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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ5-1・2

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 つきあうことになったと、宇髄らにすぐ報告はした。けれども、告白の言葉やそのときの義勇の反応などについては、一言だって口にした覚えはない。それはさすがに恥ずかしいというか、二人だけの秘密にしたかったので。
 義勇だって、宇髄たちにはちゃんと報告しようとの言葉には同意してくれたが、詳細については箝口令を敷いてきたぐらいだ。家族に告げるのはまだ恥ずかしいとも言うから、蔦子たちには恋人になった事自体、伝えてすらいない。ちなみにそれについては、杏寿郎だって異論はなかった。
 だって恋人になったと伝えてしまったら、どんな顔をして義勇の家に泊まりに行く許可をもらえばいいのだ。さすがに恥ずかしすぎるではないか。
 杏寿郎だってもう十七だ。清く正しい健全なおつきあいだけでは済まないところまできているから、こうして宇髄に相談してもいる。けれども家族は無理だ。家族に童貞卒業を知られるなど勘弁願いたい。帰宅したら赤飯が炊かれているなんて、いたたまれないことこの上ないではないか。
 まぁ、どうせうすうす察しはつくのだろうけれども、確認されなければ赤飯は回避できる。たぶん。

 それはともあれ、宇髄たちにだって、恋の進展について微に入り細に入り伝える気は、杏寿郎はもちろん、義勇にだってないだろう。告白の言葉も義勇の答えも、お互いの想い出のなかにだけあればいいのだ。
 とはいえ、それぐらい容易に想像がつくと笑われれば、それもそうかと納得せざるを得ないところである。なにしろ杏寿郎が宇髄と不死川に面識を持ったのは、義勇が小学校に入学した翌日で、宇髄たちはそれからずっと、杏寿郎がひとかけらも偽ることなく義勇大好きと笑うのを見てきているのだ。
 その月日たるや、じつに九年間。杏寿郎と義勇が出逢ってからともなれば、十二年間におよぶその年月。自覚のあるなしはともあれ、十二年間、杏寿郎と義勇はお互いに大好きと寄り添い合ってきたのだ。宇髄たちはそれを間近で見ている。遅いと呆れもするだろうし、じれったいと歯噛みもしてきたことだろう。
 杏寿郎が義勇に恋してきた月日は、義勇が杏寿郎への恋心を抱えてきた時間と同義だ。ちょうど四年前の今ごろ、義勇の瞳が一度きり宿した恐怖の色に、杏寿郎はずっと怯えてきたけれど、義勇が自分を好いてくれている事自体は疑ったことがない。俺が義勇を好きなだけじゃなく、義勇も俺のことが好き。無邪気な確信は、幼いころから変わりがないのだ。
 けれど、今は笑って好きだと言ってくれても、いつか怯えが好きを追い越して、嫌われる日がくるのかも。そんな不安をあの事件からずっと抱えたまま、杏寿郎は義勇のそばにいた。両想いだと信じているし知っているのに、どうしても不安を消せないまま、なにも変わらぬフリをして。
 あの日のことを家族よりも知る宇髄たちにしてみれば、杏寿郎と義勇の恋が停滞したままでいるのに、気をもんでもいたことだろう。不死川や宇髄には、罪悪感だってあったかもしれない。祝福はそれもあってのことだろうかと、杏寿郎こそが少しだけ申しわけなさを覚えなくもなかった。
 それはともあれ、報告したときだって、三人ともくっつくのが遅いと呆れていたぐらいだ。だから、バレていてもおかしくはないのだが、いくら気心知れた仲であろうと、隠していたいことだってある。

 だだ漏れだろうとは思っていたけれども、よもや二人きりの秘密まで、宇髄には丸見えなんだろうか。

 うろたえる杏寿郎に、宇髄は唇の前にスッと指を立てると、パチンと音がしそうなウィンクまでしてくる。
「内緒。ま、俺さまほどにもなりゃ、それぐらい派手にお見通しってことで」
「俺たちが秘密にしても宇髄にはバレるのに、宇髄は内緒にするなんて、なんだかちょっとズルいぞ」
 ちょっぴり拗ねたくなるが、素直な感嘆もまた、杏寿郎の胸には湧いた。
 杏寿郎はもともと自分の感情に素直なタチではあるけれども、宇髄にはとくにその傾向が顕著になる。それはたぶん、他人から見ればチャラいと言われがちな言動とは裏腹に、宇髄がいつも杏寿郎たちに対して真摯でいてくれるからなんだろう。
 面白がりのからかい口調であっても、宇髄は、けっして杏寿郎たちを傷つける言葉など口にしない。ためらいなく嘘だってつくし、隠しごとだって山ほどあるに違いなかった。だがそれでも、宇髄の本音はいつだってやさしいものだと、杏寿郎は知っている。
 だからこそ、警戒心の強い伊黒だって、宇髄に対しては信頼があらわだ。人を頼ることをよしとしない不死川ですら、兄貴ヅラすんなと文句を言いつつも、気づけば宇髄にはなんだかんだと相談したりもしているらしい。末っ子である義勇にいたっては、言わずもがな。長男力が高くとも同い年の不死川には、負けず嫌いが顔を出すこともあるようだが、宇髄には素直に甘えを見せる。
 杏寿郎はといえば、義勇に無条件に甘えられているのを見るたびちょっぴり悔しくて、だけど、軽く見えてそのじつどっしりとかまえて揺るがない宇髄に、憧れもするし尊敬もしている。
 華やかな容姿と誰もが認める才覚の裏で、血のにじむような努力をしようと、宇髄はけっして傍目にそれを見せない。杏寿郎たちにすら、最初のうちはそうだった。

「だが、宇髄が俺たちをしっかり見てくれているということでもあるからなっ。いつも相談に乗ってくれて感謝している! ありがとう、宇髄!」

 赤く染まった顔はそのままに、素直に笑ってみせた杏寿郎に、宇髄の目が虚をつかれたように見開かれ、ゆっくりと笑みにたわんでいった。
 小さく開かれた宇髄の唇は、言葉を紡ぐ前に笑みの形に閉じられた。なにを言おうとしたのか杏寿郎が疑問を覚えるより早く、宇髄の手がまたくしゃくしゃと杏寿郎の髪をなでてくる。

「……あのな、いいこと教えてやるよ。一生心に残るセックスってのは、快感とは関係ねぇ。失敗したっていいんだ。大好きでたまらなくて、抱き合わずにゃいられなくての失敗なら、気にする必要なんてねぇんだよ。快感に溺れるよりも、そういうセックスのほうが、ずっと気持ちよくいられる」
「ずっと?」
 どういうことだと小首をかしげた杏寿郎に、宇髄はふと真摯な顔をすると、杏寿郎の額と胸を、トントンッと指先で軽く突いてきた。
「男の快感なんざ、けっきょくのところ射精の一瞬で終わる。だけど、一生気持ちいいセックスもあるんだぜ? こことここが、ずっと気持ちいい」
 ポカンと口を開いた杏寿郎の胸に指先を当てたまま、宇髄はまた、穏やかな笑みを浮かべた。