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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ5-1・2

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 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 杏寿郎が殊勝な顔をして宇髄のマンションを訪ねてきたのは、去年の七月だ。おりしも七夕の夜、遠距離恋愛中の恋人たちの橋渡しには出来すぎなぐらいのタイミングだった。
 とはいえ宇髄にしてみれば、やっとかよと思わなくもない。ちょっと呆れもしたし、なんだか少しばかり愉快にもなった。気負いまくった杏寿郎の顔はやたらと赤くて、数年前どこかの誰かさんがたずねてきたときと、まったく同じだったので。

 そのころにはもう誰かさん――義勇は、この町にはいなかった。生まれ故郷にある大学に進学し、四月からそちらで一人暮らしを始めていた。
 進学先を聞いたとき、周りは当然驚いたし、心配もした。宇髄だって同じことだ。
 だって、ほかの誰かならいざ知らず、義勇である。冨岡義勇といえば煉獄杏寿郎。煉獄杏寿郎といえば冨岡義勇。とにかく義勇と杏寿郎は二人でワンセットというのが、みなの共通認識なのだ。
 杏寿郎がいるこの町を離れ一人で暮らす義勇。そんなの想像するのさえむずかしい。当時の心情は心配というよりもむしろ、ありえないとの混乱のほうが大きかったかもしれない。
 不死川と義勇が別のクラスになるよりも、杏寿郎と離ればなれになることのほうが、はるかに信じがたかった。天変地異どころか地球が終わるんじゃないかと、大なり小なりみんな不安になるぐらいには。
 宇髄も馬鹿馬鹿しいと思いつつ、非常時用の防災セットなんぞをつい買ってしまっている。備えあれば憂いなしと言うし、まぁ、あって困るもんじゃないし。なんとなく自分に言い訳しながら、彼女たちのも含めて四人分。今のところ出番はない。ありがたいことだ。
 それはともあれ。

 なんでまた地方へ? との疑問については、義勇の姉である蔦子の結婚が決まったとの報告で、ひとまずみな納得した。嫁ぎ先は義勇たちの生まれ故郷であり、そこに義勇が希望する大学はあったのだ。
 義勇の筋金入りな姉さんっ子っぷりは、周知の事実である。大学生になるってのにまだ姉ちゃんと一緒にいたいのかよと、ちょっと呆れはしたけれども、義勇ならばありえる理由だ。なにしろ蔦子は義勇にとって唯一の肉親で親代わり、五歳のころから肩寄せあって暮らしてきたのだから。
 それでもまだ、疑問や不安は残った。
 だって義勇なのだ。繰り返すが杏寿郎と二人で一揃い。ペア。靴が二つそろって一足なように、義勇と杏寿郎は二人寄り添っているのが当然。そんな周囲の共通認識以上に、当の本人たちがそれを信じているだろう。
 なのに、いち早く義勇の決断を受け入れたのはほかの誰でもない、杏寿郎だった。
 おそらくは、いや、絶対に、やせ我慢だっただろうけれども。

 ともあれ、義勇は無事合格し、四月になり姉が嫁いだ翌日にはせわしなく引っ越していった。宇髄が運転する軽トラで、ワイワイと仲間みんなそろってだ。
 荷物なんてほとんどないと義勇は遠慮したが、それでも姉と一緒に使っていた洗濯機やテレビ、冷蔵庫など、業者を使わねば持っていけないものはそれなりにある。ダチから軽トラでも借りて俺らで運び込めばタダじゃねぇかとの宇髄の提案に、諸手《もろて》を挙げて賛成したのはもちろん杏寿郎だ。
 そして当然のごとく、杏寿郎が引っ越しを手伝いたい、義勇の住む場所をこの目で確かめたいとおねだりすれば、義勇が断るわけがない。
 結果、宇髄が運転する軽トラの助手席に伊黒、荷台に義勇と杏寿郎、そして不死川という、良い子は真似しちゃ駄目だぜなドライブとあいなった。
 言うまでもなく、所轄署の許可なしに軽トラの荷台に乗っていいのは一人だ。伊黒と不死川が一緒でなければ、定員ピッタリ。荷運びだって三人いれば人手は足りる。それでも晴天だというのに荷台をブルーシートで覆い、隠れるようにしてまで伊黒や不死川が同行したのは、杏寿郎のたっての頼みだったから……だけとも言いがたい。
 ようは、伊黒たちだって心配だったんだろう。ポヤポヤとマイペースで、仲間内では最年少の杏寿郎を差し置き末っ子扱いな義勇が。
 義勇が一人で暮らす場所をこの目でちゃんと確かめたいというのは、みな杏寿郎と大差がなかったのである。当然、宇髄も含めて。


