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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ5-1・2

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◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 きっと昨夜のことも、杏寿郎は一生忘れないだろう。また一夜、義勇への愛が心の奥に積み重なり、愛しさがふくらんでいく。
 万が一義勇からとうとう別れを切り出され、フラレる日がきたとして。それでも杏寿郎が一生思い出すのは、義勇とのメイク・ラブだけだ。それを杏寿郎は確信している。
 作り上げた愛は胸からけっして消えやせず、思い返しては微笑み、杏寿郎は義勇が幸せな夜を過ごしていますようにと祈るだろう。
 もちろんのこと、そんな日が一生こないよう、杏寿郎が努力しつづけることは歴然としている。確信どころか揺るがぬ事実だ。
 どれだけ強がってみせたところで、本音は欲張りでわがままだ。ほかの誰かを見ないでと、癇症な子供のようにわめきたくなることだってある。だって好きなのだ。義勇だけに恋して、世界中の誰よりも一番、義勇を愛している。
 義勇と離れることなど耐えがたいし、それこそ一生、愛は変わらないと誓う。ほかの誰にも渡したくない。義勇が恋人の名を告げるときに、その唇が紡ぐのは、生涯『煉獄杏寿郎』であれと願っている。
 そうして、いつまでも愛おしさが胸にあふれるばかりな夜を、人生の終わりまで繰り返せたら。
 義勇に一生、あのときは大変だったなとかあれは駄目だろとか、思い出しては説教されて、でも幸せな夜だったと笑ってもらえたら。
 今も幸せ? とそのたび杏寿郎は聞いて、当たり前なこと聞くなと、おでこを指でピンッと弾かれる。そんな日々を、ずっと、一生。
 願いは、それだけ。
 義勇と一緒に、一生、幸せな恋を。
 ただ、それだけ。

 胸にあふれてやまぬ愛しさの源である人を、ゆるく腕に抱き込んで、杏寿郎は静かに長く幸せのため息をつく。
 室内は煌々とした照明で明るい。電気を消すことすら忘れて眠り込んでしまうほど、夢中になった夜だった。
 自分でもちょっと呆れるぐらい必死に求める腕を、義勇は拒むことなく与えるだけ与え返してくれた。いい子、かわいい、好きだよと、繰り返し甘くささやかれた義勇の声は、杏寿郎の耳の奥でまだこだましている。
 愛がまた積もる睦み合いが残したものは、狂おしいほどの愛しさと、甘い気だるさ。こんな朝を何度も繰り返したい。互いに枯れ果ててともに抱きしめ眠るだけになっても、この愛おしさと甘やかさだけは、一生変わらずに。跳ねてグシャグシャになった黒髪に、そっと鼻先をうずめて杏寿郎は願う。

 本当は、義勇が嫌がるなら一生セックスなどしなくてもよかった。ちょっぴり強がり込みの、けれど正真正銘掛け値なしの本音だ。
 杏寿郎は俺の恋人だと義勇が笑ってくれるなら、それだけでいい。告白を受け入れられたそのときに、思いはしたのだ。覚悟を決めてもいた。
 だって、義勇はきっと怖いはずだ。たとえ相手が杏寿郎だろうとも、男から性的に触れられることに、嫌悪がないわけがなかった。性的な目で見られることすら、恐怖がよみがえるに違いない。少なくとも杏寿郎はそう思っていた。だからこそ告白はセックスを匂わせた。断ったって誰も義勇を責めない理由を与えてやりたくて。いよいよ嫌われ避けられる覚悟を抱いて、義勇への好きはセックスだってしたい好きと、震えながら笑ってみせた。
 それでも遅いと笑って抱きしめてくれた義勇に、我慢なんてさせたくはない。盗聴器の一件がなくとも義勇と一線を越える日はずっと先だろうし、一生しなくてもかまわないとさえ、覚悟していたのだ。
 だから正直、義勇が去年の七夕前に送ってきたメッセージを見たときには、目を疑った。夢かもしれないと、自分の頬をつねりもした。

