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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ5-1・2

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 強く抱きしめそうになるのをどうにかこらえた杏寿郎の腕のなか、一生をともにと願う最愛の人は、すやすやと穏やかに眠っていた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 それは、杏寿郎の一世一代の告白が義勇に受け入れられ、義勇が引っ越していってから、三ヶ月が経った七月のことだ。
 おりしもその日は七夕で、『義勇とずっと一緒にいる』との文言が書かれた短冊が竹に吊るされるのは、四年ぶりのことだった。決意を記した短冊は青。義勇の色。縁側で千寿郎と一緒に揺れる短冊を眺めているうち、杏寿郎はいてもたってもいられなくなった。
 杏寿郎が父に外出の許可をとり、急いた声で今から行っていいかと宇髄に電話をしてから、宇髄のマンションのインターフォンを押すまで、十五分と経ってはいなかったろう。矢も盾もたまらず自転車を漕ぐ杏寿郎の頭のなかは、ほんの数日前に義勇からきたメッセージだけが、グルグルと回っていた。
 そうしてたどり着いたマンションで、宇髄は、息を切らせて頬を赤く染めた杏寿郎を快く出迎えてくれた。
 まるで杏寿郎が訪ねてきた理由などお見通しと言わんばかりに、くるのが派手に遅ぇよと笑いながら。


 決意はしてきたものの相談の内容が内容だけに、杏寿郎の口はいつもにくらべ重かった。そんな杏寿郎を急かすこともなく、宇髄は穏やかに笑っていた。
 引越し当日に発見された盗聴器は、現状、推測どおり前の住人を狙ったものと考えるのが妥当だろう。錆兎たちと情報を共有し、彼らにも義勇の耳目を盗んでたびたび調べてもらっているが、新たな盗聴器なり盗撮器なりは発見されていない。不審者がうろついている様子もなく、義勇の新生活に問題はないようだ。錆兎たちが言うには、このぶんならそろそろ調査を終了しても大丈夫だろうとのことだった。
 そんな報告をするあいだは冷静だった心臓も、いよいよ本題に入るぞと宇髄を真正面から見つめれば、とたんにドクドクと落ち着きなく騒ぎ出した。
 遠回しな文言など、ちっとも浮かんでこなかった。だけれども、単刀直入にも聞きにくい。ガラにもなくうつむいて、杏寿郎はもじもじと膝のうえで指をすり合わせた。
 宇髄や不死川、伊黒にも、つきあうことになったと引っ越しの朝に二人で報告はしている。ようやくかと呆れた顔をして笑ってくれた三人には、今さらなにを隠す必要もない。それでもやっぱり羞恥心はどうしようもなかった。

「部屋に問題がねぇなら、ようやく煉獄も童貞卒業できるか。派手におめでとうさん」

 なかなか相談を切り出せないのを察してくれたんだろう。わずかなからかいを含みつつもなにげない口調で言った宇髄に、杏寿郎は、弾かれたように勢いよく顔をあげた。
 やけに熱くてしかたがない顔は、きっと今まで以上に真っ赤に染まっていたに違いない。それでも宇髄は、いつものように爆笑せずに静かに笑っているから、杏寿郎は意を決して身を乗り出した。
「あ、あのっ、それでなんだが」
「はいはい、みなまで言うな。どうせおまえさん家のこったから、スマホはフィルタリングされてんだろ? 調べたくてもむずかしいわな」
 常よりもちょっぴり穏やかに笑い、杏寿郎の前でノートパソコンを開いた宇髄のレクチャーは、小一時間もかかっただろうか。からかいや冷やかしなどまるでない真面目な口調での説明は、宇髄の手による図解込みだ。いったいいつからこんなものを準備していたのかと、杏寿郎がうろたえても、宇髄は平然としたものだった。

