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星溶け菫のカクテル

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 顔が、燃えるように熱い。見惚れたことも、音を立ててしまったことも、笑われたことも。そのどれもが恥ずかしかったのだけれど、それ以上に。その瞳に映ったことが、嬉しかったのかもしれない。心臓がばくばくと煩くて、その声を掻き消してしまいそうで。
「『Just take five』」
 歌い終えた彼が一礼すると店内は拍手で溢れた。私も遅れて拍手を送れば、店内を見渡していた彼の視線が一瞬こちらを掠めた。すっと目を細めた彼の妖艶な笑みに心臓を射とめられたと認めたくなくて、私は思わず目を逸らす。それは僅かな意地だった。
 上手かった。歌だけではなく、演奏自体もとてもクオリティが高くて心地よかった。楽しそうに演奏する彼らの音色に心が揺さぶられた。そしてそれ以上に、彼に魅了された。
 二曲目、三曲目と演奏が続く。曲の合間にボーカルの彼が『セナ』という名前であることと、彼が歌っているのはとても珍しいことだというのを近くの席の御婦人たちの会話で知った。
「それでは、次は20時半に」
 そう告げた彼は颯爽とステージを後にして店の奥へと去っていった。
 ││それが彼、瀬名泉との出会いだった。もう一言添えるなら、一目惚れだった。

 熱々だったハンバーグは、『温かい』くらいにまで冷めていたけれど、それでも美味しいのだから不思議だ。飲みなれないアルコールを口にしたせいか足元がふわふわと軽い気がする。
「……次の演奏、聴いていかないの?」
 そう言いながらも凛月は手早く会計を済ませる。
「すみません、なんだか私も演奏したい気分になって」
 ハードケースを背負った肩を竦めて見せれば、ああ、と目を細める彼に、お酒も食事も演奏もとても良かったと告げれば微笑まれた。
「また来てくれよな!」
レオが開けてくれたドアには一枚の貼り紙。私はそれを横目に、ごちそうさまでしたと深くお辞儀をして、昼間に見かけた河原へと向かった。
 先程までお荷物だと思っていたそれがやけに軽い。足元に気を付けながら、それでも足早に進んだ。私は河原に着くなり誰も居ないのを確認すると、ハードケースから取り出したそれを構える。手離すために持ち歩いていたというのに、結局またこうして握っているのだから皮肉なものだ。
水面に映る月に向かって奏でる。吐き出す息が白いのも指先が赤いのも厭わずに、何曲も、何曲も。けれどやはり、先程彼らの演奏を聴いたときのような高揚感は得られない。結局私にはこれしかなくて、それなのに満足いくものを紡ぐことが出来ないらしい。
「あの人たちなら、答えを知っているのでしょうか」
 ぽつりと呟いた言葉は冷たい風にかき消された。

 あくる日。私は再びあのバーを訪れていた。今度はまだ日も高いお昼時。ランチメニューは11時からと書いてあったから、少し前に着くようにホテルを出た。昨日の雪は夜のうちに止んだようだけれど、道路は所々凍っている。それでも店の前には既に人が集まりつつあって、そんなに人気の店なのかと驚いた。
「いらっしゃいま、あら……? 確か昨日も」
「はい、お料理がとても美味しかったのでぜひLunchをと思ったのですが……」
 丁度司で満席となるらしい。一つ後ろの客が、席が空くのを待つとこの後の予定に遅れそうだから遠慮します、と列を離れようとするので声を掛けた。
「よかったら、お先に」
 先程、遠方から来てとても楽しみにしていたのだと言っていたのが聞こえてしまったのだ。申し訳なさそうな顔をした嵐は客を席に案内すると、すぐさまこちらに戻って来た。
「ごめんなさいね、少し待って貰えたら案内できるんだけど」
その言葉に待っているか、諦めようかと悩み始めたところで、嵐が呟いた。
「こんなに忙しいのに、泉ちゃんたらバイトさん辞めさせるんだから……困っちゃうわァ」
 はぁ、と小さな溜息が一つ。司がぱちりと瞬きすれば、独り言よ、とウインクが飛んできた。
「あの、もし宜しければお手伝いさせて頂けませんか」
「あら、そんなつもりで言った訳じゃないのよ」
 困ったように眉を寄せる嵐に、私はドアの張り紙を指差す。そこには【アルバイト募集中】の文字。元々ランチを食べた後に尋ねる気でいたのだ。それがランチの前になっただけ。
「ぜひ、ここで働かせてください!」
「ナル〜!」
 そんなことを言っている間にもオーダーは止まらない。
「あ〜もう、じゃあお願いしようかしら!」
 店内に招かれ、そのまま奥へと通される。ロッカールームで新品の制服を与えた嵐は着替えたらホールに来てほしいと言って踵を返した。
 白いシャツに黒のスラックスとベスト。巻きスカートの様な長いエプロンを腰に巻いて、見よう見まねで結んでみる。姿見で見ればそれっぽい。よし、と拳を作った司はホールへと飛び出した。

「新入り、これ十卓!」
「新規のお客様にお冷持って行ってもらえる?」
「あの卓のお皿下げといて〜」
 息をつく間もなく時間だけが過ぎていく。目が回りそうなほど忙しいのに、ふと目を向けてしまうのは奥のキッチン。そこには昨夜ステージで歌っていた泉が居た。ちらり、とこちらに目をやった彼は眉を顰めるとふん、と鼻を鳴らして顔を背ける。
「なっ……!」
「ああ、泉ちゃんね。うちの料理長なの。あとで紹介してあげるわァ」
 そろそろ閉店だからもう少し頑張ってね、と言われて時計を見やれば時刻はそろそろ13時半。あっという間である。

「はぁ〜……ほんっと疲れた……」
 店がクローズするなりソファに倒れ込んだ凛月に慌てていると、放っておいていいと嵐に言われて目を丸くする。
「セナ〜! ランチ五人前!」
 嫌いなものある? アレルギーは? と聞いてくるレオに首を横に振る。
「すっごく助かった、ありがとな!」
 よくできました、とわしゃわしゃと髪を撫ぜられて困惑する司の手を引いたレオが厨房に連れて行ってくれた。
「セナ、こいつ、新入り!」
「ま、また新入りと……こほん、朱桜司です」
 よろしくお願いします、と頭を下げれば、へえ、と興味の無さそうな相槌が一つ。どうしたものかと調理を続ける彼を眺めていると、並べられたお皿に均等に料理が盛り付けられていく。
「まかない、持って行って」
 どこに、と聞こうとすれば顎で後ろを指される。振り返ればいつの間にか起き上がった凛月と嵐がテーブルをくっつけてカトラリーを並べていた。
「いただきます」
 みんなで囲むご飯は緊張したけれど、料理のおいしさに緊張も吹き飛んでしまった。
「私、昨日の皆さんの演奏に感動して、」
「ふぅん、昨日店に来てたんだ?」
 まぁ興味ないけど、と言わんばかりのその人はこんなにおいしい料理を作るとは思えないくらい冷たい。ステージの上とも大違いで、一卵性の双子なのだと言われたらそうなんですねと素直に頷くほどだ。どうやらそんなことはないみたいだけれど。
「そんなこと言って、二回目の演奏の時にス〜ちゃんが居ないの気にしてたのはどこの誰だったかなぁ?」
「あ、れは……っ! 俺の歌を聞いておいて帰るなんて失礼な奴がいるなって」
「はいはい、そうだね〜」
「ちょっと、くまくん!」
 大きな声を上げるその人に驚いていると、隣からつんつんを袖を引っ張られる。
作品名:星溶け菫のカクテル 作家名:志㮈。