トキトキメキメキ
『如何(どう)した、某達(それがしたち)は猛者(もさ)ではないのか、此処(ここ)に送られて来たという事は、猛者かと思ったのだが、はて、それでは只(ただ)の忌(い)み子か!』
「空扉!」
梅澤美波は〈空扉〉を出現させて、大園桃子と共に〈空扉〉の中へと走って消えた。
「来い酒呑童子っ!」
向井葉月は【トムとジェリー】の能力を発動し、超絶回避能力を授かり、鬼から逃げる者となる――。
酒呑童子はぎろり、とその十五もある眼球のうち、二つの最も大きな眼球を向井葉月へと釘付け、あごを摩(さす)った……。
『うぅむ、あの小娘……、気になるのう……。そうだ、腸(はらわた)を食おう』
「ぎゃーー腸(はらわた)食うとかって言ってるーーっ!!」向井葉月はとにかく逃げ回る。「与田ぁ、隙(すき)は作ったよ後は頼んだあぁーーっ!!」
「あいよっ!!」
与田祐希の身体から、バリンバリリン――と、凄まじい静電気が立ち始めた……。
「天の神成(かみなり)っ!! この屋敷の天井をやぶって、あの鬼の頭に墜ちなさいっ‼‼」
ズガガアァァァン――と、勇ましい跫音(きょうおん)を立てて落雷した雷(いかづち)は、忽(たちま)ち酒呑童子の甲冑(かっちゅう)を炭と化した。
『やってくれたのう、童(わっぱ)ぁぁ……。夢生雲(むううん)っっ‼‼』
バチィン――と空気に衝撃が走った――。酒呑童子はいきり立つ気合だけで、向井葉月の【トムとジェリー】の縛りを破棄した――。
「そぉぉんな!!」向井葉月は反動で倒れ込む。「おっあぶ、……やぶ、られちゃったの……、トムとジェリー」
「誰が童(わっぱ)だ、この鬼ぃ!! 鬼っ、鬼!」与田祐希は、ぽっかりと顔を出した空に片手を向ける。「こっち来い雷雲(かみなりぐも)っ!!」
山下美月は、傷ついた左肩をそのまま垂れ下げながら、開いた右手を酒呑童子へと向けると、その凶悪な眼光と共に、手の平を圧縮するようにぎゅううと握りしめた――。
「爆裂する火炎の地獄っ! 瞬間爆炎炭化地獄(あさどら)っっ‼‼」
酒呑童子を中心部として起爆した爆発は、館(やかた)全域を破壊し、あらゆる木製の建造物を粉微塵に燃やし尽くしていく……。
激しい爆炎の煙捲(けむりま)く渦中(かちゅう)、山下美月は全身に熱耐性を持つ為、眼を見開いてそこを凝視する。
『熱い熱い、うげえがはははははっ‼‼ 某達(それがしたち)は奇術師(きじゅつし)か‼‼』
燃える園庭の池の畔(ほとり)で、大園桃子は印(いん)を結んで〈式神〉を顕現(けんげん)する――。
「六壬神課(りくじんしんか)っ‼‼ 十二天将‼ 六人の吉将(きっしょう)と六人の凶将(きょうしょう)よ!! 桃子の意思が命じる、応えよ‼‼ 吉将・天后(てんこう)っ!」
大園桃子の眼の前に、着物を纏った大柄で優美な女神が現れた。その名は天后(てんこう)、天帝の妃であり、全ての事象を象徴する神であり、疫病や盗賊から人々を守護する癒しと改心の力を使う。航海の守護神でもある。
天后は佐藤楓と久保史緒里の折れた手脚の骨を不思議な力で癒した……。
天后は消える。
「ハァ……でんちゃん、しおちゃん、大丈夫う?」
大園桃子は深呼吸をしながら、二人の顔色をじっと見つめる。
「すっ…ごい! 治ってる!」久保史緒里は、跳び上がるように立ち上がった。「桃ちゃんすっごいよ~!」
「これでまた、あの鬼に一発入れられるかな」佐藤楓も、膝を掃いながら立ち上がった。「でも強すぎるぞ、あの鬼……。戦線復帰しても、そんなに役に立てないかも」