「まぁ、最初だしな。もし失敗してもあんまり落ち込むなよ? セックスなんざ相手がいなけりゃ成り立たねぇんだ。どっちかだけの失敗ってわけじゃねぇよ」
「そうは言うが……やはり、義勇にはその、ちゃんと気持ちよくなってほしい、と……」
 宇髄の教えはテクニックよりも注意点重視だ。事前の準備から事後の処理、最適な避妊具やら潤滑剤やらまでまとめられた宇髄謹製の資料は、かゆいところに手が届くとはこのことかと思わず感動するほどではある。宇髄の言葉だって、言いたいことはわかるし、もっともだと思いはした。
 それでも杏寿郎からすればやっぱり、失敗などしたくないし、義勇にもなんというか、メロメロになってもらいたい……なんて、思ってしまうのはしかたのないところだ。
 言いよどみもじもじとうつむいた杏寿郎に、宇髄はまた、静かに笑って言った。

「あのな、本当に気持ちいいセックスは、テクなんかまったく関係ねぇんだよ」

 ピンとこず、コテンと首をかしげた杏寿郎の姿は、宇髄の目にはきっとずいぶんと幼く映ったのだろう。くしゃくしゃと少し雑な手つきで頭を撫でられた。からかいの見えぬ、やさしい手だった。
「たとえば、だ。俺の経験でよけりゃ、これなら誰でも派手にメロメロになるってエロテクも、確かにあらぁな。けどそれは、あくまでも体だけだぜ? おまけに体が覚える快感なんて、簡単に上書きされる。刺激に慣れて次から次にハードル上げてったところで、ジジイになりゃあそうそう若いころみたいにはいかねぇんだ。そんときおまえ、どうすんの? ドギツいセックスじゃなきゃ満足できねぇ、けど体は思ったようには動かねぇ。昔はよかったって、年食ってから冨岡にグチグチ言われてぇか?」
 聞かれ、杏寿郎は、無意識にグッと顎を引いた。わずかに眉根だって寄る。スッと宇髄の手が離れていった。
 ククッと喉の奥で忍び笑った宇髄に、杏寿郎は少しばかりバツ悪く首をすくめた。お見通し加減も気恥ずかしいが、なによりも、深く考えていなかった自分が恥ずかしい。けれども。
「冨岡ならそんなこと言わないってぇ顔だな。けど、子供っていう枷が作れねぇ男同士だ。快感だけで繋ぎとめんのは、キツイぜ?」
「……だが、最初に失敗したら、ハードルを上げるどころか次がないかもしれないだろう?」
 気持ちいいと思ってもらえなければ、初めてが最後になってしまう可能性はゼロじゃない。それこそ男同士だ。失敗して義勇につらい思いをさせたり、呆れ返られたりしたら、無理にセックスしなくてもいいんじゃないかと義勇が言い出しても、杏寿郎には反論の術がない。
 だって、ことがことだけに、練習するわけにもいかないのだ。誰と? と聞かれれば、義勇とと答えるしかないが、それじゃ本末転倒もいいところだ。義勇はしたくないと思っているのに、義勇と練習してからって、なんだそれ。そもそも、どこまでが練習でどこからが本番なんだか、わかりゃしないではないか。
 呆れに半目となったなんとも言えぬ表情を浮かべた義勇の顔が脳裏にちらつき、杏寿郎は思わず顔をしかめた。見慣れた不死川や伊黒なら気にもならないが、義勇にあの目を向けられるのは、ちょっと勘弁願いたい。いたたまれなさ過ぎて、穴を掘って埋まりたくなりそうだ。そんな義勇もたぶんかわいいんだろうなとも思うけれども。
 それはともかくとして。
 練習なくして上達はありえないだろうが、ほかの誰かとなんて、考えるのも嫌だ。義勇以外にそういう意味で触れたり触れられたりするなど、練習だろうとなんだろうと、まっぴらごめんである。
 知らず眉尻を下げていかにも困り顔になった杏寿郎に、宇髄の笑みが苦笑へと変わった。