寿郎はレンジが扱えない。そのまま食べられるパンが最適解だろう。

 たいへん無念ではあるが、コーヒーもペットボトルか缶で我慢だ。もちろん持ち込みで。部屋で販売しているものは高いらしいし、備え付けのポットは……たぶん、壊す。
 サイトの写真で見るかぎり部屋はダイニングキッチン付きではあるけれども、IHヒーターだったし……うん駄目だ。無謀な挑戦はすまい。とりあえず、今回は避けるにかぎる。
 ディナーや土産を割り勘にしても、今日のデートで飛んでいく額は毎月の義勇詣でにかかる費用の三倍以上。春からの新生活のための貯金も考えれば、弁償するほどの金はない。というか、万が一壊した場合、同棲がまたはるか先に遠のく。かもしれない。

「おまえのとこと、姉さんのとこ。バイト先や社長たちへのぶんに宇髄たちのもよし。錆兎と真菰へは一緒でいいから……こんなものか。あとは千寿郎へのプレゼントだな。食い物よりも雑貨のほうがいいだろ?」
「ん? あ、あぁ、そうだなっ。プレゼントが消え物では味気ないし、雑貨のコーナーに行くかっ」