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トキトキメキメキ

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 極大の稲妻は、音速を超えて凄まじい火力で土塊ののっぺらぼうを一瞬のうちに炭の塊(かたまり)へと焦がした――。
 ぼろぼろと風に崩れていく小山のような炭の塊……。
「はいよくできました!」
 与田祐希はすぐさま、四つん這(ば)いに伏(ふ)せて、雷雲の上から、すぐ近くで激しい戦闘を繰り広げている仲間達を見下ろした。

 酒呑童子は躍起(やっき)になって愛刀・鬼神生首大蛇でヒーロー達を薙ぎ払おうとする。

『引き千切れろぉぉ小娘共がぁ首狩久楽(くびかりくだら)ぁぁ‼‼‼ 鎌鼬(かまいたち)の舞い‼‼』

 久保史緒里は【神の言葉】を行使して、猛烈な素早き波動で襲い来る幾重にも重なる斬撃に叫ぶ――。
「大地がせり上がって壁となる‼‼」
 ボゴココォン――。土砂を持ち上げるように、大地は盛り上がり、壁となって衝撃波に相殺された……。
 佐藤楓は土の壁が粉砕されると同時に、酒呑童子の懐(ふところ)へと潜り込んでいた。
「ヒノカミ神楽・炎舞(ヒノカミかぐらえんぶ)っ‼‼」
 炎の弧(こ)を描く刀は、酒呑童子の俄(にわ)かに繋がっていた胴体を再び袈裟(けさ)懸(が)けに焦がしながら切り裂いた――。
 真っ赤な鮮血が飛び散る……。

『ぎぃぃ、憎らしや、小娘めえぇ、逃がすかぁぁ‼‼』

「ちくしょうダメかあっ!!」
 巨大な毛むくじゃらの素手で、佐藤楓の首を血を吹き上げる酒呑童子が掴もうとした瞬間、中村麗乃の声が聞こえた。
「動くなぁ‼‼」
 中村麗乃の【心を奪うもの】の能力発動で、酒呑童子は一瞬だけ、身動きを硬直させた。その隙に、佐藤楓はジェット噴射で後方へと引き返す――。
「麗乃ちゃんサンキュっ!!」
「間に合ってよかった……」
 中村麗乃は、膝をついて、溜息をついた。
 大園桃子は印を結び、大刀を振り下ろそうと力を蓄えている酒呑童子を強く睨みつける。
「六壬神課(りくじんしんか)っ‼‼ 十二天将‼ 六人の吉将(きっしょう)と六人の凶将(きょうしょう)よ!! ハァ桃子の意思が命じる、応えよ‼‼ 凶将・勾陳(こうじん)っ‼‼ ハァ凶将・白虎(びゃっこ)っ‼‼」
 闘争心旺盛な戦いの神・勾陳はその鎧を纏う金色の大蛇の姿を出現させると同時に、同じ背丈の酒呑童子へと即刻牙を剥いた。


『くく生温(なまぬる)し……、妖術・明鏡止水(ようじゅつめいきょうしすい)――』

 しかし勾陣(こうじん)の鋭(するど)く鋭利(えいり)な牙は、酒呑童子の研ぎ澄まされた無駄の無い身のかわしで届きはしない。
 だが、身動きを悟(さと)れぬならと強(したた)かに隙(すき)をつき狙う、細長く白き毛皮に包まれた猛虎、白虎の獰猛(どうもう)な咆哮(ほうこう)に、酒呑童子の片方の鼓膜(こまく)が破かれた――。

『糞餓鬼共(くそがきども)めえ、えぇぇい、即刻首(そっこくくび)を刎(は)ねてくれようぞ、我が愛刀・鬼神生首大蛇(きしんなまくびおろち)の切れ味をとくと味わいがいいわぁ、首狩久楽(くびかりくだら)ぁぁ‼‼ 鎌鼬(かまいたち)の宴(うたげ)ぇぇ‼‼‼』

 斬撃の嵐が衝撃波となって押し寄せる時――、大園桃子は全身全霊をもってして印を結ぶ――。
「六壬神課(りくじんしんか)っ‼‼ 十二天将‼ 六人の吉将(きっしょう)と六人の凶将(きょうしょう)よ!! 桃子の意思が命じる、応えよ‼‼ 凶将・玄武っ‼‼ ハァ、ハァ吉将・青龍っっ‼‼‼」
 脚の長い巨大な甲羅を持った霊獣・玄武は、その鉄壁の甲羅で全ての衝撃波を割割る――。そして玄武の尾である数匹の蟒蛇が、その体積を無限に伸ばしうねり絡まりながら、酒呑童子の喉笛を目掛けて牙を剥く。
 しかし、酒呑童子の愛刀・鬼神生首大蛇の一振りで、蟒蛇共は切断されてしまった。

