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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ4-1

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 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 金色にまばゆい光のトンネルは、感心や高揚と同時に、懐事情ゆえの少々みみっちい感想も抱かせる。
「うぅむ、きれいだが電気代が大変そうだっ!」
 義勇の感想は、杏寿郎の口から飛び出た。パチンとまばたいて、義勇はクスリと小さく笑った。
「そうだな。それに、同じ金色なら杏寿郎の髪のほうがきれいだ」
 するりと口から出た義勇の声は、自分でもわかるほど弾んでいた。イルミネーションの光を浴びた杏寿郎の髪は、人工の輝きよりもずっと温かくやさしくきらめいている。
「キラキラで、フワフワだ」
 腕を伸ばしよしよしと撫でてやれば、杏寿郎は頬に朱をのぼらせ、ムズムズとうごめかせた口をへの字にした。うれしいと喜びたいけれど、子供扱いされているようなのはちょっと悔しい。そんなところだろう。
「ショーを見終わったら、帰るのはかなり遅くなるな。どこか、泊まっていくか……?」
 義勇のささやきに、杏寿郎の顔がいよいよ赤く染まった。
 遠回しにだろうと、義勇からは誘い文句など言ったことがない。そろりとお伺いを立てる杏寿郎に、いいよと義勇が返すのがいつもの始まりだ。
「あ、の……じつは、ホテルの予約もしてある。あ! ここじゃなくてだなっ、一つ先のインターチェンジまで行くことになるんだが、ちょっとおもしろいコンセプトのホテルなのだ! ここほど宿泊料金は高くないし、義勇も好きそうだと思ってだな!」
「声……大きい」
 不躾な視線を気に留めぬことはできるが、聞こえてくる「ホテル……」だの「ラブラブじゃん」だのと呟く声や忍び笑いは、さすがにいたたまれない。
「ごっ、ごめん! あ、いや、すまん……あの、そこでも、いいか?」
「ん……予約したんだろ? キャンセル料もったいないからな」

 ちょっとばかり呆れはするが、クリスマスイブなのだ。お高いリゾートホテルではなさそうだし、これだけお膳立てしておいてホテルは予約していないなんて、画竜点睛を欠くってものだろう。やっぱりなとしか浮かばない。
 それに、杏寿郎と家にいるのは、ちょっと怖い。
 長靴を入れたらいっぱいになったからとごまかして、靴箱を使わせないようにはしている。今のところ、杏寿郎が言いつけを破ったこともない。けれど油断はできない。万が一隠しているアレを見つけられたらと思うと、ここ数ヶ月の来訪はずっと落ち着かなかった。

 とくに、今朝のは……。

 ゾクッと背筋を走った震えを隠したくて、義勇は照れ隠しを装いそっぽを向いた。思いがけない義勇の言葉に動揺しきりらしく、杏寿郎は義勇の不安には気づかなかったようだ。つないだ手に力がこもり蕩けそうな笑みを浮かべているが、それでも少しだけ悔しそうにも見える。
「よもや、義勇がそんなことを言ってくれるとは思わなかった。俺から自然に誘いたかったんだがな」
「クリスマスだから」
 ポツンとつぶやいて、義勇はマフラーを鼻先まで引き上げた。
 自分で言い出しておいて恥ずかしがるなんて今さらだ。思うけれども、今はあまり顔を見られたくはない。見抜かれそうで怖いのもあるが、それ以上に羞恥が抑えがたかった。
「クリスマスプレゼントか?」
「プレゼントは別にある」
 じゃあなんでと、杏寿郎は聞いてこなかった。
 手に込められた力が、また少し強まる。
 不甲斐ない。うれしい。まだ子供扱いか。悔しい。でも幸せだ。きっと杏寿郎の心のなかには、たくさんの感情が渦巻いている。それらを全部飲み込んで、杏寿郎は笑うのだ。

「義勇にもっと好きになってもらえるよう、大人になってみせる……頑張るから」

 本当に、賢いくせに馬鹿だ。
 テストの成績はいつだって上位だし、剣道はインターハイで優勝した。バイト先でも真面目によく働いているらしく、社長が褒めていたと姉が教えてくれた。誰からも好かれる杏寿郎は、周りから人が絶えることもない。
 引く手あまたとは杏寿郎のためにある言葉だなと思うのに、当の杏寿郎は、こんなにも義勇でいっぱいで、自分ばかり好きだと思いこんでいる。
 少しだけ切なげな笑みを浮かべる杏寿郎に、義勇こそ切なくなって、ちょっぴり焦れもする。
 どうして伝わらないんだろう。伝えてやれないんだろう。こんなにも好きなのに。
 もっとずっと小さいころは、大好きと笑いあう気持ちに差などなかった。今だってそうだ。だけどそれを知るのは義勇だけなのだ。杏寿郎は義勇に嫌われることを心底怖がる。そんな日は永遠にこないと、信じてほしいのに。

「恋人だからだ」
「え?」

 口早になったのは、それでも恥ずかしかったから。リードを手放して、愛してるから全部杏寿郎の好きにしていいよなんて、怖くて言えないから。
 胸に沈めた怯えに蓋をして、義勇は杏寿郎を見つめ、ふわりと笑ってみせた。
 恥ずかしいけれど、好きな気持ちは同じなのだとわかってほしくて、愛しさを笑みに込める。

「ホラ、急がないとショーの前にイルミネーション全部見られなくなるぞ」
 ことさら明るく言えば、杏寿郎もフッと息を吐き、いつもの笑みを浮かべてくれる。
「うむ! ショーは二十分間隔でやってるらしいが、今日はクリスマスだから混むだろうしな! チケットが売り切れたら大変だ、急ごう!」
 そう、今日は聖夜だ。愛に包まれる日だ。大切な人と笑いあえたら、それでいい。
 やさしく抱きしめあえたら、それだけで。

 きらびやかなイルミネーションよりきれいな髪をクシャクシャと撫でてやっても、杏寿郎はもうすねなかった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 光のトンネルを抜けても、通りはそこかしこが光の渦だ。カラフルなライトで作られたツリーだけでなく、頭上にも銀河のように続くイルミネーションが光っている。
 ショーが行われる有料ゾーンは高台だ。坂を登ったどん詰まりの大きなプールが、ショーの開催地である。メインは言うまでもなく有料のショーだが、この時期は広大な敷地全体が飾り立てられ、途中の道筋も目を楽しませてくれた。
 大きなピンクのハートや、テールランプみたいにきらめく、色とりどりの光の帯。屋根を光で飾り立てられたコテージ群は、宵闇のなか浮かび上がる光が宇宙船のようにも奇抜なきのこのようにも見えた。
 エリアごとに変わる電飾には、賑々しく華やかなものもあれば、音楽に乗せて揺れ動く幻想的なものもあり、さまざまな趣向が凝らされている。
 さんざめく人々はみな笑顔で楽しげだ。ショーの観覧を終えた観光客が興奮した声で会話するのとすれ違うたび、義勇と杏寿郎の期待も高まっていく。杏寿郎はもちろんのこと、義勇の声も知らず弾む。
 非日常感に浮かれながらも今宵は聖夜。カップルが多いだけあって、夜間とはいえ迷惑な酔漢は見受けられない。とはいえ、どこにでも無作法な輩はいるものだ。
 誰もみなイルミネーションに夢中だけれど、それでも無作法にジロジロ見てくる者はやっぱりいる。ショーに向かう流れと戻ってくる人々が入りまじり、だんだん人が多くなってきたせいだろうか。不躾な視線が増えてきている。ときにすれ違いざま侮蔑の舌打ちをもらす輩さえいた。