トキトキメキメキ
「お」梅澤美波は笑みを浮かべて天井を見上げる。「たった一人で1000人と闘ったスキルか」
吉田綾乃クリスティーも真剣に天井を見上げる。
「1000人キルの能力……」
蓮加はデザート・イーグルに視線を落としている。
――●▲■それは【射撃(ヒット・ザ・マーク)】。蓮加君は、ヴァロと呼ばれる能力者だ。あとは超絶射撃能力を可能とさせる【超身体能力】の保持者でもある。【射撃(ヒット・ザ・マーク)】は、様々な拳銃を具現化、様々な銃弾を具現化、超射撃能力、と、そんな感じだね■▲●――
「え……」吉田綾乃クリスティーは呆然とする。
「それだけ?」久保史緒里は、蓮加を見つめる。「それで1000人を?」
「それだけの能力で……」梅澤美波は、驚愕しながら蓮加の事を一瞥した。「どんなヒットマンだよ……」
阪口珠美はにやっと笑った。
「でも、酒呑童子はなんとか、苦戦しても戦えるとして、海の化け物は、戦い様がないような気が……」
蓮加は天井を見上げる。
「マスター……、レヴィアタンについて、続き話して……」
――●▲■うむ。創世記第一章に見られる一文にこうある。神は海の大いなる獣と、水に群がる全ての動く生き物とを、種類に従(したが)って創造し、また翼のある全ての鳥を、種類に従って創造された。神はみて、良しとされた……。この旧約聖書の「創世記」を紐解いていくと、五日目に海の怪物が創造された事が語られているんだ。だけどね、古い時代の伝統的な考え方では、天地創造以前から混沌とした原初の海が存在していて、海の怪物レビィアタンを筆頭とする「敵対者」が鎮圧(ちんあつ)されたとも考えられていたんだ■▲●――
「結局は神様的にも悪と見做(みな)したわけね」梅澤美波は天井に言った。
――●▲■神は自らが創造した大地では「救い」という御業(みわざ)を示したが、海においては「破壊」という業を示したとされる……。旧約聖書の「ヨブ記」においては、ウツの住人ヨブとその友人達の会話の中に、神に退治されたレビィアタンの名前が登場してる。
更に「詩篇(しへん)」では「あなたは御力(みちから)をもって海を分かち、水の上の蛇の頭を砕かれた。あなたはレビヤタンの頭を砕き、これを野の獣に与えて餌食(えじき)とされた」という一文をみる事ができる。
レビィアタンの名前は「ねじれた」「渦を巻いた」という意味のヘブライ語が語源で、ウガリット神話ではロタンとされる。
大地を取り巻く荒れ狂う海そのものであり、古代メソポタミア神話に登場する、七つの頭を持った大蛇、ムシュマッヘなどの、蛇形の怪物共が原型とされるけどね、のちには、鯨(くじら)の事だと考えられるようになったんだ。古代の鯨メルビレイなどがそれにあたるね。
しかし、「ヨブ記」によれば、レビィアタンはその巨大さゆえに、海を泳ぐ時には波が逆巻き、口には鋭く巨大な歯が生え、炎を吹いて、身体全体に在る強固な鱗はあらゆる武器を跳ね返すと表現されている■▲●――
「銃弾、通るのかな……」蓮加は天井を見上げて呟いた。
「ガトリングなら一網打尽でしょ?」吉田綾乃クリスティーは蓮加に微笑んだ。「弾なに使ってんの?」
「普段はマグナム」蓮加は無表情で答えた。にやける。「そっちは?」
「鉛(なまり)よ、鉛……、へっへ」吉田綾乃クリスティーはほくそ笑む。「鉛がいっちばん痛いからねぇ~……、身体ん中で破裂して、変形するんだから、筋肉組織も裂けるだわさ……。ううっわ言ってて怖くなってきた」
「はっはっは、馬鹿じゃん」蓮加は無邪気に笑った。
――●▲■この事から、エジプトで神として崇拝(すうはい)されたナイル川の鰐(わに)、クロコダイルがレビィアタンの原型であるとされる事もある。レビィアタンは雌(めす)の怪物であり、つがいとなる雄(おす)の怪物がいると考えられた。ある説によれば、そのつがいとは、雄のレビアタンであり、この怪物がこれ以上増えては困ると考えた神によって雄だけが殺され、雌だけが残ったというよ。
また、旧約偽典の「第一エノク書」では、海に住む雌のレビィアタンのつがいは、砂漠に住むベヒモスだとされているね。
これらは天地創造の五日目に作り、二頭一対(にとういっつい)を為(な)すとされ、世界の終末には互いが殺し合い、残った方が、生き残った人間達の食べ物として供される事になってるみたいだ。
レビィアタンが海、ベヒモスが陸を意味するとされるけどね、これに加えて、空を意味するジズという怪物もいて、三頭一対(さんとういっつい)を為す場合もある■▲●――
向井葉月は恐る恐る、与田祐希と佐藤楓の顔を見つめる。
「ねえねえ、天地創造の五日目に作られた生き物って……、ヤバいんじゃないの? 人間より先に神様に作られてんじゃんか……」
「そうなん?」与田祐希は眠そうに瞬(まばた)きした。
「てか海でどう叩く? あ間違えた、どう戦う? なんか強気の人みたいになっちゃった」佐藤楓は苦笑した。「どうやって戦う?」
与田祐希と向井葉月は同時に、「さあ……」と首を傾げた。
――●▲■中世以降になると、レヴィアタンは悪魔とみられるのが一般化してくるんだ。悪魔の階級を発表した事でも知られる17世紀のフランスのエクソシスト、セバスチャン・ミカエリスは「驚嘆(きょうたん)すべき憑依(ひょうい)の物語」において、レビィアタンは、ルシフェルやベルゼブブ、アスモデウスと共に、第一階級の堕天使としている。
そして、ドイツのペーター・ビンスフェルトは、七つの大罪のうち、嫉妬(しっと)をレビィアタンに割り当てた。更に更に、「地獄の辞典」で知られるコラン・ド・プランシーは、レビィアタンを地獄の海軍大提督とした……。
こうしてレビィアタンは、水から生まれた悪魔とされ、元のレビィアタンがどんな攻撃も通さないように、どんな悪魔祓(あくまばら)いも通用しない驚異の悪魔とされていった……。
人に憑(と)りつく事もでき、追い払うのは非常に困難とし、ルシファーの側近として悪魔の地位を確かなものとしていったらしいね。
つまり【レビィアタン】とは、統一性の無い生き物で、やはり元々は悪魔では無かったモノが「イザヤ書」の中で神が剣で切り裂き「罰して殺した」という記述(きじゅつ)があった為に、悪魔と見做(みな)されていった存在だと考えるのが妥当だね。君達ヒーローの見る夢は大きさに関わらず、尊く偉大なモノだ。相手が例え鬼の頂点であれ、不死身の海の大海獣であれ、勝たなきゃならない……。それが、この苦難困難(くなんこんなん)を乗り越えた場所に在る、命を懸けた戦いだ……。それこそが、夢を叶えるという事なんだよ。どうか、心で負けないでおくれ。どうか、運命を切り開いて進んでおくれ。いつの日も、変わらずに信じるよ。僕のヒーロー達を■▲●――
9
酒呑童子(しゅてんどうじ)の愛刀・鬼神生首大蛇(きしんなまくびおろち)の一振りに振り払われて、佐藤楓と久保史緒里は館(やかた)の庭まで戸を突き破って吹き飛ばされた――。赤い肌に灰色の頭髪を戦(そよ)がせながら、酒呑童子は高らかに嘲笑(あざわら)う。