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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ3

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 だけれども、いや、だからこそわかってしまうのだ。どうしたって伝わってくる。恋人であるのと同時に、義勇はまだ杏寿郎を子供扱いしているのだと。
 義勇は杏寿郎の言葉を大概は聞き入れてくれる。そのうえで線を引くべきところではきっちり引き、踏み越えようとする杏寿郎をたしなめる。顕著なのが金銭面だ。高校生になってからはいっそうそれがあらわになった。
 杏寿郎より一足先に高校生になった義勇は、家計の足しにしたいと入学早々からファミレスでバイトを始めていた。蔦子のいる運送会社じゃなかったのは、義勇の謙虚さや遠慮深さのあらわれだろう。

 バイトを始めた理由の今ひとつはといえば、ほかでもない杏寿郎だ。
 県内の剣道人はたいがいが父の知り合いで、杏寿郎自身も小学生のころから大会で優秀な成績をおさめている。学校側や県や市の剣道関係者からの期待は自明の理だ。
 杏寿郎としては剣道は父の指導で満足していたけれども、義勇までも頑張れと笑うならしょうがない。杏寿郎は剣道部に入らざるを得ず、嫌でも放課後の別行動が増えた。
 幽霊部員しかいない将棋部の義勇はたいてい部室で詰将棋に興じたり、図書室で時間をつぶして一緒に下校してくれていたけれど、時間を持て余していたに違いない。高校に入ったらバイトしたいと常々言っていた。
 蔦子の負担を減らすのが一番の理由だろうが、一人きりでいれば杏寿郎が心配するからというのも、きっとある。それが証拠に上がりの時間だって、部活を終えた杏寿郎が迎えに行くのに合わせてくれていた。同じ店で不死川もバイトしていたのだから、心配なんていらないと言ってもよかったのに。
 そうして平日の放課後を別々に過ごし、重なる休日には絶対に一緒にいて、遊びに行くときには、俺はもう働いてるからと義勇は杏寿郎のぶんも自分が出そうとするようになった。
 杏寿郎の悔しさを察してか頻度はそう多くはなかったけれど、そういうときの義勇はちょっと誇らしげだった。杏寿郎はまだ中学生なんだから。杏寿郎は部活で期待されてるんだから。そう言って義勇は杏寿郎の負担を減らそうとする。

 今日だってそうだ。自分が財布から出すぶんには躊躇しないくせに、杏寿郎が札を取り出すたび眉がピクンとちょっぴり動く。
 わかるから杏寿郎も、今までは観光などと言い出すことはなかった。稼げる休日をふいにしたうえ散財するなんてもってのほかだ。デートはもっぱら公園で散歩か、スーパーやホームセンターへの買い出しである。
 だけれどもクリスマスイブの今日ぐらいは、世間一般にならって財布のひもを緩めてもいいのではなかろうか。
 それに杏寿郎だってもう子供ではない。卒業も近づいたし、春には親から離れこちらで自活するのだ。
 スポーツ推薦ではないから剣道も部には入らず自己研鑽を主とし、義勇同様に生活費は自分で稼ぐ予定でいる。
 できればバイトも義勇と同じ店がいいけれど、こればかりは予断を許さない。なにせ義勇のバイト先はレストランだ。義勇はきっと反対するだろう。たとえ給仕のホール係だろうと、デザートの簡単な盛り付けはホールの仕事らしいから。
 ともあれ、これを機に弟扱いではなく恋人として頼られるようになり、あわよくば同棲の約束がほしい。もっと恋人らしく過ごしたいし、なによりも義勇を一人にしておきたくはない。もう大人だと思われたい。
 とはいうものの、杏寿郎が強引に我を通そうとすれば、義勇の機嫌を損ねるのも確かである。やはりできるだけ金をかけぬようにしたいところだ。

 いくら楽しい一日を過ごせても、明日以降、義勇が卵かけご飯やらふりかけご飯ばかりの食事になるのは、絶対に避けねば。浪費するところなど見せては、同棲も遠のくだろうしな。


「金魚は餌を食べるから、維持費用が美術館よりかかるんだろう」
 すっかり近い将来に向けての決意ばかりが占めていた杏寿郎の胸中を知ってか知らずか、隣で同じく料金表を眺めていた義勇が呆れたふうでもなく言った。
「ふむ、それもそうか。絵や彫刻は飯など食わんが、金魚はけっこう食い意地が張っているしな」
 言われてみればたしかにそのとおりだ。義勇は賢い。うっかりしかめられていた杏寿郎の顔が、自然と笑みにゆるむ。無意識の独り言に返事が返ってきたのも、杏寿郎に意識を向けてくれているからだと思えば、それもまたうれしい。
 思わず顔をほころばせた杏寿郎だが、すぐに自分の失態に気づき、内心ほぞを噛む。
 義勇のことばかり考えていたとはいえ、理由に思い至らぬばかりか、ケチくさいことを言ってしまった。これでは義勇に大人の男として認めてもらうなど、まだまだ厳しい。
 知らず識らずわずかに首をすくめ、ちらりと義勇をうかがい見たが、義勇には特段気にした様子はなかった。
「スモモほど食べるのは、そうそういないと思う」
「うぅむ、たしかに」
 クスッと笑った顔も穏やかなものだ。杏寿郎はまた胸をなでおろす。

 初めてのクリスマスデートだ、義勇もある程度の出費は想定していたんだろう。道中でも高速は初めてだと少し緊張はしていたが、高速料金は割り勘と主張した以外、なにも言わなかった。
 内心で不満をくすぶらせているわけでもない。義勇が嫌がるなら杏寿郎はすぐに気がつく。今回のデートプランやそれに伴う出費について、割り勘であれば義勇にも不満はないのは確かだ。
 なにしろ義勇は口下手で言葉が足りないことが多いし、なにかにつけ我慢しがちだ。自分が察してやらねばと気を配るうち、義勇のことなら敏感に察するようになった。高感度冨岡センサー搭載と宇髄にからかわれるのは伊達じゃないのだ。
 理解しているからこそ安堵もしたが、気にしているのは自分だけかと、少しだけ悔しくもなった。

 デート中だろうと、義勇は相変わらず杏寿郎を子供扱いしてくる。恋人らしい夜を何度過ごしても、そこはちっとも変わらない。杏寿郎としては不甲斐ないばかりだし、今しばらくは子供の立場に甘んじなければならない自分の年齢が、ますます口惜しくもなる。
 だが、今日はなんとしても弟分から脱却するのだ。杏寿郎の決意は固い。
 人生の大半をともに過ごしてきたうえで培われた義勇の意識を改革するには、自分が頑張るしかないのだ。
 だってこの先の人生は、今までよりもっとずっと長い。これから先、五十年だって、百年だって、杏寿郎は義勇とともにいたいのだ。
 一生一緒にいる。絶対に。そのためには死ぬ気で努力しなければならない。このままかわいがられるばかりなんて、男がすたる。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 
 決意も新たに寄り添い入った美術館は暖かい。ほぅっと息をつく義勇を横目に認め、杏寿郎こそホッとする。
 今日は晴れているしまだ日も高いとはいえ、真冬であるのに変わりはない。しかもここは高原だ。同じ県内でも義勇が住む街にくらべれば標高が上がるぶん、気温はだいぶ低い。
 駐車場から美術館まで大した距離でもなかったが、寒がりな義勇は、歩いてくるあいだじゅういかにも寒そうに首をすくめていた。それでも、迷わず手を繋いでくれたのは寒さばかりが理由ではないはずだ。わかるから杏寿郎は幸せを噛みしめる。