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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ3

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 冨岡姉弟にめでたいことがあるたび二人は勇んで盛大に祝おうと張り合い、仲良く妻に叱られるのを繰り返しているのだ。本当に、大人げないことこの上ない。
 そんな悪友《ライバル》同士のじゃれあいはともかく、冨岡姉弟はことほど左様に周囲の大人たちから愛されまくっている。杏寿郎だって、こと義勇への愛情は、父にも社長にも負ける気などさらさらない。いずれ三つ巴の攻防戦になること必至である。杏寿郎の一人勝ちになればいいが、こればかりは予断を許さない。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 そんなこんなのプロポーズで終わった初の大泣きに続き、二度目の涙は静かなうれし泣きであったけれども、三度目となると誰にも語りたくはない。杏寿郎と義勇だけの、秘密の夜での出来事だ。
 あの夜の涙だけは、義勇以外に知られたくはない。
 恥ずかしくて、ちょっと不甲斐なさも感じて、それでも一生忘れられない、思い出の涙。義勇にも忘れないでいてほしいと杏寿郎は願っている。
 いつか二人とも年をとったら、のんびりと茶でもすすりながら、あんなこともあったねとひとつ屋根の下で笑いあうのだ。そのころにはきっと、義勇も子供扱いなどしないでくれているはずだ。

 いや、弟扱いを思い出して甘やかそうとしてくるか? まぁ、いい。どうせ二人とも白髪頭でしわくちゃな顔をしているはずだ。久しぶりの子供扱いも楽しかろう。

 とにもかくにも、四度目の涙がこれではあんまりだ。あまりにも酷《むご》い。宇髄と不死川に爆笑され、伊黒には「なんでおまえの知能は冨岡が関係すると地を這うんだ」とため息をつかれることだろう。チベスナ化は確実だ。

 内心冷や汗が止まらない杏寿郎だったが、義勇はそれ以上たしなめてはこず、帰ろうとも言い出さないでくれた。
「彫刻、先に見るんだろう?」
 そう言って、ほのかに笑ってもくれる。
「う、うむ! あ、すまないっ。小さな声で、だな」
「うん。子供がビックリしてるからな」
 笑みまじりに言われ見回してみれば、なるほど、周囲の視線が集まっている。やたらと衆目を集めてしまうのは慣れっこだが、デートでこれはいただけない。
 思わず頭をかき、杏寿郎は照れ隠しに笑ってみせた。
「静かにまわろう」
「そうしてくれ」
 若干からかいめいた声音にちょっとだけ唇をとがらせ、杏寿郎は意趣返しとばかりに義勇の顔を覗き込んだ。
「義勇も、似合う。初めて見る服ばかりだな」
 もしかしてこの日のために誂えてくれたのかと期待したのだが、答えはつい目が据わるものだった。
「あぁ、コートとニットは錆兎が借してくれた」
「……へぇ、それは錆兎さんの服だったのか」
 ゆとりのあるサイズなのはそのせいか。心ならずも低くなった声に、義勇がぎょっとしたように目を見開いた。
「新しい服を買う予算はないと言ってるのに、真菰が錆兎のを貸すからオシャレしろと聞かなかったんだ。でも、スニーカーやズボンは自分で買ったっ」
 いかに恋愛ごとに疎い義勇でも、恋人がほかの男の服を着ているなんておもしろくない事態だというのは理解できたらしい。おまえとだって服の貸し借りはするだろう? と、不思議そうな顔で言い出されないだけマシか。
 真菰への感謝や錆兎をいい人だと思うのにだって、変わりはないのだ。
 まぁ、それぞれが独り身でいたのなら、嫉妬はもっと深かったかもしれないが。紹介されたときに恋人同士だと聞き、こっそりと胸を撫でおろしたのは内緒にしておきたい。
 義勇に紹介されて逢った二人は、仲睦まじいカップルだ。自分も義勇とこんなふうになりたいと思えるお手本でもある。義勇と杏寿郎の仲だって、おせっかいに咎めだてるどころか祝福してくれた。あからさまな悋気を見せれば狭量がすぎる。