「何言ってんの、みんなでなきゃもっと無理でしょうが」
梅澤美波はそう強気に微笑んで、〈空扉〉を出現させた――。
「さあ、みんなのことに戻って戦うよ!!」
「ほいさ!」久保史緒里は気合を入れる。
「桃子がんばる」大園桃子は誠実な眼つきをする。「負けないもん!」
「刀だけじゃ敵わないなぁ……」
佐藤楓は、〈空扉〉を潜りながら呟いた。
阪口珠美は【流行(トレンド)】の能力を行使する――。
「酒呑童子、お前は私達に何も攻撃したくなくなる!!」
皆が息を呑む……。
『嫌じゃあ……、うげえがはははは、そうら死ねぇぇい首狩久楽(くびかりくだら)ぁぁっ‼‼』
酒呑童子の放った愛刀・鬼神生首大蛇の一振りから、幾重にも連なった衝撃波の斬撃が飛び込んでくる――。
久保史緒里は〈空扉〉から顔を突き出しながら叫ぶ。
「跳ね返すっ‼‼」
神秘的な力が発生し、斬撃となった衝撃波の半分が、跳ね返って酒呑童子の胸板を切り裂いた。
向井葉月と阪口珠美が、衝撃波の斬撃に巻き込まれて血飛沫を上げながら後方へと吹き飛んでいった。
梅澤美波は巨大な岩石を持ち上げながら叫ぶ。
「桃子、飛ばされたメンバーの回復お願い!!」
「了解!!」
「どうりゃあ‼‼」
梅澤美波は剛力で巨大な岩石を酒呑童子へと投げつけた。
中村麗乃は【心を奪うもの】の能力を発動させる。
「動くなーーっ‼‼」
酒呑童子の動きが、ぴたり――と止まる。
しかし、岩石は酒呑童子の姿を貫通して地へと衝突した。
『うぐふふふ、毒酒・朝霧(どくしゅあさぎり)――』
「なんではずれたっ‼‼」
「何っ!?」
「何だこれっ‼‼」
「見えなくなるっ‼?」
酒呑童子の姿は歪んで揺らめき、紫色の霧の中へと消えていった……。
『切り刻まれるがいいひひひ、首狩久楽(くびかりくだら)ぁっ‼‼』
何処からともなく飛んできた衝撃波の斬撃に、ヒーロー達は血飛沫を上げて激しく転がる……。
山下美月は、紫色の霧を睨みつけ、歯を食いしばって上半身を起き上がらせる。
「霧なら水分っ、炎っ‼‼ じょーーーはつさせろぉぉぉーーっ‼‼」
次の瞬間、爆音と共に立ち昇った爆炎が、紫色の霧を一瞬で焼き落とした。
赤い肌をした上半身が剥き出しの酒呑童子の姿が、露わになる――。
山下美月は眼を瞑(つぶ)って叫ぶ……。
「与田ぁぁぁーーーっ‼‼‼」
雷雲に乗り込んで上空にいた与田祐希は、酒呑童子の巨体を見下ろす。
「そこか……。祐希の仲間達に、よくも、やってくれたなぁ……。もう怒ったとよ‼‼ 修羅・即死感電稲妻百連撃(カミナリ・ゴロゴロ)ーーっっ‼‼」
ガガカァ、ドグォォン、ドドゴォゴォォン――。酒呑童子の脳天から直撃する鳴り止まぬ百の落雷は、酒呑童子の館に剥きだした鉄を次々と溶解していく――。
岩本蓮加は館の方をを振り返る――。
「え何ぃ? え、てかあっち大丈夫ぅ!! 何今の音、普通じゃないよっ!」
吉田綾乃クリスティーは異形の鬼共に、二機のガトリングガンで機銃掃射しながら真剣な表情で、叫ぶ。
「待って、てかこっちも全然死なないよこいつらっ、さっきっから分裂してるもんっ‼‼」
「確かにっ!」
蓮加は連続してデザート・イーグルで異形の鬼共の脳天を撃ち抜いていく。
一発、脳天から外れた銃弾が、異形の鬼の目玉を貫いた。
蓮加は冷静に失敗弾を見つめる――。眼玉を撃ち抜かれた異形の鬼は、光の粒子に包まれて、泡ぶくとなって赤い空気に消えていった……。