トキトキメキメキ
――●▲■室町時代の書物、「御伽草子(おとぎぞうし)」に登場する伝説の鬼だよ。日本の歴史において「鬼」は悪しき者の象徴とされているけどね、その鬼の頂点に君臨(くんりん)していたとされる酒呑童子は、日本の妖怪歴史上最強の鬼とされているね■▲●――
「最強かぁ……」与田祐希は、そう呟いて肉を口の中に入れた。
「うちらも、けっこうよ?」
リビングのソファから久保史緒里が言った。
「けっこう、強いの倒してきたよ?」
梅澤美波は、「確かに…」と頷いた。その顔は雄志(ゆうし)に満ち溢れている。
キッチンテーブルから佐藤楓が言う。
「向こうからしたら、こっちの方が怖いんじゃない? だってうちら…、もう六週間もヒーローやってんだよ?」
吉田綾乃クリスティーは気がついたかのように、天井に向かってきく。
「あのう、マスター? うちらって、タメなの? あの、同い年の集まりなんですか? ちなみに、私は今、本当の世界では、小3なんだけど……」
連加はけけっと笑う。「蓮加小2……。ガキの集まりだよほんと」
阪口珠美は微妙ににやけたままで言う。「珠美は小3です。運動神経が、ほんと中ぐらいなんで、ヒーローになってもつまらない人間です……」
与田祐希は呟く。「祐希、小1だ……」
山下美月は囁く。「私、確か小1だわ……。なんか、本当の世界の事忘れがちだよね、んふ」
――●▲■うん。君達はね、夢の契約を結んだ時は、皆がばらばらの時系列世界に存在していたんだけどね、この世界に召喚された時代は同じなんだよ。つまり、ほんとは何歳? に関わらず、年上もいれば、年下もいるよ。夢の契約をしたそれぞれの時代は、異なる、という事だね。君達は、時空を超えて出逢いを果たした、選ばれし勇士達だ!! 夢を守り抜けたなら、現実世界で出逢う事は絶対の約束になるね。その時、本当の互いの年齢がわかるよ■▲●――
梅澤美波は呟く。「私、小3だ……」
久保史緒里はくすくすと微笑んで、梅澤美波に手を伸ばした。「うふ一緒。私も小3なの……。下校中だった、夢の契約したの」
阪口珠美は呟く。「小3だ、私も……」
伊藤理々杏は囁く。
「僕は、小2だけど、こっちにくるまでは、僕自分のこと、私、て呼んでたのに……。変だよね? なんっか、僕っ子になっちゃった……」
中村麗乃は伊藤理々杏に感心した。
「へえほ~んと、僕っ子じゃなかったんだ? ちなみに、私も小2……」
キッチンの向井葉月は、冷蔵庫へと向かいながら呟く。
「え私小4だわ……」
――●▲■まあね、みんな違う時代から召喚されてるし、ここではみんなが十代だ。コスチュームの制服も似合ってるよ■▲●――
大園桃子は天井にきく。
「小5の私に、勝てる相手ですかね……、その、シュテンドウジ、て鬼……」
――●▲■勝てるさ! 酒呑童子には、伝説の武将、源頼光(みなもとのよりみつ)による討伐伝説が存在するんだ。平安時代の中期、暴風雨といった悪天候の日に多くの男女が行方不明になるという怪奇事件が相次いだ……。これを恐れた時の権力者は、平安一の陰陽師(おんみょうじ)、安倍晴明(あべのせいめい)に対し、原因を探るよう命じた。晴明は、丹波国大江山(たんばのくにおおえやま)に住まう鬼神、酒呑童子の仕業だと告げ、源頼光に討伐を依頼した。頼光は、大江山の奥で酒呑童子を見つけると、毒の酒で酒呑童子の身体の自由を奪い、そのうちに首を切り落とした……。
しかし、酒呑童子は首だけになっても、宙を舞って頼光に襲いかかり、彼の眼球を噛み千切った後、やがて力尽きたというよ……。
以来、頼光の刀には、童子切安綱(どうじぎりやすつな)という異名がつき、日本の刀の中でも最高傑作と呼ぶに相応(ふさわ)しい五つの刀、天下五剣(てんがごけん)の一つに数えられてる■▲●――
梅澤美波は、ソファに座る、蓮加、阪口珠美、吉田綾乃クリスティー、久保史緒里の顔を見回す。
梅澤美波は、笑みを浮かべた。
「やるしかないみたいだね……」
久保史緒里はガッツポーズをとって、微笑みを浮かべる。
「やるだけやってきた人生よ……。まだまだ人生はこれからだけど、きっとそうだと思う、私の人生って……。やるだけやって、ダメなら……。またやってやるだけよ」
「やるしか……」阪口珠美は真顔で梅澤美波と久保史緒里に頷いた。「勝てなきゃ死ぬんだから」
蓮加はテーブルの上からデザート・イーグルを手に取り、それを摩(さす)りながら、光沢を作る拳銃を見下ろした。
「凶悪な鬼共を引き連れてるって、言ったよね……。そいつらは、私と吉田でなんとかするよ。引き受けるよね、吉田……」
「あい」吉田綾乃クリスティーは微笑んだ。「ガトリングで一掃しますよ~」
ソファからすぐそばの、カーペットの上に座る大園桃子は、不安そうに天井を見上げる。
「え、待って下さい……。あと、三人、て言いましたよねえ? 三人の悪と闘えば、夢の任務は完了だって事。ですか? じゃあシュテンドウジの次は、何が相手なの?」
ソファの吉田綾乃クリスティー、久保史緒里、梅澤美波は天井を見上げる。
蓮加も、耳を清まして膝のデザート・イーグルを見つめた……。
――●▲■大妖怪・酒呑童子の後……。すなわち、その次の相手となる悪は……、「七つの大罪」と呼ばれ、嫉妬の悪としても恐れられる【レビィアタン】だ……。レビィアタン、別名リバイアサン……、海に住まう巨大な蛇の怪物で、神話では、不死身の「地上最強の獣」とされている■▲●――
8
「海ぃ‼?」久保史緒里は天井に眼を見開いた。
「海って、泳ぎながら戦えっててか?」梅澤美波は天井に戸惑った顔を向ける。
「無理無理ぃ、ガトリング二個抱えながらじゃ1トン以上あるんだよ、溺れちゃうってえ絶対!」吉田綾乃クリスティーは天井に首を振った。
蓮加は静かに呟く。
「どんな怪物?」
――●▲■うむ。レヴィアタン、神が創造した大海蛇の事だね。キリスト教の、主にカトリック教会における「七つの大罪」においては、「嫉妬」を司る悪魔とされているね。まあ、怪物なら大怪物、悪魔なら大悪魔だよね■▲●――
「だよねって……」蓮加は苦笑する。「撃つぞこの野郎」
キッチンテーブルで与田祐希が天井を見上げた。
「え、ほんとに、海でやんの?」
――●▲■出現ポイントはまだわからないんだけど、たぶん海じゃないかな。海洋生物の伝説だからね、レヴィアタンって。君らの任されたポイントは日本、特に東京都だから、東京湾がそうじゃないかとマスター協会では疑ってる■▲●――
「協会あんのかーい」蓮加は一応突っ込んでおいた。「いっぱいいんのかいーいマスター」
吉田綾乃クリスティーは笑った。
寝室で、山下美月は天井を見上げる。
「海でどうやって戦うの? 私の火も消えちゃうだろうし……」
伊藤理々杏も天井を見上げる。
「泳げるけど、泳ぎながら戦うって、それは、無理じゃない?」