トキトキメキメキ
「吉田ぁ、眼だっ、眼を狙って撃つだよ!!」蓮加は射撃しながら喜びにはにかんだ。「眼を撃つだよ吉田ぁ‼‼」
「待って待って、私ガトリングっすよっ‼?」吉田綾乃クリスティーは焦る。「そんなちっこい的(まと)、狙えるわけねえだしっ‼‼」
辛うじて致命傷を避けた伊藤理々杏と、梅澤美波と、大園桃子と、山下美月と、佐藤楓は、瀕死の向井葉月と中村麗乃を庇うように、集結して酒呑童子を睨みつける。
舞い上がった土煙の中から、酒呑童子の影が朧(おぼろ)げに浮かび上がった。
『妖術・大多羅法師(ようじゅつだいだらぼっち)――』
突如、与田祐希の乗る雷雲を掴んだ巨大な手は、泥の塊のような巨躯を持つのっぺらぼうの仕業であった。
「うわあお!! でっかい何かが来た!!」
与田祐希は叫ぶ。
「来い雷雲(かみなりぐも)っ!!」
新しい雷雲を呼び寄せた与田祐希は、握り潰された雷雲から飛び降り、すぐ下で待ち受けていた雷雲に跳び移った。
巨大な泥ののっぺらぼうは、50メートルは背丈があるだろうか……。ゆっくりとした動作だが、その握力や腕力はおそらく計り知れないだろう。
「祐希がこのでかいのやっていい!!」
梅澤美波は赤い空を見上げて微笑んだ。
「暴れてやんな、与田ぁーー!!」
「オ、ッケイ~‼‼」与田祐希は指を振り上げる。「電電蒸死(でんでんむし)っ‼‼」
酒呑童子は高らかに嘲笑(あざわら)う……。
伊藤理々杏は【幻獣憑依】の能力を発動させる――。
「かぜのりっ‼‼」
不思議な力は、味方全員に付与された。――これにより、ヒーロー全員が今から風の特性を持つ攻撃を受けると、ダメージを受けずに攻撃力が上がる不思議な状態になった。
酒呑童子は愛刀・鬼神生首大蛇で次々と衝撃波を巻き起こしていく。
『これで終いか……、首狩久楽(くびかりくだら)ぁ‼‼ 鎌鼬(かまいたち)の舞い‼‼』
伊藤理々杏達は衝撃波の抵抗を全く受けずに、その攻撃力をぐんと上げていく。
「よしっ!」伊藤理々杏は構える。「けっこうポケモンの技効くじゃあん!! よっし、じゃあ動きを止めるから、行ける人は信じて突っ込んで!! キノコのほうし‼‼」
睡眠効果のある胞子がパラパラと天空から降り注ぎ、間もなく酒呑童子は瞬間的に地響きのような鼾(いびき)をかいて眠りに落ちた。
巨大な土塊(つちくれ)ののっぺらぼうも瞬間的な眠りに落ちたようであった。
「次は…、カミナリの…ふるこー、す……むにゃ……くうぅー……」
「与田も寝たあぁぁーー!!」
梅澤美波は上空を見上げて驚愕(きょうがく)した。
佐藤楓は機械の身体から蒸気を噴き出して、背中の突起からジェット噴射で眠る酒呑童子へと跳び込んでいく。
「おうりゃあああああーーーっ‼‼」
「だいふんげきーーっ‼‼」
伊藤理々杏もその身に爆炎を纏って酒呑童子に突っ込んでいった――。
爆炎で体当たりし、酒呑童子の胸板が焦げ付くのを見定めてから、伊藤理々杏は大急ぎで後方へと引き返していく。――佐藤楓は、大きく振りかぶった刀で、酒呑童子の身体を袈裟懸(けさが)けに切り裂く――。
「この日輪刀はぁぁ鬼を斬るっ刀ぁぁっ!! ヒノカミ神楽・演舞一閃(ヒノカミかぐらえんぶいっせん)っ‼‼」
眼を開けた酒呑童子の胴体は焼け焦げ、その火傷の傷口からは夥(おびただ)しい出血が噴き出した……。
「なめんなよ鬼ぃぃっっ‼」
酒呑童子が胴体の出血を両手で止めようと動いた時、真横から梅澤美波が跳び込んできて、固く握りしめた鉄拳で、酒呑童子のあごを粉砕した。