『今度は、いつまで待たせる気だ?』

 なんのことだろうと首をかしげ、問い返すメッセージを送る前にふたたび鳴った通知音。あらわれたメッセージは、『次の土曜日は、ちゃんと布団で寝ろ』だった。
 考え込んだのは十秒間。思い出したのは、前月に初めてした、舌を絡める深いキス。たちまち頭が沸騰して、あわてて電話すれば義勇は「週末以外は電話禁止」とだけ言って電話を切ってしまった。
 それきり、メッセージも既読がつくだけで返事はなかった。おやすみだけは、律儀に返してくれたけれども。
 たぶん、義勇も意を決して送信したものの、恥ずかしさに悶えていたんだろう。義勇のそんな様子を思い浮かべるだけで、杏寿郎の恥ずかしさもいや増したのは言うまでもなく。その夜は、気がつけば無意識に奇声めいた叫びを上げて畳を転がりまわっては、うるさいと父に怒鳴り込まれるのを繰り返したものだ。かえすがえすも不甲斐なし。

 その日はとにかくもうパニックで、事態がうまく飲み込めなかった。だっていつか義勇が抱かれることを許してくれたとしても、それはずっと先のことだと思っていたのだ。あまりにも突然に降って湧いたお許しに、落ち着きなど宇宙の彼方だ。
 義勇の狭い部屋には客用の布団などしまえない。だから泊まれば昔と同じように、一つの布団で眠ることになる。もう子供じゃないし、義勇は幼馴染なだけでなく恋人だ。一緒の布団に入って、なにもせずに眠るだけなんて、苦行以外のなにものでもない。
 だから義勇の部屋に泊まっても、杏寿郎は、義勇と一緒の布団では眠らずにいた。
 布団で寝ろという意味なんて、おそらくは一つきり。いや、絶対に一つ。勘違いなんかじゃない。舞い上がって、不安になって、一睡もできなかった。
 そうして翌日、杏寿郎は真っ赤な顔をして、宇髄の元を訪れた。あれからずっと、義勇に逢う日は必ず一緒に眠っている。昨夜と同じように。

 恋人になったのは四月。義勇が引っ越したのも。宇髄たちいつもの面々で訪れた義勇の新居。五月も同じメンバーで。泊まらず日帰りで、錆兎たちも含めて遊んでおしまい。一緒に行こうと誘った杏寿郎に、宇髄たちは呆れと心配を混ぜ込んだ視線を見交わしても、なにも言わずにいてくれた。
 六月には、さすがに一人で来たけれども、寝袋持参だ。だって布団がないだろうと、見え見えのごまかしを口にした杏寿郎に、義勇はなにを思っただろう。不甲斐ないなと、思い返すたび今も杏寿郎は、自嘲と悔しさのため息をつきそうになる。
 寝袋を貸してくれと頼んだときの不死川の顔は、呆れを通り越してなんだか哀れんでいるようだったなと、思い出した友人の顔に杏寿郎は目元だけで苦笑した。
 義勇の彼氏になりたい。初めて願ったのは小五の七夕だ。今もはっきりと覚えている。中学生になったら決意した七夕と同じ日に告白するのだと、無邪気に思い待ちわびていたその月日。断られるなどかけらも思い浮かぶことなく、義勇との関係に新しい名がつくのを信じていた。
 嫌わないで。そんな怯えが自分の胸に巣食うことなど、思いもせずに。

 エアコンが効いた室内も、二人分の体温で温もる布団のなかも、寒気などまるで感じさせない。なのに、ふと猗窩座との一件を思い出してしまったとたん、杏寿郎の背はゾクリと震えた。
 無意識に腕に力がこもる。義勇はちゃんとここにいると、確かめるように。すがるように。
「ん……」
 抱きしめる腕のなかで、義勇が身じろいだ。あ、と思ったときには、義勇の顔がゆるゆるとあげられて、ぼんやりとした目が杏寿郎に向けられる。