二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

にゃんこなキミと、ワンコなおまえ5-1・2

INDEX|4ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

 運ぶだけで壊れると思われているのは、どうにも腑に落ちん。だが、もし本当に壊れたら義勇を困らせてしまう。力仕事の役に立てないのは不甲斐ないかぎりだが、洗濯機が壊れ義勇がコインランドリーへ行く羽目になるよりはマシだ。義勇が洗濯したシャツやら下着がグルグル回るのを、不埒な目で見る輩がいないともかぎらん。それは阻止せねば! 無念だが致し方ないな。

 三秒の間に杏寿郎の頭を巡ったのは、こんなところだろう。
 杏寿郎のいかにも無念そうな苦悩顔に、不死川だけでなく、遠距離恋愛開始前日の恋人同士がイチャつく空間に同席するという窮地を脱したはずの伊黒まで、半目開きの虚無顔になっている。伊黒と不死川にも杏寿郎の思考は筒抜けだと、二人の表情が物語っていた。砂を吐き出さないだけマシといった風情だ。
 一方で、無自覚にはた迷惑なイチャつきカップルの片割れである義勇はといえば、不死川たちの虚脱っぷりなどまるで頓着することなく、黙々と荷台から掃除道具をおろしていた。マイペースにもほどがある。

 まったくもって、これだからコイツラとのつきあいはやめられない。派手におもしれぇったらありゃしねぇ。

 吹き出しそうになるのをどうにかこらえた宇髄は、掃除道具を手にさっさと一人階段へ向かう義勇を横目で見送りつつ、杏寿郎にさり気なく近づいた。肩を抱き、小さな声で話しかける。
「掃除しながらご依頼の件に取りかかるからよ、冨岡と二人でコンビニでも行ってこい。ホレ、引越し祝いの蕎麦代な。ここは全員分、俺様が派手に奢ってやんよ」
 取り出した万札を一枚振って言えば、不死川と伊黒の目に光が戻った。
「うむ。義勇が知ればきっと、そこまで心配がられるのかと落ち込むだろうしな。面倒をかけるが、よろしく頼む。だが、奢りは無用だ! 頼んだのは俺だからな! その金はしまってくれ、俺がみんなの分も出そう!」
 真剣な顔から一転、パッと笑顔になって言う杏寿郎に、宇髄は軽く肩をすくめた。
 こういうところが、杏寿郎と義勇はよく似ている。というよりも、金銭面にキッチリしている義勇の影響であるのは間違いない。
「まぁ、心配しすぎって気はすっけどな。オラ、遠慮せず受け取っとけェ。テメェはどうせこれから、何度もこっちに来るつもりなんだろうがァ。無駄遣いしてんじゃねぇよ、高校生。宇髄、あとで俺と割り勘なァ」
「……ふん。ここでグズグズしていたら、いくら薄らぼんやりの冨岡でも怪しむかもしれないぞ。俺たちが割り勘したあとの、百円単位の端数をおまえが持つということで納得しろ、杏寿郎。宇髄、金は帰ってからでいいな?」
「だとよ。ホレ、冨岡が呼びに来ちまうぞ。あ、飲みもんも頼まぁ。今日はけっこう暑いし、多めにな」
 言いながらひらひらと紙幣を振り、宇髄はニヤリと杏寿郎に笑いかけた。
 杏寿郎の顔はなんとも言えず複雑そうだ。それでも不死川や伊黒への反論は見つからなかったらしい。
 心なし未練ありげにうなずく杏寿郎は、財布に札をしまう手付きもなんとなく落ち込んでいるように見える。思考を切り替えるのが早い杏寿郎にしてはめずらしいこともあるものだ。宇髄たちは無言のまま視線を見交わした。
 思わずまじまじと杏寿郎を見つめた三人の目が、キョトンとしているのに気づいたのだろう。杏寿郎はとたんに「あ、いや、そのっ」と言いよどみながら頬を赤らめた。
「俺ができる家事は掃除くらいだからな。荷物も運べないとなると、義勇の手伝いができるのは掃除だけなので……その……。いやっ、すまん! こうしていても時間がすぎるばかりだ、ありがたく甘えることにしよう!」
 チベスナふたたびな不死川と伊黒を後目《しりめ》に、宇髄はとうとうブファッと吹き出した。
 一瞬ポカンとした杏寿郎の顔が、さすがにこれは子供じみているとでも思ったのか、ますます赤くなる。宇髄は心底愉快になって、ケラケラと笑った。

