にゃんこなキミと、ワンコなおまえ5-1・2
「どこをどう弄ってやれば気持ちいいかなんて、おんなじ男なんだからわかるだろ? 嫌がることをしねぇでやりゃあ、それで充分。格好つけずに一所懸命抱いてやれよ。それが結局のとこ、一番気持ちいいんだからよ」
「一所懸命と言われても……。もちろん、真剣に挑むつもりでいるぞ! 義勇の気持ちをないがしろになどしないと誓う! だが、その……」
「失敗すんのは怖いか。ま、緊張しすぎて勃たねぇとか、男としちゃ沽券にかかわるわな。女相手じゃねぇから、挿れる場所を間違える心配だけはねぇだろうけど」
「……笑いごとではないのだが」
いつものようにケラケラと笑った宇髄は、けれどもすぐにまた、秀麗な顔をやわらかな笑みへと変えた。やさしいその笑みに、杏寿郎はなんとはなしきれいだなと思う。
世界中の誰もが美しいと評するに違いない顔立ちなのは、美醜にこだわりのない杏寿郎でも認識している。宇髄天元という男の外見は、恵まれた体躯同様に、巷の人々から頭二つは飛び抜けているのは間違いない。
つややかでいかにも指通りの良さそうな、銀の髪。威風堂々たる体躯。薄く笑んだ唇も、スッと通った鼻筋も、すべてのパーツが計算しつくされたかのような優美さで、紫がかった紅梅の瞳に見つめられれば、誇張でもなく世の女性という女性が頬を染めそうな男だ。ましてや、こんな慈しみのこもる笑みなど向けられてしまえば、たちまち恋に落ちてもおかしくないんだろう。
改めて、美しい男だなと、杏寿郎も繰り返し思う。けれど、どんなに宇髄が美しくとも、杏寿郎の胸にときめきは生まれない。
これが義勇なら、慈しむ微笑みだろうと呆れた苦笑だろうと、杏寿郎の目にはキラキラときらめいて見える。ひっつめただけのところどころ跳ねた髪さえ愛おしく、むくれて口をへの字に曲げた顔にすら心臓がドキドキと騒がしい鼓動を刻み、勝手に頬が熱くなったりもする。
たいそう美しく麗しい人であるのは義勇も同様だ。だが、杏寿郎の胸を騒がせるのは、義勇の容貌が優れているからではない。もちろん、かわいいとかきれいだとかいう一言で心が埋め尽くされて、ボゥっと見惚れてしまうことはある。だけどやっぱり、違うのだ。
考えるのも嫌だが、もしも義勇が顔に大きな傷を負うなり大病を患うなりして、誰もがギョッとする風貌になっても、きっと杏寿郎の胸は変わらずときめくだろう。年をとって、もしも義勇の生え際がだいぶ後退したり腹がプヨンと出っ張ったとしても、大好きだという気持ちは絶対に変わらない。九十歳になろうと、百歳になろうと、杏寿郎は義勇を抱きしめ口づけしたくなるだろう。
義勇と宇髄の違いは明白だ。杏寿郎の胸をしめる恋心。義勇だけにときめく胸の理由は、それしかない。義勇ならば、どんな姿になろうと、どんな表情をしようと、杏寿郎にとっては愛しいばかりだ。
いや、そうじゃない。ただ一度、杏寿郎は『そんな目で見ないでくれ』と義勇に叫びたくなったことがある。
怯えて蒼白となった義勇の顔。あのとき義勇の瞳は、まっすぐに杏寿郎に向けられていた。
嫌わないで。どうか、嫌いにならないで。そんな怯懦が杏寿郎の心の隅にこびりついたのは、そのときからだ。中学一年の、あれも七夕近くのことだった。
作品名:にゃんこなキミと、ワンコなおまえ5-1・2 作家名:オバ/OBA