トキトキメキメキ
大園桃子は、問題を聞き逃さぬように、耳を清ます。不正が無いか、一応【邪眼】でスフィンクスの心の色も覗いていた。
『朝は四本足……。昼は二本足……。夕方は三本足……。この生き物は、一体、何ですか?』
スフィンクスは微笑みながら、上品に前足を組んで、翼を畳んだ……。
「あ~始まった始まった!」蓮加は慌てる。「なんてった?」
「うわもう、答えろって事なの!」山下美月は天を見上げる。「マスターっ!!」
――●▲■旅の男はたいそう焦った■▲●――
「こっちも焦ってるマスターっ!!」山下美月はすくっと立ち上がる。「答え答え!」
「マスター早く思い出してっ!」蓮加は嫌な予感がしていた。急いで立ち上がり、警戒して構える。「たぶんスフィンクス・ルールだと、うちらの攻撃じゃ一生勝てないから、この謎かけで間違えたら即死もあるかもしれんマスターっ‼‼」
――●▲■男は答える。「答えが全く分からない。そんな怪物いるわけないだろう」その途端、スフィンクスは男に飛び掛かり……、そして、むしゃむしゃと、男を頭から食らってしまいました、とさ■▲●――
「とさじゃねえーーっ!!」蓮加は興奮して地団太(じだんだ)を踏んだ。「これで死んだらマジでがちであんた恨むぞっ!!」
――●▲■えぇっとねえ……。しばらくすると、また旅人がやってくるんだ。スフィンクスは再び旅人の前に立ちはだかり、同じ謎かけを繰り返した■▲●――
スフィンクスは再び四人のヒーロー達に問いかける。
『いいですか、いきますよ? ――朝は四本足……。昼は二本足……。夕方は三本足……。この生き物は、一体、なんですか?』
「ねえマスターっ!!」蓮加は叫んだ。「マジで嫌な予感がするのっ!! 即死フラグあるかもっ!!」
――●▲■スフィンクスは謎かけに答えられぬ者を片っ端から食い殺していった……。スフィンクスがピキオン山で旅人を食い殺しているという噂は、瞬く間に広がった。このままでは、恐ろしくてピキオン山を通れませんという民衆の声に、「私が退治してきましょう」と名乗りを上げたのは、オイディプスという若者でした■▲●――
「オイディプス!!」蓮加はスフィンクスに叫んだ。
スフィンクスは喉(のど)を唸らせながら、凄まじい表情で蓮加を威嚇(いかく)する。
『それは私への侮辱ですか? それとも、それがあなた方の出した答えですか?』
「もう、ちょい! 待ってて」蓮加は片手をスフィンクスに向けて言った。
山下美月は腕組みをして考え耽っている。
四人のヒーロー達は、脳裏に響く声の主の言葉に意識を集中させた――。
――●▲■オイディプスは山道を上り始めた。「そこの者、待ちなさい」予想通り、スフィンクスが現れ、オイディプスに謎かけを挑んでくる。「朝は三本足、昼は二本足、夜は三本足、さあ、この生き物はなんでしょう?」オイディプスはしばらく考えた後で■▲●――
山下美月は閃(ひらめ)いたように短く跳び上がり、スフィンクスにとびきりの笑みを浮かべた。
「わかった! 答えは、人間だ!!」
三人は一斉に山下美月を見つめる……。
山下美月はスフィンクスに素直な笑みを浮かべる。
「朝は、つまりぃ……、赤ん坊の時は、四つん這いでハイハイで進むから、四本足!」
スフィンクスは、その表情をじんわりと無に帰して、山下美月をじろりと見下ろす――。
山下美月は笑みを浮かべながら説明を続ける。
「昼は、つまり、歩けるようになった大人だから、二本足! 夕方、つまり年を取って、足腰が弱くなると、杖を突くから、三本足!! でしょう、スフィンクスっ‼‼」
四人はスフィンクスの反応をじっと見つめる――。これが正解で無ければ、命を落とすかもしれないゲームである為、皆が命懸けでスフィンクスの一挙一動を見つめていた。
スフィンクスは、歓喜と優越に満ち足る表情で微笑んだ。
『お利巧(りこう)さん。正解です………』
――●▲■己の智識に自惚(うぬぼ)れていたスフィンクスは、そのまま頭から崖に飛び込み、自害したという伝説だねえ。聞いてた? 諸君■▲●――
スフィンクスは嬉しそうに、微笑みながら、光の粒子に包み込まれて、この世界からゆっくりとその姿を消していった――。
赤かった世界が、元の通常時の彩(いろ)を取り戻した――。
町屋駅を通り越してだいぶ経つ頃、低い山中の森林の中に赤い世界の中心部を発見したBチーム、Cチーム、Dチームであったが、それは悍(おぞ)ましい瘴気(しょうき)が消え去った事でもわかるように、視覚的にも、赤い世界が消えた事で任務がすでに完了とされた事がわかった。
荒川自然公園の白鳥の池の前にて、仲間同士であるヒーロー達が勢揃いした。
「与田……。よ~だ」山下美月は与田祐希を見下ろして、苦笑する。「起きろ」
「ん、……んんん」与田祐希は、草地にあぐらをかいたままで、眼を力いっぱいに瞑って背伸びをした。「あーー……、スフィンクス、終わったと?」
「与田ちゃん、よっく寝るわ、マジで」蓮加は苦笑した。「度胸がもう最強……」
「あ、どうも……、ふふ。大園です」
「梅澤です、どうも。初めまして、これからよろしくね!」
蓮加達は軽い挨拶を済ましながら、変身した世界のままで、近くのセブンイレブンを探して歩く事にした。
7
粉雪の吹雪く真冬の一夜、ヒーロー達は岩本蓮加の自宅マンションの一室に集結を要していた。集合を書けたのは声の主である。
蓮加はリモコンでテレビのスイッチをオフにして、ソファに浅く座り直してから、真顔で天井を見上げた。
「なんなん、急に……。ねえマスター、そろそろしゃべろし……」
皆が集結してから小1時間、声の主はまだ言葉を発していなかった。
ベッドのある寝室で、山下美月はにこやかな笑みを浮かべて、微笑む伊藤理々杏と肩を組んだ。
「ポケモンなら、技、何でも使えるの?」
「う~ん、まあね……。でもぉ、技っていっても、基本僕が覚えてないといざって時にふっとわいてこないから……。ポケモンマスターでもいれば違うんだろうけど。その場合、僕がポケモンだよね」
「私なんか、火じゃんかあ?」山下美月はたこ焼きを頬張りながら、伊藤理々杏の口にもたこ焼きを入れようとする。「あれ、私もあっついかんね? いっつもあっついの我慢して火ぃ出してるから、髪の毛痛んじゃってさあ……」
「美月つぅよいよね? わかった、わかった食ぁべるよ。あぁん」伊藤理々杏はたこ焼きをはふはふする。「与田の雷か、あっく……。美月の火が最強だと思う、僕個人的には……。まあ、あっくい……。僕にも必殺技、てやつがまだまだ隠されてるんだけどね」
「なに、10万ボルトじゃないの必殺技」山下美月はくすっと笑った。
「あ、あ~馬鹿にしてるな!」伊藤理々杏は興奮する。「すんっごいの、あるんだからな~」
部屋の戸を開いたままで、中村麗乃は山下美月と伊藤理々杏のところで脚を止め、二人に熱いお茶を差し出した。
「ねえ、ていうかさ、この前の秘匿定多数? の病原菌、意外と強かったよね?」
「ひとく、じゃのうて、不特定多数、だわ」山下美月は笑う。「あお茶、いただきま~す」