『何ぃぃ、糞(くそ)ぉぐうあああぎいやあぁぁぁーーっ‼‼』

 たまらずに酒呑童子は悲鳴を上げた――。片方の腕を、長い舌を持つ緑色の龍、青龍に根こそぎ食い千切られたのであった。
 噴水のような血飛沫(ちしぶき)が飛び散る……――。
 伊藤理々杏はクラッチング・スタートの体勢をとり、力を溜め込む――。
 脈を打つ獰猛な痛みに耐えながら、酒呑童子は血で滴るその唇を怪しく笑わせた。

『そろそろ、決着をつけようか契約(けいやく)の猛者(もさ)達よ……、酒器・夕闇(しゅきゆうやみ)――』

「ぶちかましっっ‼‼」
 伊藤理々杏は猛スピードでスタートダッシュする――。しかし、酒呑童子の腰に巻き付けれた瓢箪(ひょうたん)から、黒い靄が広がり、すぐさまそれは夕闇のように酒呑童子の巨体を闇にそっくりと隠した。
 伊藤理々杏の技は擦り抜けるように失敗に終わり、伊藤理々杏はそのまま猛スピードで館の瓦礫(がれき)の下に頭から突っ込んだ。
 向井葉月は【猛獣使い】の能力を発動して、左腕のばっくりと開いた傷口を庇いながら、夕闇に向かって叫ぶ。――〈幻獣憑依〉状態の伊藤理々杏だけには、〈猛獣使い〉モードの向井葉月の声が届く……。
「聞こえる理々杏ぁ! バリアーラッシュで炎の中心点に体当たり、そのままバリアーラッシュ状態で、でんこうせっかでこっちに戻ってきて‼‼」
「っOK‼‼」
 瓦礫を吹き飛ばしながら、伊藤理々杏は身の回りに小型のバリアを張り巡らせ、黒煙の中心部に強烈な体当たりをしてから、電光石火に如(ごと)く、後方へと後退した。
 中村麗乃は、傷ついた肉体を奮(ふる)い立たせるかの如き形相で、大きな瞳を見開いて顕現(けんげん)する――。
「酒呑童子ハァ、っ動くなああぁぁ‼‼」
 一瞬の光――。
 阪口珠美は、残った力を振り絞るようにして【才能変化】の能力を行使する。
「酒呑童子ぃ、木の属性になれしっ‼‼」
 また、夕闇全体がぴかっと一瞬だけ光を帯びた。
「おっしゃ……」阪口珠美は、しゃがみ込む。「ハァ……、今あいつは火と電気に弱いハァ……、与田ぁぁ、美月ぃぃぃ‼‼」
「うあああああああぁぁぁーーー‼‼」山下美月は寝転がったままで、上半身を起こして、伸ばした右手を握りしめる。「爆炎となってしょぉぉきゃくしろぉぉ地獄の業火(じごくのごうか)ぁぁーーっっ‼‼」
 与田祐希は【遊び心】の能力を発動させて、野生の勘で酒呑童子の居場所を察知する。そのまま、雷雲の上から与田祐希は、思い切り振り上げた右手の指先を、見えない酒呑童子へと勢いよく振り下ろす――。
「最後の力ぁぁぁーーっ焼肉三死舞(やきにくさんしまい)ぃぃっっ‼‼‼」
 地獄から召喚・権限された漆黒の業火が茫茫(ぼうぼう)と天へと燃え盛る中――、野太い巨大な雷が三度、轟轟(ごうごう)と連続して落雷した――。
「空扉っ!!」
 梅澤美波は〈空扉〉を創り出し、仲間達に必死な形相で訴えかける。
「こっちも焼け死んじゃうっ、みんな早く中に入ってっ‼‼」

『どぐぉんがぁぁずわあ焼けるぅぅああぐ、熱いぃぃぶるるぐんぐ、焼けていくぅぅううがあああぁぁ眼がぁぁ、眼がぁ焼けるぅがあああぁぁ‼‼‼』

 園庭の湖の畔(ほとり)で〈空扉〉を抜けた後、久保史緒里は【神の言葉】を行使して、振り返りざまに叫ぶ。
作品名:トキトキメキメキ 作家名:タンポポ