動じない酒呑童子へと、梅澤美波とほぼ同時に飛び掛かっていた伊藤理々杏は、紫色の長い爪で、鬼の顔面をひっ裂く――。
「フェイタルクローーっ‼‼ ハァ、また眠れっ!!」
酒呑童子の体内には猛毒が発生したが、酒呑童子は苦しむ前に、激しい眠気に再び瞼(まぶた)を閉じた……。
阪口珠美は息切れをしながら、精神力を振り絞って【流行(トレンド)】の力を発動させる。
「寝たままっ、できるだけ寝るのが今の最先端っハァ‼‼」
大園桃子は今だと、必死な形相で印を結び〈式神〉を顕現(けんげん)する。
「六壬神課(りくじんしんか)っ‼‼ 十二天将‼ 六人の吉将(きっしょう)と六人の凶将(きょうしょう)よ!! 桃子の意思が命じる、応えよ‼‼ 凶将・騰蛇(とうだ)っ‼‼ ハァ凶将・朱雀(すざく)っ‼‼」
酒呑童子の眼前に出現した羽の生えたその蛇の妖(あやかし)は、炎を纏っている。騰蛇(とうだ)は、猛烈に燃え上がる長い胴体で酒呑童子に巻きついた――。
天空から降臨(こうりん)した炎を纏い翼を広げた霊獣・朱雀(すざく)は、その強大なる羽ばたきで、焼け付く熱風の怪風を起こし、騰蛇ごと焼き尽くすかのようにして、姿を消した……。
眼を覚ました酒呑童子の灰色の頭髪には炎が燃え上がり、その巨体からは煙が昇っている。その顔は憤怒に満ち満ちていた――。
ヒーロー達は身構える。
「なんかやってくるよ!!」梅澤美波は叫んだ。
「跳ね返してやる!」久保史緒里は身構えた。
「ハァ、なんとか凌(しの)いで、ハァ大技いったるわー」伊藤理々杏は疲れ切った笑みでにやけた。
「でもこれ以上攻撃くらえないよもう!!」佐藤楓は、向井葉月と中村麗乃を庇うように立った。「何が来るの! あの剣の攻撃ならまた跳ね返せるんじゃない!?」
「ヤバい、身体中、痛すぎるかも……」阪口珠美は、脚を踏ん張らせて、防御態勢に入る。
山下美月は、すたぼろの身体を無理やりに立ち上がらせて「させるか……、ああああああああ‼‼‼」と雄叫(おたけ)びを上げた――。
皆が振り返る中――。山下美月は燃える酒呑童子に、手の平を向け、次の瞬間、それを強烈に握りしめた――。
「いい加減っ焼かれて燃え尽きて爆(は)ぜて消えろっ‼‼ 燃え盛る紅い鳥(フラミンゴ)ぉぉぉーーっっ‼‼」
突如として大爆発した巨大な爆炎は、超絶的な熱気に渦を巻きながら異形の酒呑童子を業火に包み込んだ――。
10
蓮加は三メートル以上もある異形の鬼の肩に乗り、頭上からダダン――と銃弾を撃ち込んだ。そのまま後方へと宙返りしながら、ダンダンダンダンダン――と五連発で異形の鬼共の眼玉をぶち抜いた。
「フウ、……ハ~まだいんのかい」
蓮加は巨大な青鬼と背中合わせに立ち、溜息をついて、伸ばした拳銃で青鬼の眼玉をノールックで撃ち抜いた。
「うおらあ、おらああああああーーっっ‼‼」
吉田綾乃クリスティーは二機のガトリングガンをフル稼働させて、褐色の巨大な鬼共を一斉射撃していく。
「眼ん玉に当たれえぇぇぇーーっ‼‼ うりゃああぁぁーーっ‼‼」
小山のような土塊(つちくれ)ののっぺらぼうは、ズシィン――と、地響きと土煙を上げながら大地に膝(ひざ)をついて、血反吐(ちへど)のような土砂を吐き出した……。
与田祐希は振り上げていた両手を、天空で轟轟(ごうごう)と稲光(いなびかり)する雷光(らいこう)と共に、一気に下へと振り下ろす――。
「感電死(バサシ)っっ‼‼」