にゃんこなキミと、ワンコなおまえ5-1・2
「おっと、もうこんな時間か。不死川はこれから伊黒んとこだろ、荷物持ちきれっか? 俺のほうはまだ時間あっから、家まで荷物持ち手伝ってもいいぜ?」
通りすがりに電光掲示板の時刻を目にした宇髄がたずねれば、不死川の眉がちょっぴり申しわけなさげに下がった。
「あー、そりゃ助かるわ。この量じゃ、ケーキ崩しそうだしなァ。玄弥はともかく、就也たちへのプレゼントはどこかに隠しとかなきゃなんねぇから、面倒なんだよなァ」
「サンタさんも大変だねぇ。了解。んじゃ、急ごうぜ。ついでに伊黒の照れ顔も派手に拝んでこようかね」
ニヤニヤと人の悪い笑みを宇髄が浮かべると、不死川も苦笑する。
「デートの一つも誘えてりゃいいけどなァ。あいつがあそこまで初心たァ、意外だったぜ」
「そりゃおまえさんもだろ。で? どうよ、あのべっぴんさんとは。クリスマスなんざ、誘う絶好のチャンスだったろ」
「俺のこたぁどうでもいいだろうがっ! ……毎年、クリスマスは妹たちとパーティーだとよ。すっげぇうれしそうだったわ。あんな顔されて誘えっかよ」
「そりゃ、ご愁傷さまで。ま、おまえさんもチビちゃんたちのサンタでいなきゃなんねぇしな、派手にがんばれや」
不死川の顔が険悪なまでにしかめられ、通行人がまた離れていった。まるで動じることなくニヤニヤと笑っていた宇髄だが、その笑みも不意に不死川が人の悪い笑みとともに言った一言で、少しばかりたじろいだ。
「テメェもなァ。彼女だけでなく煉獄だの伊黒だの、サンタになってやんなきゃいけねぇやつが多くてご苦労さんなこった。どうせケーキ屋行く前にドラッグストア寄るんだろ。ドリンク剤とカイロに、風邪薬もついでに用意しとくかァ? 伊黒は疲れ溜まると風邪ひきやすくなっからな。陣中見舞いついでの荷物持ちよろくしくなァ」
バレてる。本当に、こいつらには隠せやしない。
「……ま、秋からずっと忙しかったみたいだしな。アイツが風邪引くと、おっかさんがまた仕事なんてやめて家に戻ってくれのなんのと泣くだろうしよ。コスパのいい取引先が減っちまわぁ」
「へぇへぇ、そういうことにしといてやらァ」
クツクツと笑う不死川に、宇髄は降参と肩をすくめてみせた。
クリスマスプレゼントの交換なんて、仲間内ではわざわざしない。贈りあうのは杏寿郎と義勇だけだ。それでも、形にならぬ贈り物はみんないくらでも贈り贈られてきた。杏寿郎のクリスマスデートのための特訓、伊黒への陣中見舞い、宇髄が本当は寂しがり屋だと見抜いているだろう不死川が、こうして誘いをかけてくるのも、みんなみんな大事な人に贈るプレゼントだ。
やっぱり、離れられねぇな。宇髄はひっそりと笑う。
この街とも、大切な仲間とも、離れたくないから、ここにいる。みんなが広い世界に飛び立とうとも、宇髄はずっと、ここにいる。
どこからか聞こえてくる『きよしこの夜』は、歌い手が早くも出来上がっているのか、だいぶ調子っ外れだ。ちょっと苦笑して、宇髄も声には出さずに小さく口ずさむ。
きよしこの夜、他愛のない会話と、他意のない笑顔。今宵はクリスマスイブ。恋であっても家族愛でも、大事な人と過ごせたらきっと幸せな、そんな夜。
あいつらも笑いあってりゃいいな。ま、心配いらねぇだろうけど。
両手に荷物を抱えて歩く不死川と宇髄の顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
作品名:にゃんこなキミと、ワンコなおまえ5-1・2 作家名:オバ/OBA