 到着し、ブルーシートで覆った荷台から降りた義勇と杏寿郎は、めったにない体験に楽しげだったが、不死川はチベットスナギツネもかくやというありさまだった。
 人間の目って、こんなにも死ぬことあんだな。宇髄の感想もむべなるかな。半目開きの無の表情は、逃げ場のない走るトラックの荷台での苦行を如実に物語っていた。

「アイツラはイチャついてねぇと死ぬ生き物だから、しょうがねぇんだ……ピッタリくっついてねぇと干からびてミイラになるに違いねェ……」

 怒鳴る気力も残っていないのだろう。お疲れと苦笑しつつ肩を叩いた宇髄に返ってきた不死川の声は、いっそ宇宙の真理でも悟ったかのようだった。お気の毒さまとしか言いようがない。
 青く狭い密室。揺れて不安定な場所。それだけでもめったにないシチュエーションなうえ、恋人になりたてだというのに明日からは離ればなれな杏寿郎と義勇にとっては、風変わりなデート気分だったに違いない。不死川の存在をうっかり忘れるほどに。
 その場をこの目で見ずとも、宇髄だって簡単に光景を思い浮かべられる。あの二人のことだから、横並びでおとなしく座っているわけがない。
「ふん、どうせ奴らのことだ。揺れるからこっちになど言って、冨岡の背もたれよろしく杏寿郎が抱っこでもしたんだろう。それだけで終わっておけばいいものを、また冨岡が「これじゃ杏寿郎の顔が見えなくて寂しいな」だのなんだのとくだらんことを言い出したに違いない。そうなれば杏寿郎が「ならこうしよう」とかなんとか言って、向い合せで膝に冨岡を乗せるに決まっているからな。まったくくだらない、くだらない」
 壮絶なジャンケンの末に助手席を勝ち取った伊黒が、安堵に加え憐れみと苛立ちまで器用に混ぜた顔をして滔々と宣った状況は、まさしくそのとおりだったんだろう。不死川のこめかみにピキリと青筋が浮いた。
「デコくっつけあって、寂しいけど我慢するだのいい子だなだのと言いあった挙げ句に、デコだのほっぺただのにチューしあうってのも、追加しとけェ。気づかねぇフリするこっちの身にもなれってんだァ」
「チューって、おまえさん顔に似合わず派手にかわいい言い方すんのな」
「就也や弘のが移ったんだよっ! ドラマでそういうシーン出るたび、チューしたチューしたってうるせぇったらよォ……」
 げんなりとボヤく不死川の声を遮り、杏寿郎の快活な声がひびいた。
「待たせてすまない! 部屋は二階の真ん中だ、荷物を運び入れる前に掃除をしてしまおう!」
 階下や両隣への挨拶が済んだんだろう、振り向けば義勇と杏寿郎が近づいてくる。
「了解。あ、煉獄。おまえはレンジや洗濯機に触んじゃねぇぞ。派手に壊しそうだからな」
 ビシリと指差して言った宇髄に、杏寿郎の眉根がグッと寄せられた。いかにも重々しげにうなずき、わかったと答えるまで、沈黙は三秒間。