「……その、怒ってるか?」

 おずおずとした義勇の声に、杏寿郎は、浮かべかけた笑みを引っ込めた。ふむ。と、ちょっと考え、義勇の耳に顔を寄せる。
「怒ってない。でも、ちょっと悔しいから、手を繋いでもいいか?」
 駄目? と覗き込む視線で問えば、義勇の頬がパッと花の色に染まる。キョロキョロと視線をさまよわせながらも、小さくうなずいてもくれた。
 笑み崩れて手をとった杏寿郎をちょっぴり睨みつけはするが、キュッと握り返してくれた手は、恥じらいのぶんだけ平時より少し温かい。
 頭のなかで「ちゃっかりしすぎだと言ってるだろうがっ!」と、父がこめかみに青筋を浮かべたが、義勇に対してだけですとにこやかに返してお帰りいただく。楽しいデートに家族の怒り顔など無用の長物である。いやいや、ちゃんと尊敬しているとも。とりあえず、土産を奮発することにしよう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 美術展示のエリアはさほど広くはなかった。水族館自体が美術館よりもこじんまりとしているのだから、当然かもしれない。それでも、テラコッタの作品が並ぶさまはそれなりに圧巻だ。
 というか、心なしあっけにとられる光景だった。

「カバって美術のモチーフとしては普通なのか?」
「うぅむ……それはわからないが、とりあえず、これはすごいなっ」

 デンッと鎮座している全長一メートル八十センチにもなるカバを目の前にしては、さすがに驚く。杏寿郎の身長よりも、わずかばかりとはいえ大きいではないか。しかも巨大なこのカバも素焼き製だと書いてあるのだ。いったいどうやって窯に入れたんだろう。義勇もちょっと呆然として見えた。
 この展示はカバばかりを厳選したわけではなく、製作者がカバ好きでカバの作品を多く作っているのだと、パンフレットにはあった。自らカバ製造業と名乗ってもいるらしい。思わず見合わせてしまった顔が、そろってほころんだ。

 俺が義勇馬鹿なら、この人はカバ馬鹿だな。うむ、これだけの作品を作り続ける心意気やよしっ! 俺も見習わねば!

 巨大なカバはともかく、ひしめきあう小さなカバの置物は、見ているとかわいく思えてくるのが不思議だ。杏寿郎が勝手にカバに負けん気を燃やしていることになどちっとも気づかぬ義勇は、小さめの置物をまじまじと見つめ、姉さん好きかなとつぶやいている。
「ここにも土産物は置いているようだが、どうせなら夕飯の前にほかの店も見てみよう。駐車場に一度戻って荷物を置いてから食事をして、それからイルミネーションを見に行く。そんなものでどうだろうか」
「それでいい。イルミネーション、どうせ有料のも見に行くんだろう? 全部割り勘だからな」
 機先を制されてしまった。手を握るのは許してくれても、杏寿郎にだけ散財させるのは言語道断というところだろう。
 思わず眉を下げた杏寿郎だが、負けてばかりもいられない。
「わかった。土産も全部割り勘だなっ。蔦子姉さんや錆兎さんたちへのも一緒に買おう。あぁ、車のお礼に村田さんのぶんや、書き入れ時に休んだ詫びとしてバイト先へも忘れないようにしなければな」
 パッと向けられた義勇の顔に「しまった」と書いてある。してやったりと、杏寿郎は満足気に笑った。
 義理堅い義勇は、デートとはいえこういう場所に来たなら、必ず知り合いへの土産を買い込むはずだ。痛い出費であってもバイト先のぶんなど杏寿郎に出させるわけもない。どう言いくるめようかと思っていたが、渡りに船だ。