 本当に、この純粋さは見ていて飽きやしない。杏寿郎は、子供と大人の端境期に特有の無闇矢鱈な反抗心すら無縁なまま、その気性はどこまでもまっすぐだ。天衣無縫な少年の一途な恋は、ちょっぴりむず痒くもたいへん微笑ましく、ほんの少しうらやましい。

「はいはい、そりゃ派手に大事だわ。んじゃ、掃除はとりあえずみんなでやるか。おまえさんが手伝えねぇ荷運びのうちに、買い物に行きゃあいいだろ。俺様と不死川で大物運んでるあいだに、伊黒が調べる。オーケー?」
 杏寿郎の肩を抱いたまま宇髄が洒脱な仕草で視線をやれば、不死川はひょいと肩をすくめ、伊黒も小さくフンと鼻を鳴らしうなずいた。
「ま、妥当な線だなァ」
「まったく、しょうもないことで時間を無駄にするんじゃない。サッサと手伝いに行け」
 顔の熱が下がらぬ杏寿郎が、少しばかり恥ずかしげながらも満面の笑みでうなずいたと同時に、タイミングよく階上から義勇が顔をのぞかせた。
「杏寿郎、俺が窓を拭くから、畳拭いてくれ」
「わかった! 今行く!」
 タッと駆けていく杏寿郎の後ろ姿は、まるでご主人さまの呼び声にブンブンとしっぽを振る犬のようだ。置いてけぼりとなった宇髄たちは、なんとなく顔を見合わせ、誰からともなく小さく笑った。


 義勇の新居はなんと今どきめずらしい四畳半一間の、いかにも古いアパートだ。しかも、もとは六畳風呂なしだった部屋に無理やりユニットバスをぶちこんでリフォームしたという、奇妙な作りである。
 それでも義勇は、室内に洗濯機置き場があるし一口の電熱コンロとはいえ台所だってあると、なんだか自慢げだった。
「台所はともかく、洗濯機置き場のせいでさらに狭くなってんじゃねぇか。威張るとこじゃねぇだろうがァ」
 不死川のツッコミはもっともだ。
 だが、聞けば賃料は管理費込みで月一万千円というから、狭さも使い勝手の悪さもしかたないと思わざるを得ない。どこで探したんだよ、ある意味希少価値だろと、宇髄までもがちょっぴり遠い目をしてしまうありさまだ。
 杏寿郎だけが「駅からそれほど離れていないし、風呂があるのはありがたいな、義勇!」と素直に寿ぎ、伊黒に頭痛を与えていた。
 いやいや、雨戸だって今どき木製だし屋根はトタンだし、昭和にタイムスリップしたかと思ったわ。懐メロよろしく赤い手ぬぐい巻いて横丁の風呂屋に行くのをまぬがれただけマシって状況じゃねぇか。
 宇髄たちのそんな感想など気づきもせず、静かでいいところだと笑う杏寿郎は、本気で喜んでいるんだろう。理由はたぶん、いや絶対に、義勇一人で銭湯通いさせずに済むからだ。
 嫌でもわかってしまう不死川たちが、チベットスナギツネな顔で沈黙を貫いたのは言わずもがな。いやもう本当に飽きねぇわと、宇髄が笑いをこらえたのもまた、言うまでもない。

 ともあれ、狭い四畳半に男五人も詰め込めば、掃除もなにもない。掃除は新米カップルと伊黒に任せ――今度も壮絶なジャンケンの末に「なぜ俺はパーなど出したんだっ!」との盛大な後悔つきだったが――宇髄と不死川は軽トラの荷を解く係にまわった。伊黒のMPが0になる前に掃除が終わりゃいいけどと、宇髄はクツクツと楽しげに笑う。