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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ4-1

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 カフェテリアスタイルのデザートブッフェは、残念ながらあまり堪能できなかった。杏寿郎の胃袋からすると、コース料理だけでは量がまったく足りないだろうが、タイムオーバーだ。駐車場での一幕で時間を食ったのが惜しい。
 ラストのコーヒーを飲み干したら、二人そろって自然と微笑みが浮かんだ。

「出ようか。イルミネーション見よう」
「うん」

 素直にうなずいた義勇の胸に巣食う不安の欠片《かけら》は、コーヒーとともに飲み込まれて溶けた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 すっかり日の暮れ切った屋外は、冷え込みがキツイ。吐く息も白く染まっている。知らずブルリと震えたら、杏寿郎はすぐに義勇の手を握ってきた。
「手袋を持ってくればよかったな。気が回らなくてすまない」
「べつにいい」
 杏寿郎の体温は義勇よりも高めだから、手をつなぐだけでもじゅうぶんあったかい。手袋よりも、きっと、ずっと。
「それより、おまえには全然足りなかっただろう? どこかでパン食べるか?」
 杏寿郎が肩に下げたトートバッグのなかには、あわただしく紙袋から移し替えたアンパンが入っている。ホテルのディナーじゃ絶対おまえには足りないはずだと、義勇が無理やり持たせた。
 子供扱いとちょっぴりすねた顔はかわいかったが、そういえば、ほかにはなにが入っているんだろう。杏寿郎からのプレゼントはちょっとかさばるからと、交換するのは後でと決めたし、財布やスマホはポケットにあるはずだ。
「うぅむ、すまんが食べ歩きでもいいか? なにしろ広いからな、ショーに間にあわなくなるかもしれない」
 行儀は悪いが、たしなめるほどのことでもない。小さくうなずき許可すれば、杏寿郎は義勇の手を握ったまま、取ってくれと向き直ってくる。
 甘えているのか、はたまた浮かれてるのか。どっちもだなと小さく苦笑したものの、義勇だって同じことだ。手を離したくないのは、義勇も同じ。

 ゴソゴソと探ったバッグには、目当ての大きなアンパンとともに、思いがけないものが入っていた。杏寿郎が高校時代から愛用しているのは知っているが、今日にかぎっては無用の長物と思えそうな目にも鮮やかな青いそれに、義勇は思わず目をしばたたかせた。
「折りたたみ傘? 天気予報は快晴だったぞ?」
「ショーを見るのに必要なんだ」
 コテンと小首をかしげた義勇を見つめ杏寿郎が浮かべた笑みは、いたずらっ子のようだった。
「それより、手がふさがってるからこれじゃ食えん。食わせてくれ」
 ニンマリ笑ってアーンと口を開ける杏寿郎に、義勇はポカンと目を見開いた。
 片手は空いているだろうが。言って、そっぽを向くのは簡単だけど。
 フゥッと小さくため息をつけば、杏寿郎は残念そうでもなく肩をすくめて苦笑している。人前で調子に乗るなと叱られて終わる冗談のつもりだったのかもしれない。

「ホラ、アーンしろ」

 だから、義勇がアンパンを口元に差し出してくるなんて、思ってもみなかったに違いない。パチパチとせわしなくまばたいた杏寿郎の頬が、じわっと赤らんでいく。
 無表情でいるつもりだったけれど、そんな杏寿郎の様子に我慢しきれず、義勇の唇にも笑みが浮かぶ。目を細めて見やった杏寿郎の顔に、胸にじんわりと広がるのは、好きだなぁという言葉。
 クフンと忍び笑った義勇が差し出すアンパンに、がぶりとかじりつき杏寿郎が「うまい!」と笑う。大きな声に視線が集まるけれども、旅の恥はかき捨てと言うじゃないか。それにこれはデートだし。恋人同士だし。

 あぁ、やっぱり俺も浮かれてるな。

 自嘲はそれでもたいそう甘く、うまいと笑う杏寿郎に浮かぶ言葉は、好きだなぁという深い感慨ばかりだ。
「イチオシ商品だけあって、すごくうまいぞっ。義勇も食べてくれ!」
「それじゃおまえが足りないだろ?」
「義勇と半分こしたかったんだ。それにかなり大きいからな、二人で食べよう!」
 そういうことなら、意地になって断るのも気が引ける。
 大きな歯型のついたアンパンに、義勇もカプリとかじりつく。間接キス、なんてドキドキしたのは、中学のころだけだ。思春期って怖い。慣れ親しんだ習慣でさえ、ときめきに変えるのだから。
 まぁ、今だってちょっぴりドキドキするんだけれども。
 それでも慣れた行為であるのに違いはなく、ためらいもない。もぐもぐと噛みしめる義勇を見つめて、杏寿郎が至極うれしげに笑う顔は、イルミネーションよりも眩しい。
 手をつないだまま歩きだし、義勇は互いの口元へと交互にアンパンを向ける。そんな行動は、傍目にも仲のいい友人の範疇を超えているんだろう。好奇心を隠さぬあけすけな視線が、いくつも向けられているのを感じた。杏寿郎だって気づいているはずだ。けれど手を離す気配なんてなかった。
 羞恥は恋心ゆえの面映ゆさでしかなくて、後ろめたさを覚える必要なんてない。
 隠さなければならない恋だなんて、一度も思ったことがないのは、杏寿郎が笑ってくれるからだ。

「義勇、あんこがついてるぞ」
「っ、調子に乗るな!」

 顔を近づけ舐め取ろうとしてくるから、思い切り足を踏んでやる。痛いと騒ぐ顔はそれでも笑っているんだから、しょうのない奴だ。義勇は口元を拭う素振りで、弧を描いてしまう唇をアンパンを持つ手で隠した。

 アンパンはもっちりとして、たっぷりとくるみが入ったあんこは、とびっきり甘かった。